闇の子供達〜小さな愛の形



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




 例の事件から4日程たった。クラヴィス・アンジェリーク親子はまだ聖地に滞在をしており
その間に、ロザリアもやっと体を動かせる程に回復していた。
しかし、いっこうに回復の兆しを見せなかったのはオスカーである。
体の怪我は毎日鍛えている成果もあって、2〜3週間程の打撲ですんだのだが
倒れた時に頭を床に強打した事が大きく響いていた。

 「おかあさん‥‥‥オスカーまだ起きないの?」
 「‥‥ええ、早くよくなるといいんだけど‥」
 「場所が場所なだけに心配ですわね‥‥‥‥」

 オスカーの意識が戻ったと言う報告が聖地に出回ったのは、それから更に3日後の事であった。
しかし目覚めたオスカーの開口一番の言葉は‥‥‥‥‥、

 「‥‥‥‥‥‥ここはどこだ?。あんた達は?」
 「オスカー?」
 「?。何故俺の名前を知ってる。‥‥ああ、それより俺が眠っていたのはどれくらいなんだ?」
 「‥‥‥‥一週間程だ‥‥」
 「一週間??。‥‥大変だ、早く帰らないと‥!」
 「帰るって一体どこに?」
 「グレイシャの所に決まってる」
 「グレイシャ??」
 「!!」
 「一週間も留守にしてしまったんじゃ、凄く心配してるだろう‥‥。
  早く帰ってやらないと‥‥‥。‥‥‥痛っ!!」
 「まだ動いてはダメよ。2週間は安静にしてないと‥‥」
 「??何で体中がこんなに痛むんだ。俺がここにいる事と何か関係してるのか!?」
 「一体どうしたのだ!オスカー??」
 「ジュリアス‥‥悪いんだけど少しオスカーと二人きりにしてもらえないかしら」
 「アンジェリーク??」
 「‥‥‥アンジェリーク、どういう事だ」
 「お願い」

 渋るジュリアスやクラヴィスを半ば強引に部屋の外に追い出すと、アンジェリークは
ベッドの脇に近付き、真剣な顔でオスカーに向かった。

 「??一体なんなんだ」
 「‥オスカー、グレイシャの所に帰るって行ったわよね?。彼女の事何も憶えてないの?」
 「憶えて??」
 「落ち着いて聞いて。あなたは頭を強く打った事が原因で記憶が数年飛んでしまってるの。
  ここは聖地という場所であなたは”炎の守護聖”なのよ」
 「守護聖!?。俺が??。じゃあ、グレイシャは‥‥」
 「きっとじきに思い出すと思うけど、あなたは奥様が亡くなった後にここへ来たのよ」
 「亡くなった!!!???」
 「あなたはここで出逢った人達には奥様の事も、自分が結婚していた事も
  何も話していないから”グレイシャ”の事を知っている人は誰も居ないわ。
  その名前を口にしても皆が混乱するだけよ」
 「‥‥‥‥‥なら何故あんたは知ってるんだ。そんな事まで」
 「‥‥‥‥‥あなたがここに来た時、あなたから聞いたからよ。口止めもされたわ」
 「‥‥‥‥そんな‥‥‥彼女が死んだなんて‥‥‥」

 オスカーは動揺を隠せなかった。最愛の人がもう亡くなっていたという事、
自分がその頃を含めて記憶を無くしているという事の全てに‥‥。

 「こんな事をいきなり話して困惑してると思うけど、あなたは強い精神を持ってるから
  きっと乗り越えられるわ‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
  暫く一人にしてあげるから、落ち着いたら呼んでちょうだい。わかった?」
 「‥‥‥‥‥‥‥ああ」


アンジェリークが部屋を後にすると、廊下にはジュリアス達が駆け寄って事情の説明を求めてきた。

 「一体どうした事なのだ??。オスカーは何を‥‥??」
 「多分頭を打った事が問題だと思うんだけど、オスカーはここ数年の記憶を
  無くしてしまってるみたいなのよ」
 「記憶を?」
 「ええ、‥‥暫く考える時間を上げて」
 「‥‥‥‥記憶喪失だなんて‥‥。元に戻れるのかしら‥‥」
 「‥‥‥‥一時的なものかもしれぬし、そうではないかもしれぬ‥‥。
  少し時間をおいてみてみるしかあるまい‥‥‥」





