闇の子供達〜希望の在り処



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




 クラヴィスとアンジェリークの残した子供達が聖地にやって来て2週間ばかりが経った。
さすが幼い子供の適応力はすばらしく、今では聖地の中(宮殿の中)を駆けずり回っている毎日だ。
二人はジュリアスの屋敷に暮らしており、子供好きのディアは毎日かいがいしく世話をしている。
妹はオスカーが気に入ったらしく、執務室ばかりかデート中のオスカーまでもおいかけまわし、
そのせいで最近のオスカーは、健全な毎日を不本意ながらも送っている。
 兄の方は、特に気に入った人物がいる訳ではない様で、マルセルやランディ、ゼフェル
などと共に見かける事が多い。ただ、オリヴィエだけは泣いたところを見られたせいか
妙に気恥ずかしいようである。

 また、ジュリアスが密かにクラヴィス達の捜索を始めてからも2週間程が経った。
が、これといった情報は何も手にしてはいなかった。
何しろ二人が乗っていたと思われる飛行機の爆発事故は、下界でも綿密に調べられているが
爆発原因さえもまだ明らかにされていない、難事件だったのだ。

 ジュリアスはここのところ、ぐっすりと眠れていない夜を過ごしていたが
その状況をいっぺんに変える情報を持って、オスカーが屋敷を訪れた。

 「一体どうしたのだ、オスカー」
 「はい。実はクラヴィス様達が乗った飛行機の出発した空港のある惑星に
  偶然にも視察に降りまして、その際自分なりに調査をして来たのですが‥。
  まずは、これを御覧になっていただけますか?」
 「これは?」
 「クラヴィス様達の乗った便の”乗客名簿”のコピーです。
  これを見ていくと、あの二人の兄妹の名前はあるのですが、どう探しても
  クラヴィス様とアンジェリーク様のお名前がないんです」
 「なんだと!?」
 「しかし、あの二人がこんな嘘をいうとも思えません。
  この名簿が正しいものだとすると、この便は二人分の空席を持ったまま
  出発したという事になりますが、その時間に空港にいた者の話によりますと
  その便は20名近くのキャンセル待ちの客がいたようなんです」

ジュリアスは険しい表情のまま、名簿のコピーを睨みオスカーの話をきいた。

 「しかも、爆発した飛行機の残骸から奇跡的に、乗客達の荷物が発見されたのですが
  その中には持ち主不明の荷物が2つ出て来たようです。
  この時点での不明というのは、この名簿とあわせてという事になりますが
  その荷物の中から、クラヴィス様達の身分が分かる物があったようで
  それで、お二人も死亡した、という事になっているようです」

ジュリアスはオスカーの話を一通り聞き終わると、険しい表情のまま口を開いた。

 「‥‥‥これは、何か作為的なものを感じる。
  もし、この爆発事態が二人を狙ってなされたものだとしたら
  二人が生きている可能性はかなり高くなったな」
 「ええ。この一見を見る限りでいえば、お二人は何かの事件に巻き込まれた様です」
 「‥‥‥御苦労であった、オスカー。後は私に任せてそなたは執務に戻ると良い」
 「はっ」

 オスカーが部屋を出た後、ジュリアスはもう一度乗客名簿に目を通した。
何度見てもクラヴィスとアンジェリークの名前はない。
用紙を握りしめて、ジュリアスは遠くを見つめた‥‥。

 「クラヴィスよ‥‥‥。一体そなたは、今どこにいるのだ‥‥‥?」




















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 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ん‥‥」
 「‥起きたか、アンジェリーク‥‥」
 「‥クラヴィス。‥‥今私達どこにいるの?」
 「わからぬ。ただ、先ほどまでこの壁の向こうに生き物の気配を感じていたのだが
  この部屋事移動されてからは、辺りに何も感じぬ」
 「‥‥‥‥そう‥。あの子達、ちゃんと生き延びたかしら‥。
  あの事故からもうかなりの時間が経ってるはず‥‥。二人とも‥‥、
  私達が死んだと思って、辛い思いをしてるんじゃないかしら‥‥」
 「大丈夫だ。きっとじき迎えに行ける‥」
 「そうね‥‥‥」

