jour et nuit



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




 その日、聖地はばたばたと落ち着きなく動き回っていた。
今日は、現女王が即位されてから初めての女王試験の為に、新たに協力を要請した
3人の教官達が聖地入りする日。
3人を迎え、女王候補達を迎えてからやっと、聖地に隣接した飛空都市は
女王試験の為、聖地を少し離れて空に漂う事となる。
女王試験が終わるまでの間、聖地及び飛空都市の時間軸は主星とそれを同じにする。
 女王のサクリアは何のゆるぎもなく宇宙を隅々までその慈愛溢れる御力で満たしている。
新しい女王など、どこに必要かと皆が声をそろえる中、その真意は明らかにされていない。
 だが女王陛下の御考えに、我々の為にならぬ事があるはずもないと、
疑問を抱えたままでの女王試験。それらに今回特別に女王候補達を教育する教官が選ばれ
女王候補達よりも早く聖地に訪れる事となっているのだが‥‥‥。


 「あ〜もう!。猫の手も借りたいとはこう時の事をいうのかしら」


忙しそうに右に左に動き回る紫色の髪の女王補佐官は、珍しく弱言を口にしていた。


 「‥‥‥ロザリア、俺にできる事があれば何か手伝おうか?」
 「本当ですか、オスカー様!。とても助かりますわ」


 視察で下界におりた際の報告書を提出しに来たオスカーは、慌ただしく動くロザリアに
この男にしては珍しく、愛の言葉も無しに声をかけた。


 「もう時間が過ぎてしまっているのですけど、教官の方々がお見えになっているはずですの。
  わたくしがお迎えに行く事になっているのですが、この通りまだここを離れられなくて‥」
 「では俺が代わりに迎えに行こう」
 「ありがとうございます。お一人で来る方もいらっしゃるんですけど
  色々な準備の為に数人で来ている方もいらっしゃいますので、まず
  学芸館の方に御案内して下さいますか?。その後そこからすぐ側にあるお屋敷の方に。
  教官の方達はそれぞれの方の申し出により、共同生活になります。
  その事はもうお伝えしてありますが、もう一度確認をとって下さると助かりますわ」
 「わかった。」


オスカーは書類をロザリアに手渡すと、青いマントを翻して部屋を出ていった。







 ロザリアにいわれた場所には2名の教官達が揃っていた。

 1人は小さな手荷物だけを持って独りで来たようだ。
もう1人は、外見はマルセルと同じくらいか、しかし中身はマルセルよりも落ち着いているように見える。
2名ほどの供の者と思われる人物がその後ろに控えている。‥‥が。


 「これで全員か?」
 「後お一人いらっしゃいます。少し遅れてこられると御連絡ありましたが‥。」
 「そうか」


 オスカーはまず到着している2名を先に案内する事にした。
その事を補佐官に伝えるように伝令を頼み、その間にもし訪れたら
少し待ってもらうように指事も出して、2名の教官を学芸館に案内した。

 少し早めに寮となる屋敷にまで二人を連れ、急ぎ足でもとの所にまで戻ってくると
最期の1人がちょうどついた時間だったみたいで、乗ってきていた車から手荷物をおろしていた。
 年の頃なら30もいっているような、風格のある、軍服が妙に馴染んでいる男性が
オスカーに気付き頭を下げた。その動作はまさしく軍の中のものであるようだ。


 「遅れまして申し訳ありません。今回の女王試験で女王陛下から女王候補の教官を
  仰せつかりました、ヴィクトールと申します」
 「炎の守護聖のオスカーだ。正式には明日謁見の間で紹介されるはずだったんだが
  今日ここに来る予定だった女王補佐官が思いのほか忙しくてな。
  俺が代わりに迎えにきたんだが‥‥‥」


