2度目の恋



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




 どれくらい時間がたっただろうか?
独り部屋の中でテーブルに突っ伏しながら目を瞑って考え込んでいるヴィクトールは
それすらも解らないし、気がまわらない。


 ”あの人の想いを受け止めるべきか?。自分の想いを打ち明けるべきか?”


 ”それとも‥‥‥”


 何度も何度も同じ疑問が頭の中を駆け巡って、思考が詰まってしまってきている。
いい考えが何も思い浮かばない。
 欲望のままに想いのたけを彼女にぶつけてしまおうか‥。きっと彼女は笑ってくれるだろう。
しかし、彼女はそこらに居るごく普通の女性ではない。聖地で貴い役目を持っていた高貴な方。
王立派遣軍で将軍すらも勤め上げ、何度も戦地に赴き軍の中でもかなり位の高くなりつつある自分が
わざわざボディーガードにつくくらいだ。きっと普通なら言葉をかわす事も叶わないほどの
方なのかもしれない。それらは重要機密に関わるからと、上層部や面接をしたディア様からは
教えては頂けなかったが、彼女の情報が厳重になればなるほどその存在が重くヴィクトールの上に
のしかかる。


 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


 ”やはり、出来ない。”


 悲しいかな、ヴィクトールには長い軍の中での生活で自分を押さえる事が身に染みてしまっている。
部下の命も、後ろに守っている人達の命もその肩に背負わなければならない瞬間で
自分の考えや感情を最優先してはならないのだ。
常に全体を見通し皆にとって何が一番よいのかを考えていなくてはならない。
敵兵に情けをかけて逃がしたところで、その兵が味方を連れて襲ってこないとも限らないのだ。

 自分の思いは常に殺して後回しにする。
軍人としての悲しい癖が、今一つヴィクトールの勇気を押さえ付けていた。
 ならば何故、席をたってその事をアンジェリーク様に伝えに行かないのか?
”何といわれようともあなたのお気持ちには答えられません”‥‥と。
そうすれば、この胸の中に渦巻く言い様のない重苦しい風は止むのではないか?
自分は間違った事は考えていない。軍人として何一つ間違った事は‥‥‥。


 「‥‥軍人として‥‥」


 ふと、ヴィクトールは顔を上げた。自分は今までアンジェリーク様に軍人として
護衛の為に派遣された人間として礼節を持って接してきた。
心の中にどんな想いがあろうともそれを隠して…。
 しかし、アンジェリーク様は護衛の人間に対する態度を自分にとった事はなかった。
先立ってドアを開けた時も、一歩下がって彼女の行動を見守っていた時も、
「ありがとう」と礼を述べて、「天気がいい」とか「風が気持ちいい」とか
他愛もない事を自分に話し掛けては、笑顔を向けてくれていた。
何時だって自分を対等な1人の人間として接してくれていた。
 具合を悪くして倒られた時も側につく私の看病疲れなどを気にかけてくれ、
また自分が風邪をひいた時も、ずっと側についていて下さった。


 「アンジェリーク様は、自分を1人の人間として気持ちを話して下さったのに
  俺はそれに”軍人”として”答えるのか?。
  ‥‥対等な人間として、1人の男として‥‥‥」


 ”彼女に伝えるべき事があるはずだ”


 ヴィクトールの瞳にやっと一つの強い光が灯った。視線をドアに向けて席をたつ。
一直線にドアを出て上の階のアンジェリークの部屋に向かった。






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 「‥‥‥‥‥‥」


 部屋を訪れたヴィクトールを、アンジェリークは無言で中に招き入れた。
表情は強張り、ヴィクトールからの言葉をじっと待っている。
彼女も独りの時間に色々考え込んだらしく、さっきほどの勢いはない。