 その時、重く閉じられた錠前付きのドアが開かれた。
魔の力で封印や呪がかかっているならまだしも、こういった原始的な物で
監禁されてしまうとクラヴィスにもアンジェリークにもどうしようもなくお手上げだった。

 「出ろ。女の方だけだ」
 「なっ!?」
 「一体彼女に何のようだ」
 「用があるのはお前の体だけだ。用無しの女がどうなるか、お前も男なら分かるだろう」

 その瞬間、この男達がどういった事をアンジェリークにするつもりなのか
即座にわかったクラヴィスはこれ以上ないという程、きつい表情で睨み付けた。

 「お前達は何か一つ思い違いをしているようだ。
  私がお前達などに大人しく捕まっているのは、彼女の身の安全が保証されているからであって
  彼女に何かあれば、このまま大人しくしている理由も無くなるのだぞ。
  わかったらすぐに、アンジェリークから手を放せ」
 「‥‥っく‥‥。フ、今のお前に一体何ができるんだ?。捕われているのは自分だって事を
  もう少し自覚した方がいいんじゃないのか?」
 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 アンジェリークの手を放そうとしない男に向かって、クラヴィスはゆっくりと近付くと
右手を男の額に当てた。

 「‥‥‥眠れ‥。夢も見ない程に深く‥‥深く‥」

 男は力なくその場に崩れ落ちた。その様子にドアの外で一部始終を見ていた別の男は
焦って倒れた男を揺すったが、うんともすんとも言わなかった。

 「サクリアを無くして久しいとはいえ、このくらいなら今の私にも問題ない」

クラヴィスはアンジェリークの腕を掴むと、強く引き寄せ自分の後ろに隠した。

 「くそっ!!。きさま一体何をしたんだ!?」
 「別に何も‥‥‥。その者はただ眠っているだけだ。一昼夜こんこんと眠るだけ‥‥‥」
 「‥‥‥まあいい。お前達はこのままここで大人しくしていろ!!」

 再びドアに錠前がかけられると、男の足音は遠くに消えていった。
気丈にしていても不安を隠しきれないアンジェリークは、
クラヴィスの背中にしがみついて震えていた。

 「クラヴィス‥‥‥‥‥」
 「大丈夫だ。私がついている限り‥‥‥」
 「‥‥‥ええ‥‥‥」





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闇の子供達〜絶望の行方






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 ガチャアアアァァァン!!!

 その音が鳴り響いたのは夜中の3時も回った頃だった。
宮殿内の夜の警護にあたっていた衛兵達が急いで音のした方向へ走ってみると、
そこは女王陛下の寝室で、近くの部屋で休みをとっていたメイド達も、ドアのまわりに集まっていた。

 「女王陛下!!。御無事ですか、陛下!!!」

 かけ集まった皆が心配する中静かにドアは開かれ、中からは寝巻き姿の
第256代アンジェリーク・リモージュ女王陛下が現われた。

 「陛下!!。何ごとですか?」
 「ごめんなさい、こんな時間に‥‥。鏡が倒れてしまったの。片付けてもらえるかしら?」
 「はい。ただいま」

 陛下は皆に悟られぬよう平静を装っていたが、その白い顔は蒼白とし
手は震え、明らかに何かを隠していた。
陛下はその足で補佐官ロザリアの部屋に向かうと、ドアをたたきロザリアをおこした。

 「何事ですの、陛下?。‥‥このような時間に‥‥」
 「大変なの、ロザリア‥‥。私どうしよう??。」
 「??」





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次の日、ゼフェル、オスカー、ルヴァの3人が女王陛下の元へと赴いた。