オスカーはヴィクトールの後ろに見え隠れする影に目をやった。


 「お前は連れの者は1人か?」
 「はい。妻のアンジェリークです」
 「‥‥‥アンジェリーク‥‥」



 ヴィクトールのその言葉と共に、彼の後ろから姿を現したのは、
肩が隠れる程度に切りそろえられた金の髪に、大きく膨れたお腹‥‥‥‥。


 「妊婦?」
 「お久し振りです。オスカー様」
 「!!!!!!」


 深々と下げた頭が上がった瞬間、オスカーは過去これほどのものはないという程の
衝撃を受けていた。


 「へっっっっ!!」
 「!御無沙汰しております。お変わりないようで‥‥」
 「あ‥‥??え??」


 その異様なまでのオスカーの驚き様にヴィクトールは少し戸惑いながらも
妻を紹介する言葉を続けた。


 「あー、妻は以前聖地に居た事がありますので、オスカー様も御存じかと思いますが」
 「えっっっ??」


 今だ驚きの表情のオスカーに向かって、アンジェリークは一歩前に出てその顔を
ヴィクトールに見えない所まで進むと、眉間にしわを寄せてオスカーに無言の合図を送った。


 「あ‥‥‥あー。」


一つ小さなせき払いをして、オスカーは気を取り直してヴィクトールを学芸館に案内した。







 「大変だ〜〜」


 オスカーは麗らかな日射しに照らされた庭園を、マントをなびかせて走っていた。
その表情はまさに’必死”であったという。


 「一体誰にお伝えするべきか‥‥。そもそもジュリアス様はこの事を御存じだったのだろうか。
  いや、御存じなら一言おっしゃって下さるはずだ」


オスカーはそのままジュリアスの執務室へと走り去っていった。






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 「失礼します!!」
 「オスカーか。どうした。何事だ?」


 何時にないオスカーの慌てぶりにジュリアスも少し戸惑いを見せながら、
表向きは平常心を保って、静かに問いかけた。


 「本日聖地入りした教官のヴィクトールの事なんですけど。
  その‥‥御夫人の事をジュリアス様は何か御存じですか?」
 「??。うむ。あの男か。家族がいるのであればその者も共に聖地で生活する事もできると
  伝えたのだが、婦人の状態が不安定だからとそれを断られた。‥‥それがどうした?」
 「実は‥‥‥」


 オスカーは部屋の中であるにも関わらず、当たりを見渡して他に人が居ない事を確認すると
机をまわってジュリアスにそっと耳打ちした。


 「んなっっっ!!」
 「やはりジュリアス様も御存じありませんでしたか」
 「そのような話は聞いてはおらん!!」


 ジュリアスは豪華な飾りの重厚な椅子を後ろへ転がしながら立ち上がった。
この人物にしては珍しく動揺し、慌てふためいている。先程のオスカーと同じリアクション。
だが、オスカーもそれは同じ。


 「どっどっど‥どうしたら良いのだ!?」
 「‥どうもこうも、ヴィクトールは何も知らない様子だったので、
  姑くは知らぬ振りがよいのではないかと‥‥」
 「その事なんだけど‥‥」
 「「うわぁっ!!!!!!!」」


 いきなり後ろからかけられた声に、二人は揃って飛び上がった。
その様子に声をかけた本人の少し驚いた様子である。


 「扉を開けっ放しで、なんて話をしてるのかしら」
 「「もっ申し訳ありません!!」」

ジュリアスとオスカーは揃って深く頭を下げた。その勢いでオスカーのマントが宙を舞う。


 「その事なんだけど、彼には昔の事を何もいっていないの。
  聖地に居た事だけは知ってるんだけど、何をしていたかは教えてないわ。
  だから知らない振りをしてくれる?。他の皆にもそう伝えてもらえるかしら」
 「はいっ!。承知いたしました!」
 「それで、ディアはまだ居るかしら?」
 「はい。俺の屋敷に‥‥」
 「そう。お邪魔しても構わないわね?」
 「もちろんです!!。あ、お送り致します」
 「結構よオスカー。まだ執務の時間の筈よ」
 「しかし、その御体では‥‥」
 「あなたも彼と同じ事を言うのね。大丈夫よ、病気じゃないんだから。病人扱いはしないで頂戴」
 「はいっっっ!!。申し訳ございません!!」