 「‥‥‥あの、自分はその‥‥‥あまり言葉が達者な方ではないので
  その‥‥結論からいいますと‥」
 「‥‥‥」


ヴィクトールは深く息をすって一息で話し始めた。


 「自分は‥‥俺は、あなたに惹かれています。何時からか解りませんが
  あなたの事を‥‥好‥‥きになり始めている」
 「ヴィクトール‥‥」
 「あなたは位の高い方だ。女王府からは何も聞かなかったが、あなたの立ち居振る舞いや
  何というか‥‥オーラのようなものが何所か貴さを感じさせた」
 「‥‥‥‥」
 「俺はあなたの護衛を命令されて、こうしてここにいる訳ですが‥‥」
 「‥‥‥‥」
 「それでもあなたに傾いていく気持ちを押さえられなかった。
  衝動にかられてあんな事もしてしまって、後悔してます。
  20代半ばも過ぎた男のする事ではない。まして想いを寄せる相手に‥‥」
 「‥そんな‥‥」


 ヴィクトールはこのリゾート地でも絶対に外さなかった手袋をとった。
傷だらけのその両手をアンジェリークに向ける。


 「俺は、この傷の数だけ多くの他人の命を奪ってきた。
  まだ年端もゆかないような敵の少年兵や、守れなかった部下達‥‥。
  こんな汚れた俺でもあなたが構わないというなら‥‥‥」
 「‥‥ヴィクトール」
 「あなたの側に居させて欲しい」
 「!!」


 ヴィクトールの心臓はもう爆発でもしてしまいそうなほど、激しく鼓動していた。
両の瞳は目の前のアンジェリークを確かに捕らえているのに、その表情はぼやけて解らなかった。
 ふと両手にあたたかさを感じたヴィクトールは、視線を手に向けると、
消えない傷だらけのその手に、アンジェリークは優しく口づけをしていた。
まるで愛しいものに誓いをたてるように‥‥。


 「あなたが真っ赤に汚れていても、ヴィクトール‥‥
  あなたがあなたである限り、私の気持ちは変わらないわ。
  だってこの傷の分だけ、あなたも傷付いたんでしょう?」
 「アンジェリーク様!」


アンジェリークは人さし指をヴィクトールの唇に当てた。


 「もう様はいらないわ。私はただの女で、あなたはただの男」


 その胸の中にアンジェリークはゆっくりと身を任せた。
辿々しく背中にまわるヴィクトールの腕が、何となくくすぐったく感じ笑みが浮かぶ。
頬をすり寄せてヴィクトールの匂いを感じていた。


 「‥そうだ。あなたにいっておきたい事があるのだけど‥」
 「はい?」
 「私、聖地では‥‥‥」


今度はヴィクトールがその唇を封じた。


 「あなたが今の私を受け入れてくれたように、俺も昔のあなたがどうであろうと気にしない。
  過去にあなたがどんな事をしていたとしても、それらに関係なく
  俺はあなたに惹かれたのだから‥‥」
 「ヴィクトール‥‥」


 見つめあったそのアンジェリークの瞳は、しっとりと潤んでいた。
その滴がこぼれ切らないうちに、ヴィクトールは静かに顔を寄せて唇を重ねた。

アンジェリークとのキスは微かに涙の味がした。


 「凄くいいムードだけど、まだ始まったばかりなのよね」
 「ええ。これからあなたの事をゆっくりと知っていく。
  何が好きで、何が嫌いで、どんな事にどんな思いを寄せるのか‥‥」
 「どんな事が楽しくて、どんな事が苦手で、何にあなたが感動したりするのか‥‥
  その心の内を‥‥‥」


 ”そしてできるなら‥‥その全てを解りあえるようになりたい‥‥”


 アンジェリークが聖地を出てから半年弱の時間が経っていた。
クラヴィスと恋に堕ちた時のような、激しく心奪われるようなものではなく
じわじわと染みてくるように、徐々に心の中を満たしてくるような2度目の恋。
 抱き締められた自分のからだが、愛おしくなってくるような初めての感情に
アンジェリークは嬉しさを、素直にヴィクトールに表わしていた。







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