 「急なお召し、一体何事でしょうか?」
 「‥‥実は昨夜、陛下の寝室に侵入者がありまして‥‥」
 「寝室に!?。宮殿の警備は万全のはず‥‥。一体何者が‥‥?」
 「それは実体のない精神体のようなものでした。
  新月の晩に私の命を貰いに来ると言い残し鏡の中へと消えていったのです」
 「陛下のお命を?」
 「新月まで後3日‥‥。王立研究院にも要請しましたが事が事なだけに
  守護聖様方にも御助力頂きたいのです」
 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 「‥‥‥‥え〜‥‥‥‥精神体のようなものだったとおっしゃいましたが‥‥
  実体ではなく精神体で侵入したとなりますと、いくつかの理由が上がりますねぇ‥。
  まず1つは、まぁ‥これは単純に聖地の警備が厳重で実態での侵入が困難だった為‥‥。
  2つは、実体ではなく、精神体でしか近付けないという事。
  ‥‥もし実体が魔の力を帯びていましたら、女王陛下のサクリアが満ちる
  この聖地には強力な結界がはってあるのと同じ事。消して近付けませんからね‥‥。
  そして3つ目が、もう実体が存在しないという場合ですね‥‥。
  この場合ですと、精神体というよりは”魂”という言い方が正しいですが‥‥」
 「どれにしても、陛下の命を狙ってるとなると穏やかじゃねぇな‥‥。
  でもわざわざ、寝室まで忍びこんどいて何もせずに帰ったって事は
  その日でないとまずい理由でもあるんだろ?。
  それまでは大丈夫だと思うけど、宮殿内外の警備は厳重にしておくよ。
  新月までには対策を考えとく」
 「よろしくお願いしますわ」





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3人は無言のまま廊下を歩いていた。それぞれに侵入者に対して考えを深めていた。

 「‥‥‥‥とんだ事が起こったな‥‥」
 「‥‥ええ、女王陛下の御命を狙うなどとは、なんとも‥‥‥」
 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 「ゼフェル、さっきから何を黙っている?。首座としてのお前の意見はどうなんだ?。
  これから一体どうする?」
 「‥‥う〜〜‥‥‥ん‥‥、俺ちょっと話があるからジュリアスンとこ行ってくる。
  二人は研究院へ行って詳しい情報と、現在の状況を聞いといてくれ」
 「わかった」

 二人と別れるとゼフェルは足をジュリアスの屋敷へと向けた。



 門を抜けると奥の方から子供達の声が聞こえ、そちらに足を向けると
めざとくゼフェルを見つけた妹が笑顔で駆け寄って来た。

 「あ!!。ゼーフェルーー!!」
 「よお」
 「ねえねえ、遊びに来たの?」
 「悪りーな、仕事で来たんだ。‥‥‥ディア!、ジュリアスは?」
 「この時間なら部屋で調べものをしているわ」
 「サンキュ」

 名残惜しそうにゼフェルの足にしがみつく妹の腕を離して
ゼフェルは屋敷の中、ジュリアスの部屋に向かった。





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ジュリアスを見つけると簡潔に事のいきさつを話し始めた‥‥。

 「‥‥‥‥なんと。陛下の御命を狙う輩がおるというのか‥‥」
 「ああ。それで俺の考えに対するあんたの意見を聞きたいんだけど‥‥。
  ‥‥クラヴィス達を狙ったやつらと、陛下を狙うやつら、同じだと思うか?」
 「‥‥‥‥‥う‥‥‥む‥‥。確かに偶然とは思えぬほど、時が重なっているし
  そう考えられなくもないが‥‥‥」
 「精神体で忍び込んで来って事はさ、実体があるにしても無いにしてもその方法でしか
  近付けなかったんじゃねーかな‥。聖地に入るにはかなり厳しいチェックもあるしよ。
  でも、クラヴィスなら顔パスで入れんだろ?」
 「聖地に忍び込むには女王陛下のサクリアにも馴れ、なおかつ魔の者を受け入れられる体が必要になる。
  ‥‥安らぎを司る闇の守護聖であったクラヴィスの体はまさにうってつけという訳か‥」
 「どう思う?」