 驚きと緊張と‥‥色んな物が混ざりあってすっかり昔の、現女王が候補生として聖地に
訪れる前の心境に戻ってしまっているジュリアスとオスカーの態度を見て、
アンジェリークは困ったように笑みを浮かべた。


 「‥‥あの調子で本当に大丈夫かしら?」


 少々の心配を残しつつ、アンジェリークはジュリアスの執務室を静かに出ていった。
その後ろ姿にも頭を下げていたジュリアスとオスカーは、扉の閉まる音を聞いて
やっと頭を上げたが、まだ少しぼーっとしてしまっている。


 「‥‥‥‥‥‥‥‥」
 「‥‥‥‥‥‥っは!。この事をすぐに皆にも伝えなければ!!。
  オスカー、そなたは下の階の連中を頼めるか」
 「っわかりました!」


 オスカーは急ぎ足で部屋を飛び出し、勢い良く階段を降りていく音がジュリアスにも聞こえた。
そのジュリアスもこの階に居る他の守護聖達、ランディと、リュミエールと、隣人の
クラヴィスにも伝えなければならないし、その後はロザリアにも伝えておいた方がいいだろう。






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 ジュリアスが部屋を出たところで、偶然にも廊下にリュミエールの歩く姿があった。
ジュリアスはそれを呼び止め、先程の話をする。


 「そうですか‥‥‥。解りました、では、そのように致しましょう。
  この事をクラヴィス様には?」
 「いや、まだだが」


そういってジュリアスはクラヴィスの執務室の扉に目を向けた。


 「もしよろしければ、わたくしの口からお伝え致しましょうか‥」
 「‥‥いや、それならばランディを見つけてこの事を伝えてくれぬか。
  下の階の者達はオスカーに任せてある。私はその後ロザリアの所にも行かねばならんのでな」
 「わかりました。では‥‥」


 リュミエールは優雅に礼をしてランディの執務室の方向に歩いていった。
ジュリアスはクラヴィスの部屋の前まで足を進めて、ふとその前で立ち止まった。


 「‥‥あの者は感がよい。私がここにこうしている事ももう気付いているかもしれん」


 ジュリアスはクラヴィスとアンジェリークの事を知っている。まだ彼女が候補生だった頃の事も
そしてクラヴィスが他の女性を選んだ時の、彼の苦悩とアンジェリークの苦悩と
両方見て知っている為、なんとも複雑な気分だった。
 もう大分時間も経っているし、今さらこだわりもしないはずだが、何からどう切り出したものか
と少し扉の前で考え込んでいると、小さな風がジュリアスの頬を撫でた。
顔をあげると扉は開かれ、部屋の主がそこに立っている。


 「‥‥お前か‥‥。先程から隣が騒がしかったが、一体私に何のようだ‥‥」
 「あ‥‥ああ」


 クラヴィスは扉を開け放したままで、部屋の中に戻りいつものソファーに腰掛けた。
今さっきまでしていたらしいタロットカードを、再び手にかける。


 「‥‥‥‥‥‥‥どうした」


 いつまで経っても中に入ってこないジュリアスに。クラヴィスは一言投げ付けると
ジュリアスは静かに扉を閉めて、光の射さない部屋の中に進み入った。


 「‥‥‥‥‥‥‥」
 「‥‥‥‥アンジェリークの事か」
 「何故それを!。もう会ったのか?」
 「‥いや。先程水晶が気紛れに彼女の姿を写し出した。
  そのすぐ後にお前が私の所に訪れて‥‥言いにくそうに口を閉じている。
  ‥‥それらから予想するのは容易い」
 「そうか‥‥」