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 体の調子を取り戻したオスカーは自分の私邸へと戻されたが、記憶の方は相変わらずだった。
いや、徐々に思い出している事は思い出しているようではあったが、
数年分の無くした記憶を一日置きに一日分ずつ‥‥といったスローペースで‥‥。

 もちろんの事、その間の守護聖としての仕事は完全にストップされていた。
自らの中にサクリアがある事も自覚していない状態では、それは何の意味も持たず
できる限りの書類提出などは、ルヴァが代筆していたがそれも限界があった。

 一方のオスカーは体も完全に完治し、意識を取り戻してから3週間程か経っても
守護聖であった自分を思い出してはおらず、少しずつではあるが思いだしていた記憶も
”グレイシャの死”を境に、完全に止まっていた。
 まるで180度変わってしまったオスカーの態度に、屋敷の者や仲間の守護聖達も
かける言葉もなく、人との関わりを少しウザったく感じ始めたオスカーは
行く先も告げずにふらふらと姿を消す事も多くなっていた。

 自分の知らない自分を知る周りの人間に対する不信感。
いつまで経っても思い出せない自分に対する焦りや苛立ち。
そんなものも手伝ってオスカーはだんだんと人当たりが荒くなっていた。

 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 独り草原に座り何時間も飽きもせず雲を眺める‥‥‥‥。
そんなオスカーをリルヴェールが見つけたのはほんの偶然だった。

 「オスカー!!みっけ。‥‥‥何してるの?」
 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 「おかあさんに聞いたけど‥‥‥昔の事忘れちゃう病気なんでしょ。まだ治らないの?」
 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ああ」
 「じゃあ‥‥‥私の事も忘れちゃったままなんだ‥‥‥」

 隣に座った少女は何を喋る訳でもなく、黙ってそこでオスカーが見つめる先を
同じように見つめていた。
その時その場を去らなかったのは、相手がまだ幼い子供だったからかもしれない‥‥、
他の連中のようにあからさまに、神経を使った態度もしなかった事が
オスカーを落ち着かせた。

 会話もなく流れる雲を見つめていたが、オスカーの顔を覗き込んだ少女が
ふと口を開いた。

 「‥‥‥オスカー‥‥‥‥悲しい事があったの?」
 「‥‥‥‥‥‥‥‥どうして?」
 「そんな顔してるよ。泣かないの?」
 「泣く?」
 「悲しい事があった時は思いっきり泣くのが一番いいんだって」
 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥誰かにも言われたな‥‥‥同じような事を」
 「だれに?」
 「‥‥‥‥‥誰‥‥‥‥‥‥‥」

誰?。
誰?。
誰?。
誰?。

 オスカーの頭の中には、その似たような台詞をどこで誰に言われたのかを
ぐるぐると探り回っていた‥‥。

誰?。
誰?。
誰?。
誰?。

誰?。‥‥‥‥‥‥顔は思い出せない。
誰?。‥‥‥‥‥‥声は感情のよく見えない平淡なもの。
誰?。‥‥‥‥‥‥姿もなんだかおぼろげに白っぽいイメージしかない。
誰?。‥‥‥‥‥‥他には誰も居ない‥‥‥二人きりの場所で‥‥‥。

思いっきり泣く。
思いっきり泣く。
思いっきり泣く‥‥‥‥‥‥。

思いっきり泣きなさい。

!!!!。

泣きたい時は我慢しないで思いっきり泣きなさい。

あれは‥‥‥‥‥。

我慢すればする程、悲しみや辛さは自分の中で大きく腐っていくだけ‥‥。

確か‥‥‥。

もしわたしが彼女だったらそうして欲しい。



 「女王陛下!!!!!!」

 その瞬間、オスカーの頭の中をたくさんの雑音が鳴り響いた。
うるさい程にガヤガヤと騒ぐ声や物音、フラッシュのように光り続ける複数のイメージ。
そんなオスカーの様子にも気付く事無く、少女は言葉を続ける。