ゼフェルの問いにしばし考え込むように俯いたジュリアスはくっと顔を上げて言葉を続けた。

 「‥‥‥‥実は、クラヴィス達の行方を追ううちにある宗教団体が浮び上がって来たのだが‥」
 「宗教団体?」
 「ああ、かなり過激で片寄った考えを持つ団体なのだが、その者達が陛下の御命を狙い
  自らの崇拝する”神”を王の座にあげるつもりでいたと仮定すれば‥‥‥」
 「無理のある話じゃねぇよな‥‥」
 「‥しかし、下界の者に体と精神を切り離す事が出来、もしくは同時に
  他の者の肉体を操る事のできる者など‥‥いるとは思えぬ」
 「とにかく、陛下を狙ってるやつらは3日後の新月の時にもう一度来るらしいから
  そん時におめーにも居てもらいてぇんだけど‥‥」
 「なんの役にたてるかは解らぬが‥‥‥わかった」
 「じゃぁ、3日後に」

 ゼフェルは話を終えると忙しそうに屋敷を後にした。





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闇の子供達〜声なき声






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 新月の夜、時計の針が11時を回ろうとも宮殿内謁見の間にはまだ煌々と明かりが灯されていた。
そこには心配そうな面持ちの女王陛下、補佐官ロザリア、相談役のジュリアス
首座のゼフェル、オスカーと何人かの衛兵達の影が、部屋の中心から外側へとのびていた。
宮殿のまわりには兵士達がずらりと並び、他の守護聖達も別室にて待機していた。
全員が謁見の間に集まらないのは、女王と守護聖全員に何かあってはとの
考えのあっての事だった。

 「‥‥このまま何も起きなければよいのだが‥‥」
 「ええ。しかし、この警備の中をどう侵入してくるつもりなのでしょうか」

 2本の時計の針が重なる頃、扉が急に閉められ閉めきられた部屋の中に一陣の風が
吹いて、室内の明かりを数個消した。
天井のステンドグラスが割れてわずかに残った明かりに灯されながら降りてきた
そのシルエットは‥‥‥‥、

 「クラヴィス!!!」
 『御機嫌麗しく、女王陛下に皆様方‥‥‥‥。これほどまでの歓迎を頂けるとは‥‥思いもしませんでしたよ‥』
 「‥‥‥‥‥‥‥‥ゼフェル。そなたの予想が的中したな」
 「‥‥ああ。‥‥チッ‥‥、嫌なもんばっかり当たりやがるぜ‥。‥‥最悪だ‥‥」
 『女王陛下‥‥‥、これまでの人数を御集めになられて、一体どう為さる御考えで?。
  まさか、この私をどうにかする為ではありますまいに‥‥』
 「おい!!!。その男には女の連れが居たはずだ!!。どうした!?」
 『大事にお預かりしていますよ。あの女が我々の手の内にある限り‥‥
  この男の体は私の思うがままの操り人形‥‥‥』

 まるでガラス玉が水の中に落ちるようにゆらゆらと舞い降りた、クラヴィスの体を操る者は
無気味な笑みを浮かべながら部屋の中を見渡した。
ゼフェルはまず近くに居たオスカーに小声で囁いた。

 「‥オスカー、何とかしてあいつを気絶させられねえかな‥」
 「しかしそれでは、アンジェリークの身が‥‥」
 「今のこの状況じゃ、いくらあいつでも外との連絡なんて出来ねえだろ。
  少し手荒だがこんな状況じゃクラヴィスの野郎も解るだろ」
 「わかった‥‥」

 『御相談事は終わりましたか?。私をどうにかしようとしても無駄な事ですよ。
  体のスペアぐらいは用意してありますから‥‥。
  それに‥この体がどうにかなって困るのはあなた方ではないですか?』
 「!!」
 「軽口もそこまでだな。それ以上クラヴィス様の体を操らせる訳にはいかん」
 「待て!!オスカー!!!」

 ゼフェルは向かっていったオスカーのマントの端を引っ張って止め、
その反動で後ろによろけたオスカーをそのまま扉まで引き戻した。

 「何をするんだ!?」
 「アンジェリークを捜せ。あいつの言ってたスペアってのはその事だろう。
  きっとこの聖地に連れてきてるはずだ」
 「しかし!!」
 「じれってーな!!連れが無事になれば訳わかんねー奴の言いなりになる様な男じゃねぇだろ!!
  クラヴィスは!!。ーーさっさと行けっての!!」