 ジュリアスはふっと溜め息を吐いて、静かに喋りだした。いつものような口調ではなく
この男の中で精一杯の気遣いをして‥‥。


 「今回の女王試験に3人の協力者を招いた事はそなたも知っているであろう。
  その中の1人、ヴィクトールという男の妻が‥‥‥‥‥その
  アンジェリークだったそうだ。迎えに行ったオスカーが確認した。」
 「‥‥‥‥‥‥」
 「しかし、自分が「前女王陛下」であった事は表立って欲しくないそうだ。
  知らぬ振りをして欲しいと、先程私の執務室にまでやってきた。
  そなたの事だ。皆の居る前で彼女に話し掛ける事はないと思うが‥‥」
 「‥‥‥それで、アンジェリークは今どこに‥‥」
 「オスカーの私邸であろう。ディアの事を聞かれたのでな」
 「‥‥‥‥‥‥‥そうか」


 クラヴィスはそれ以上何も喋らなかった。タロットをめくる手も止まり、
どことなく視線を泳がせて瞳を閉じた。


 「‥‥‥‥‥‥まだ、逢いたいと思うか?」
 「‥何故そのような事を」
 「‥‥‥‥なら、もうなんでもないとでも?
  他の者ならまだしも、この私の目をごまかせるとでも思っているのか。
  ‥‥彼女は子を身ごもっていたそうだ。
  クラヴィス‥‥、今さら波風をたてるような事はするな。
  お前の為にもならん。アンジェリークの為にも、‥‥‥彼女の為にもな」
 「‥‥‥‥‥‥‥‥」


 ジュリアスはそれをいい終えると、クラヴィスの返事を待たずに部屋を出ていった。
静かに戸が閉められ、外の灯りが再び遮断されて、いつもの暗さに戻る。
その中でクラヴィスはソファから起き上がり、執務用の机の上の定位置に置いてある
水晶を眺めると、鈍い光を放ちながらも水晶は何も写さなかった。






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 その頃アンジェリークは、ディアと久し振りの会話を楽しみ時間を惜しみながらも
早めの帰路についた。ヴィクトールの新しく始まる生活の準備を手伝う為にここまでついて来たのに
夫は身重の妻を案じてそれらを全部、自分で済ましてしまうだろう。
とりあえずは学芸館の中の彼用の執務室の片づけから先に始めるように言っておいたが
思わぬスピードでそれを片付けてしまう恐れもある。
アンジェリークは足元に気をつけながらも、帰り道を急いでいたが‥‥‥、


 「‥?‥‥」


 帰り道の途中、庭園を出て少し歩いた木立の中に懐かしい影を目にした。
微動だにせずにじっとこちらを見ている。風に揺れるその黒髪は彼女が知っていたよりも
ずっと短くなっていた。


 「‥‥‥クラヴィス‥‥」


 アンジェリークは足を止めてゆっくりとクラヴィスの方へと歩いていった。
彼と2〜3メートル程を残して止まり、彼の瞳をじっと見入る。
 またクラヴィスも何を話すでもなくアンジェリークを見つめていた。
その瞳の中には前のような闇は無かった。アンジェリークに対する懺悔のようなものが
いまだちらほらと見える。

 クラヴィスはずっと複雑だった。
彼女が女王へと選ばれた時、彼女を無理矢理にでも連れ去る事が出来ないのを
悟った時、その憤りのないいら立ちも、悲しみも全て自分の中に閉じ込めて
外界とのかかわりを自らずっと断っていた。
 しかし、長い年月の間にアンジェリークを想う気持ちは変化して
傷付いた心を癒してくれる、別の女性と巡り逢った。彼女を選んでしまった事で
アンジェリークは深く傷付き、またそれを知ってクラヴィスも傷付いた。
 愛する相手とは違うが、かと言って気持ちが離れた訳では無い。
今でも大事に想っているアンジェリークを傷つけてしまった事への罪悪感だろうか?。