 「これはねぇ‥‥‥おかあさんに教えてもらったんだ。
  悲しい事だけは我慢しちゃダメなんだって。思いっきり泣いて涙と一緒に
  体の外へ追い出せば頑張る気持ちが出て来るって‥‥」
 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥そうだな‥‥。俺も昔、君のおかあさんにそう教わったよ。
  ‥‥‥‥‥‥リールー(それで大の男がぼろぼろ泣いたんだよな)」
 「え??」
 「君のおかあさんのおかげで、俺は立ち直る切っ掛けを得た。
  そして、お嬢ちゃんのおかあさん‥‥女王陛下に忠誠を誓ったんだ」
 「オスカー‥‥‥‥‥‥‥、病気治ったの?」
 「ああ。お嬢ちゃんのおかげだ。大事な事を思い出させてくれた」

 オスカーはリルヴェールの小さな手をとってその甲にキスをした。
手の甲へのキスはその相手への尊敬を表わす。その瞳には以前の強い意志が灯っていた。





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闇の子供達〜静炎と荒闇






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 夕方になってまた行方の解らなくなったオスカーを案じて、屋敷の者達が
騒ぎ出した頃、ふらっと戻ってきたオスカーを見て使用人達は違和感を感じた。
それはオスカーに対するというよりも、記憶喪失だったオスカーに対する違和感。
リルヴェールにねだられるまま手を繋いで屋敷に戻ってきたオスカーは
自分に集中している丸い目をした者達に向かって、今までのように
軽く口の端を上げてみせた。

 「すまないが、アグネシカを連れて来てくれないか」
 「はっっはい!!」

 いわれるままにオスカーの愛馬「アグネシカ」を連れて来ると
リルヴェールを抱え上げて馬上に乗せ、自らもひらりとまたがった。

 「さあ、しっかり捕まっているんだぞ。お嬢ちゃん」
 「うん!」

 オスカーは馬を走らせてジュリアスの屋敷のある方向に消えていった。
後に残された使用人達は互いに顔を見合わせ、いつのまにか
いつも通りのオスカーに驚いていた。
一体何が主人の身に起こったのか‥‥‥‥オスカーが記憶喪失になった時以上に
屋敷の中は困惑していた。





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 「‥‥‥‥さあ、ついたぞ」
 「え〜〜〜、もう?。もっと乗ってたい!」
 「もう陽も暮れて遅くなったし、今日はここまでだ。
  聖地にいる間ならいくらでも誘いは受けるから‥‥。わかったか?。お嬢ちゃん」
 「ぶ〜〜。約束だからね。またのせてね、きっとだよ?」
 「わかったわかった。じゃあ、こんどの時は俺の方から誘いに来るとしよう」

 馬から降りたオスカーはまだ馬上にいるリルヴェールのほほにキスをすると
そこから抱き降ろした。ほほへのキスで機嫌を取り戻したリルヴェールは
ぱあっと顔に笑顔を戻し、下へと降ろされてもオスカーと繋ぐ手は離さなかった。

 不愉快なのはその一部始終を見てしまったクラヴィスだった。
父親の姿に気付いたリルヴェールは、オスカーの手を離れクラヴィスの足元に
駆け寄り抱きついた。

 「おと〜さん、ただいま」
 「アンジェリークが心配していた。早く屋敷の中へ戻れ」
 「はあい。オスカーまたね〜!」

 リルヴェールはオスカーに向かって手を振るとそのまま屋敷の中へと駈けていった。
その姿を見送りクラヴィスは視線をオスカーに戻す。
それはオスカーが苦手とした、初めて聖地にやってきた頃にも向けられた
クラヴィスの冷たく突き刺さるような視線だった。

 「‥‥‥‥どういうつもりだ」
 「どう?と云われますと?」
 「誤魔化すな。リールーの事だ」
 「‥‥ふっ‥‥」
 「?何がおかしい」
 「すいません‥‥。クラヴィス様、もうすっかり”父親”なさってるんですね」
 「‥‥‥茶化す気か」
 「いいえ‥‥。いくら俺でも分別というものはありますよ。ただ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 「‥‥‥‥‥?」
 「もし俺にも子供が産まれてたら、あの位の年になるのかと思ったら‥‥、
  どうにも甘くなってしまいましてね」
 「‥‥‥‥‥‥‥子供?」
 「聖地にあがる前だから、もう少し年はいってるかな‥‥‥」
 「そういった者が居たのか‥‥」
 「はい。身体の弱かった彼女はお腹に子供が出来た事で死期を速めましてね。
  それで命を落としても俺はともかく彼女は、幸せみたいでしたから‥」
 「‥‥‥‥‥‥記憶が戻ったのか‥」
 「はい。‥‥‥そういった訳ですので、何も心配なさる事はありませんよ。
  ‥‥‥そう解ってはいても、心配為さるんでしょうけど‥」
 「‥‥‥‥‥‥‥ジュリアスなら屋敷の中にいる」
 「いいえ。今日はもう遅いので明日、挨拶に伺います。そうお伝えください」