ゼフェルは渋るオスカーを扉の外に蹴り出し扉を閉めた。

 『こんどは何を企んだのですか?』
 「何でもねぇよ。喧嘩っぱやい奴がいなくなってやりやすくなったのはそっちの方だろ」
   (‥‥早くしろよ‥‥オスカー‥‥。)





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 「‥‥ったく!。ゼフェルの奴、思いっきり人を足げにして‥‥!!。
  大体あいつは目上の者を敬うという気持ちが欠如し過ぎだ。事が落ち着いたら憶えてろよ‥!」

 オスカーは蹴られた箇所をさすりながら、宮殿の外へと走っていた。
新月のせいで影も出来ぬほどの暗闇の中を、遠くの街灯の明かりを頼りに
王立研究院へと向かった。
 聖地にはいるものは全て、人でも物でも王立研究院を通る。
研究院は税関の役目も持っており、危険物や不審人物のチェックもしていて
ここを通らずに聖地にはいる事は、不可能と言っていい。

 研究院につくと、残っていた者にここ数日で訪れた者の中で”クラヴィス”と共に
来た者の行方を聞いた所、本日付けの荷物の中に
時間外でチェックの済んでないクラヴィス名義の荷物が倉庫にあると言う。
 オスカーは非常灯のみの薄暗い廊下を倉庫へと向かった。
倉庫につくと案の定、見なれぬ人物が数人あるコンテナのまわりをうろついていた。

 「おい!。こんな時間一体そこで何をしている!?」
 「‥‥クラヴィス様の御命令でこの荷物を見はっております」
 「‥‥偶然だな。俺はそれを探していたんだ」

 男達がオスカーに襲い掛かるよりも早く、1対多数にも関わらず無駄のない動きで
男達を気絶させた。
物音の無くなった倉庫の中には人の気配は全くなく、静まり返っていた。

 「まいったな、見当違いか?。‥誰か居ないか!?」

オスカーの呼び掛けにも何の反応もなく、他の場所へと移動しようとしたが‥、

 「‥コンテナの中身を一応確認しておくか‥‥」

 頑丈にかけられた鍵を、腰の剣を鞘ごと取り外し力任せに壊し戸を開けると
中には気を失い、ぴくりとも動かないアンジェリークが横たわっていた。

 「アンジェリーク様!!!!」

 オスカーは焦って駆け寄り、首に手をあてるとそこには力強く波打つ脈があり
ホッと力の抜けたオスカーはその場にへたり込んだ。
 アンジェリークを拘束していた物を外し、ゆっくりと抱き上げ怪我を調べたが
外傷は何もなく、揺すっても意識を戻さない事から薬か何かで眠らされているようであった。

 「‥とにかく、どこか安全な所へ御移ししなければ‥‥」

 オスカーは床に転がる不審者を警備員に任せ、アンジェリークを抱き上げると
そこから一番近い守護聖の屋敷へと向かった。





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 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥う‥‥‥オスカー?。‥‥」
 「御気付きになられましたか。もう大丈夫です。御安心ください。
  今ゆっくり休める所へ向かってますので、もう暫くの御辛抱を‥‥」
 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥クラヴィス‥‥‥‥クラヴィスは!!??」
 「‥クラヴィス様は‥‥」
 「行方を知っているのね?。お願い、私をそこへ連れて行って?」
 「しかし、アンジェリーク様の御体も大分疲れておいでですし、とても危険です」
 「私の事はいいから‥‥彼のところへ連れて行って‥‥。お願い」
 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 オスカーは懇願するアンジェリークを押し切れずに、行く先を謁見の間へと変えた。