ずっと、クラヴィスの心の中は複雑な想いが引っ掛かっていた。





 お互いに黙り込んだまま見つめあっていると、アンジェリークがふいにワンピースの
ポケットからあるものを取り出したが、それはクラヴィスの位置からはよく見えずにいた。
アンジェリークはそれを目線の高さまで持ち上げて、クラヴィスに向かって差し出した。


 「‥‥‥あの時、あなたやっぱり病院にきてくれたんでしょう?
  私が聖地を降りて少し経った頃に倒れて入院した時よ‥‥」
 「‥‥‥‥‥‥」
 「”お見舞いにいらした方のお忘れ物です”って、看護婦が持って来てくれたわ」


アンジェリークの差し出した手には手の平にすっぽり納まる程の、紫水晶があった。


 「こんなもの、落として忘れるものじゃないわ。わざと落としていったの?
  これがなかったら、あの時の事、本当に夢だと想う所だったわ」
 「‥‥‥‥‥‥」
 「不思議と、これを持っているといつも穏やかな気持ちでいられた。
  危ない目にもあわなかったし、危険もまるで私を避けているみたいだったわ。
  ヴィクトールには悪いけど、お守り代わりにしてずっと肌身離さず持ってた。
  また、あなたに会えるなんて思ってもみなかったわ。
  これ‥‥‥‥返した方がいいかしら?」
 「‥‥‥‥おまえの好きにするがいい」
 「‥相変わらずね。ならこれは生まれてくる子供のお守りにするわ。今度はただの気休めね。
  だからこの紫水晶を通して、もうサクリアを送ってくれなくていいのよ」
 「!!何故それを‥‥」
 「知らないとでも想ったの?。私がまだ女王だった頃からそうだったわよね。
  夜中にこっそり、私に闇のサクリアを送ってくれていたでしょう」


 クラヴィスは女王のサクリアを無くした彼女が、サクリアを感じ取れるはずがない事を知っていた。
当てずっぽうで言うには的を得ている。確かにクラヴィスは、遠く離れた紫水晶に向かって
微量ながらも毎日サクリアを送り続けていたのだ。


 「もう私は大丈夫。ヴィクトールがいるもの。私今すっっごく幸せなのよ。
  あなたにだって心の底からそう言える‥‥。
  だから‥‥あなたは、あなたの大事な人に気を向けて、守ってあげて」
 「アンジェリーク‥‥‥」
 「同じ時間の中にいれたら友達になれたと想うわ、私達」
 「‥‥‥‥そう‥‥かもしれん」
 「‥‥クラヴィス‥‥今幸せ?」


 その台詞にクラヴィスは長く目を閉じて、ゆっくりとまぶたを開けると
穏やかな表情で応えた。


 「‥‥‥ああ」
 「そう、よかった!」


 それに答えるアンジェリークも心の底からの笑みを見せる。
まっすぐにクラヴィスの瞳を見つめて‥‥目を逸らさずに‥。

 アンジェリークは別れの言葉も言わずに振り返って歩き出した。
クラヴィスはしばらくその背中を見送っていたが、自身も振り返り静かに歩き出す。
まるで心の中のわだかまりを吹っ切ったように、一歩、また一歩と今、愛する者に向かって‥。
 アンジェリークもまっすぐヴィクトールに向かって歩いていた。
クラヴィスはもう過去の人。今愛する最愛の旦那様の所へと‥‥。






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 3日後の朝、アンジェリークは再び聖地と外界を隔てる門の前にいた。
側にはヴィクトールが寄り添うようにつき、その遠い後の方では微かに桜色の髪が見えた。


 「出産に立ち会えなくて済まんな」
 「いいのよそんな事。それよりあなたはしっかりお務めを果たしてね」
 「ああ。言われるまでもない。女王陛下の御期待にそえるように恥ずかしくない仕事をする。
  だから、お前も頑張ってくれ」
 「ええ。それから、私より若くて可愛ぃ〜い女王候補生の女の子達に、心揺れたりしないでよ?」
 「何を馬鹿な事を。一回り近くも年の離れた少女だぞ。ありえない」
 「そんな事ないわよ。あのくらいの年の女の子って急激に変わっていくものなのよ。
  恋をすればみるみる綺麗になっていくわ」
 「ありえないよ」