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 「きゃあああああ!!」

 女王陛下を狙った禍々しい気の塊は、女王の前に飛び出した補佐官ロザリアを直撃し
ロザリアの体は一瞬宙に浮いて地に落ちた。

 「ロザリア!!!」

 意識は残るものの身動きが出来ずにうずくまっているロザリアに女王とジュリアスが
駆け寄った。

 『おやおや‥‥。女王陛下も酷な事をしますね。
  貴方さえ私の頼みを聞いて下されば、彼女もこんな怪我をする事もなかったでしょうに。
  御自分の安全の為に平気で他人を犠牲にするなどとは‥‥たいした決断力ですね』
 「違う!!‥‥‥私は‥‥」
 「いけません陛下。奴の挑発にのっては‥‥。
  陛下に何かあればどれほどに大変な事になるか‥‥」
 「でも‥‥ならどうすれば‥?」

 その時堅く閉められた扉が開きオスカーが姿を現した。
その後ろに見える人影は‥‥‥‥。

 「アンジェリーク!!!」
 「‥止めて。これ以上自分を陥れるような事しないで!!」
 「オスカー!!。なんでこんなアブねーとこに連れてきてんだ!?」
 「私が無理に頼んだからよ‥‥。オスカーを責めないで‥」
 『先程出て行った男‥‥‥‥。そうか、そーいう事だったのか‥‥』

 それまで不適な笑みを顔に浮かべていたその者は、アンジェリークを見るや
どんどん顔を険しくしていった。

 『目障りだ‥女‥。お前がいるとこの体が上手く言う事を聞かん。
  やはりもっと早くに始末しておくべきだった‥‥』
 「え?」

 アンジェリークがゼフェルからクラヴィスに視線を移すよりも早く
クラヴィスを操る影はアンジェリークに向けて、殺気を込めた衝撃波を放った。

 「アンジェリーク様!!!」

 とっさにアンジェリークを守るように覆い被さったオスカーに
先ほどのロザリアに向けたものよりも、数段威力のこもった衝撃波が襲った。
アンジェリークの息の根をとめる程、又オスカーの体を強く痛めつけるのに十分な
その衝撃波は、盾になったオスカーの体ごと二人を持ち上げ床へと叩き付けた。

 「アンジェリーク!!。オスカー!!」

 ロザリアを抱えてジュリアスはその場を動けなかったが
ゼフェルが二人に駆け寄った。

 「大丈夫か!!??」
 「‥‥えぇ、私はなんとか‥‥‥。でもオスカーが‥」

 オスカーはぐったりとうなだれ、意識を無くしていたがアンジェリークを
抱える腕は力を緩めずにいた為、アンジェリークに大したダメージはなかった。

 「ゼフェル、オスカーをお願い‥‥。倒れる時に頭を強く打ったから、動かさないで‥‥」
 「待て!。一体何するつもりだ!?」
 「クラヴィスを起こす」

 薬で思うように動かない体を引きずるようにしながら、アンジェリークは女王に歩み寄る
クラヴィスの前に飛び出した。

 『どけ!!。邪魔をするな』
 「いいえ!。どかないわ。彼の体を還して!!」

アンジェリークは操られるクラヴィスの体に強くしがみついた。

 「クラヴィス!!。私はもう大丈夫だから、戻ってきて!!」
 『フッ‥‥無駄な事を‥。今更何をいっても効かん。
  この男の意識はとうに深くに封じ込めたのだ。この体はもはや私の物だ!!』
 「違う!。私の愛した人はあなたみたいな人に好き勝手をさせておく程
  やわな人じゃないわ!!」

 その時その場にいる全員の目に、アンジェリークの両腕からクラヴィスへと流れる
金色のオーラが映った。
光の加減か目の錯覚か、もう女王ではなくなりサクリアも失くしたはずの
アンジェリークから‥‥‥。

 『‥‥うう‥‥そ‥そんなばかな‥!!。きさまぁ‥‥何故‥!??』

 やがて叫び声を上げながら押し出されるように、黒い影が
耐えきれずにクラヴィスの体から抜け出た。
ガクッと倒れ込むクラヴィスを受け止め、アンジェリークはその顔を覗き込んだ。

 「‥‥‥ア‥‥ンジェ‥リーク‥‥‥」
 「クラヴィス!!。‥‥よかった‥‥」
 「‥‥面倒をかけた‥‥」

 『くそっ!!。この状態になってしまっては何も出来ん。1度引くしかない‥』
 「そうはさせるか!!」

 ゼフェルの合図と共に謁見の間周辺には光のサクリアが満ちた。
案の定、黒い影は光のサクリアを突破する事が出来ず、部屋の隅へと追い込まれた。

 「念のために準備しといて正解だったぜ。
  こんな事もあろうかとこの部屋の外に光の守護聖を待機させといたんだよ」
 「ゼフェル!!」
 「2度とこんなマネ出来ねーように、きれいに消滅させる!」
 「待って!!」
 「アンジェリーク??」

アンジェリークは黒い影に手をのばすと、ゼフェルを制止させた。

 「いらっしゃい!!。このままじゃ、また永い時間彷徨い続けるか
  無理に消滅させられるか‥‥2つに1つしか残されていない‥‥」
 「何を言い出すのだ!!。そんな事をしたら‥‥」
 「そいつは陛下の命を狙ったんだぜ!?。あんたらもそれに巻き込まれたんだろうが!!」
 「だめよ。‥‥貴方達は彼の闇が何も見えていない‥‥。
  何の為にあなた達の体にサクリアが宿っているのか‥‥。
  何の為にサクリアが存在しているのか‥‥理解し直す必要があるわね‥」
 「‥‥だけど!!」
 「陛下‥‥あなたも。‥‥‥あなたがもう少し冷静になって彼の本当の望みを読み取れていたら
  ここまでの大事にはならなかったはずです」
 「‥!本当の願い”?」
 「彼の魂を消滅させる事は許しません。皆、下がりなさい」

 そこには一人の女性ではなく、第255代目の女王陛下が居た。
アンジェリークの体に漂う”女王”のオーラに呑まれ、そこにいる全員が動けずにいた。

 「さあ、いらっしゃい。私が誰にもあなたに手出しはさせないから‥‥」

 アンジェリークが手を差し伸べ柔らかに笑うと、八方ふさがりの黒い影は
アンジェリークの中に溶け入った。





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闇の子供達〜光の道






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 アンジェリークの体に溶け込んだ黒い影は、その体を操ろうとざわざわと蠢き
彼女の精神を攻撃した。
 アンジェリークはクラヴィスの側から離れると、黒い影に呑まれてしまわぬよう
必死で自我を保っている。

 「‥‥暴れないで‥‥‥いい子だから‥‥。
  あなたが忘れてしまったものを、思い出す手伝いをさせて‥‥」
 「‥‥アンジェリーク‥」
 「‥まだ私を操ろうとしてる。彼が自分から心を開いてくれなきゃ‥‥」
 「‥ゼフェル」
 「え?」
 「ディルエルダーを連れてきてくれるか‥。あの子はアンジェリークの助けになる‥」
 「わかった」

ゼフェルは部屋を飛び出し、大急ぎで走っていった。

 「‥‥皆ごめんなさい‥‥。久し振りの再会がこんな事になってしまって‥」
 「いや‥‥そなた達が無事生きていただけでも‥‥」
 「‥混乱させたわね‥‥ジュリアス」

やがて遠くの方からばたばたと走るゼフェルの足音と、ディルエルダーの声が聞こえてきた。

 「‥‥‥‥‥‥‥いたい‥‥‥いたいってばゼフェル様!!!。
  僕は荷物じゃないんだから、脇に抱えるのやめて下さいよ!!!」
 「非常事態で急いでンだよ!!。大人しくしろって!」

 謁見の間についてやっと降ろされたディルエルダーが目にした者は、
懐かしいクラヴィスとアンジェリークの姿だった。

 「クラヴィス様 !!!。アンジェリーク様!!!。やっぱり生きていらしたんですね!!」
 「ディルエルダー。再会の挨拶は後だ。‥‥今すぐアンジェリークにサクリアを送ってくれ」
 「‥‥え?‥。‥‥‥‥えと‥」