 ヴィクトールはアンジェリークの左手をとって、その薬指にはまっている指輪に
そっと口づけをした。


 「俺の気持ちはここにあるからな。お前はそれを信じてくれさえすればいい。
  俺は絶対にそれを裏切ったりしないから‥‥」


 ヴィクトールはアンジェリークの大きなお腹を圧迫させないように気をつけながら
少し屈んで愛する妻を抱きしめた。
そのヴィクトールの頬に、アンジェリークは軽くキスをして彼の背中に腕をまわし
そしてヴィクトールもアンジェリークの背中にまわした腕に、ぐっと力を込めた。
名残惜しそうに二人は離れて、迎えにきていた車にアンジェリークは乗り込む。
車は静かに発進し、その後ろ姿をヴィクトールは見えなくなるまで見送り続けていた。


 ヴィクトールの手袋の下、左手薬指にもアンジェリークのものと同じリングがはめられている。
結婚指輪にしては珍しく外側に文字が彫ってあり、それはヴィクトールの生まれ育った土地での
一種の風習みたいなものだった。
 恋人同士、または結婚相手などに送られるものには、ほとんどにこの言葉が彫られている。




jour et nuit


 直訳すると「昼と夜」。そしてこんな意味合いが込められている。


昼も夜も、ずっとあなたと一緒にいましょう
これから何度となく私達に訪れる
昼と夜を






 そして、女王試験は始まる。虚無の空間に現れた謎の生命体。
ただ二人、その生命体の真の姿を見る事のできる少女達。
虚無の空間に命を芽生えさせ、それらを育んで行く事のできる、新たな宇宙の女王となる資質を備えた
二人の少女を迎えて‥‥‥。






≫≫≫END≪≪≪








2度目の恋←





■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■NEXT




後書き

やっと終わりましたー。完結です。は〜やでやで。
ヴィクトールとアンジェリークが恋人として付き合っていく部分は省きました、
だって、もっと長くなるんだもん。
この先は、あなたの夢の中で‥‥‥ってことで(^_^;)
本音を言いますと、最期の指輪のエピソード、ここが書きたくて頑張っていたとも言えるでしょう。
くさくてごめんなさいねー。でも、こんないわれはないけど、この指輪ホントにあるんですよ。
文字は彫ってないけど、「jour et nuit」という名前のついた指輪が。
もっとカジュアルなものですけどね。
そしてラストですー。
アンジェリークはクラヴィスと上手くいかなくても、お互いがお互いを想いあっているような
関係になると想うんですよね。恋愛の対象としてはもう見れないけど、大事な人。
ヴィクトールやクラヴィスの彼女には、嫉妬ややきもちの対象となる複雑な相手ですねー。
そして、クラヴィスの彼女。すいませんけど想像できなかったので、相手は特に特定しませんでした。
まぁ、リモージュかロザリアのどちらかでしょう。
そしてなにげに、すんごく迷ったのは‥‥‥ディアの相手。
アンジェリークの方を王道←うちのHPの中の)と変えるなら、ディアもやっぱり変えようか‥‥と
色々考えました。そしてジュリアスの次に彼女に似合いそうな相手を選んで選んで選んで
お話の中のまさにそのシーンになるまで、誰にしようか迷ってました。
そしてオスカー。
今までの女性を口説いて来たテクニックが、全て通じなさそうなディアに
オスカーは苦労してもらいましょう。
そして、ヴィクトール。
すいません。設定無視して既婚者にしてしまいました。
だって31なら結婚してても別におかしくない年だしー、私の中では
コレット&レイチェルとヴィクトールは、恋愛関係なっしんぐですから。
年の離れ具合から、本当に教師と生徒のような感じになると思うんですよね。
なのでー、ヴィクトールは既婚者です。
このお話に関してのみですが。






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