いきなりの事に戸惑うディルエルダーの頭を、ゼフェルが後ろから小突いた。

 「ほら!、早くしろって」
 「‥‥‥は‥‥はい‥。解りました」

ディルエルダーはアンジェリークの側まで歩み寄り、手をかざした。

 「‥‥夜の闇に包まれて訪れるものは”恐怖”ではなくて”安らぎ”‥‥。
  あなたを包む闇があなたのすべてを癒すよう‥‥‥。あなたの為に‥‥‥」

 ディルエルダーが唱えた言葉と共にアンジェリークに安らぎのサクリアが満ちていった。
そしてそれはアンジェリークの中の黒い影にも‥‥‥‥。

 「‥‥落ちついた?。‥‥じゃあゆっくりと過去へ遡ってみましょう?」





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私は、いつから自分がこの苦しみの中でもがいているのかを忘れてしまった。
そう考える事事態が馬鹿らしく、いつしか考えるのを止めた。
この苦しみから助かりたいと願う心を麻痺させ
この闇の中から導いて欲しいとすがる心を麻痺させ
たった一人の孤独を寂しいと思う心を麻痺させて、暗闇の中を漂っていた。

いつしか気がつけば私を照らす一つの光があった。
針の先ほどの小さな小さな光だったが、その光は麻痺した心を溶かし
私の脳裏に深く差し込んだ。
気を許せば見失ってしまいそうな光を追って、私は広い宇宙と永い時間を旅した。

光を探し求める。‥‥‥助けてもらう為に。
光を追い求める。‥‥‥導いてもらう為に。

しかしその光は一瞬にして消えて、私は苦しみの中にまた迷った。
そして消えた光を闇の中で探すうちに、何の為に光を追っていたのかを忘れてしまった。

光を探し求める。‥‥‥何の為に?。
光を追い求める。‥‥‥何の為に?。

その時私の心を侵食した闇は、私が麻痺させたもう一つの心を溶かした。
他人を傷つけ殺める事の、歪んだ歓びを‥。
そして私の問いに心が答えたのだ。

光を探し求める。‥‥‥何の為に?。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥コロスタメニ‥‥‥‥‥‥‥‥。

そして私の目に再び光が差し込んだ。
それは針の先ほどに小さな光ではなく、産まれたばかりのような強い光‥‥。

光を探し求める。‥‥‥殺す為に。
光を追い求める。‥‥‥消し去る為に。

 「違う!!。あなたは彷徨い続ける苦しみから、解放して欲しくて
  光を追っていたはず‥‥!!。‥‥‥救いの光を求めて‥‥」

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥救い?。

 「その小さな光は、サクリアを失くす直前の私。
  あなたを導くのは私の”女王”としての最後の務め‥‥やり残した事だわ‥。
  指し示してあげる。あなたが向かうべき本当の場所のある方向を‥‥。
  ‥‥送り出してあげるだけの力はもう失くしてしまったけど、
  最後まで見送っているわ‥‥。‥‥‥‥‥‥‥‥‥だから‥‥‥
  ‥‥‥勇気を出して踏み出して‥‥‥‥‥」





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 すると、アンジェリークの体から突き出るように影が弾けて散った。
そしてひとすじの光が天空をめがけてアンジェリークの体の中から飛び出していった。

 「‥‥‥‥すげえ‥‥。もうサクリアも何もねーのに‥‥魂を転生させるなんて‥‥」
 「‥‥‥‥陛下‥‥‥」
 (サクリアも何も関係ない‥‥。生まれついての真の女王である資質‥‥‥)

 その場にいる誰もがアンジェリークを見つめたまま呆然としていた。
サクリアがあるから女王と呼ばれるのではない、本当の意味での”女王”を‥‥。

 無理をして魂をその身に取り込んだ事で、精神力を消耗したアンジェリークは
そのまま脱力感に襲われて崩れたが、クラヴィスがそれを受け止めた。
それまでその部屋を包んでいた緊迫した空気はすでになく、
いつもと同じく穏やかに流れる夜の時間が、謁見の間に残る恐怖を拭い去っていた。




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ディルエルダー大活躍です。ディルの台詞は適当です。
ゲーム中でサクリアを大陸に送る時、それぞれ台詞があったと思うんですが、
親密度で変わるから、呪文、という程の物じゃないんだな、と創作しました。






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