オスカーはクラヴィスに礼をすると、再び馬にまたがり帰路へついた。





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 「御心配をお掛け致しました。女王陛下」
 「いいえ。身体の方はもう良いのですか?」
 「はい。もうなんともありません。今日からでも早速執務に戻ります」
 「それも良いのですが、あまり無理をしないように‥‥」
 「お心づかい、感謝致します」

 オスカーは無事記憶が戻った事を女王に報告し、早々に部屋を後にするとそこには
オスカーの身を案じた数人の守護聖達が待ち構えていた。

 「なんだ?そろいも揃って‥」
 「何だじゃないわよ!。まあ〜ったく人騒がせな男だよ。あんたってやつは。
  あれだけ私達を引っ掻き回しといて、一人でさっさと元に戻ってるんだから‥」
 「でもほんと‥‥記憶が戻って良かったですよ〜」
 「やっと面倒事も終わるしな‥」
 「‥あ、済まなかったなルヴァ。俺の分の仕事まで‥」
 「!いいえ〜、そんな事はなんでもないんですよ。そういった意味で言ったのではなくてですね‥‥え〜と‥」
 「ゼフェル、そういったルヴァにとっちゃたちの悪いジョークは止めときな」
 「〜ったく、すーぐ真にうけんだからよ」
 「でも記憶が無くなっていた間と、今では全然違いますねオスカー様」
 「全然?」
 「この数週間の間のオスカー様はなんだか恐かったですよ」
 「っていうより、すっげ態度悪かったよな」
 「!態度の事をお前にとやかく言われたくはないぞ。緊急事だったとはいえ、人を足げにしただろう」
 「うっ‥‥‥」
 「まあまあ、このような日にそのような話は止めませんか?」
 「‥‥そーですね」
 「すまないが‥ちょっと通してもらえないか」
 「?どこいくのさ」
 「ジュリアス様達にも御迷惑をかけたからな。無事を御報告しに」

 オスカーはマントを翻すと集まった皆の間を横切って歩いていった。
その姿はいつものオスカーのもので、昨日までの記憶がなかった状態など微塵も感じさせない姿だった。

 「‥‥‥まあ〜ったく‥‥‥マメな男だよ」
 「よく疲れねえよな。昨日までの方がリラックスしてたんじゃねえか?」
 「!それも言えるね。そーいえば気はつかってなかったし‥」


オリヴィエ達のそんな会話も知らずにオスカーはまっすぐにジュリアスの屋敷を訪れた。

屋敷にはジュリアスとディア、クラヴィスとアンジェリーク、そして子供達が滞在して居た。
ジュリアスとクラヴィスは守護聖だった頃からは想像も出来ない程の穏やかさで
何だかんだ言いあいながらも、最愛の人を選んだ状況も似ていた事も手伝い
結局は最も似た境遇の持ち主である事が、二人を深い所で理解させあっていた。
‥‥‥かといって、会話がある訳ではないが‥‥‥。

 「御心配をお掛け致しました」
 「うむ。もう平気なのか?」
 「はい。まだ少し頭が重い感じが致しますが、もう問題ありません」
 「でも良かった。無事記憶が戻って‥‥」
 「本当に‥」

大人達の会話に割ってはいるように飛び込んできたのはリルヴェ−ルだった。

 「オスカー!」
 「よう。おじょうちゃん」

 リルヴェ−ルの目線にあわせて屈んだオスカーにリルヴェ−ルは嬉々として話しはじめる。
そしてクラヴィスの顔色が再び曇りはじめたが‥‥‥。

 「え〜!!。もう帰っちゃうの?」
 「ああ。今までさぼってたぶんの仕事があるからそう付き合ってもいられないんだ」
 「だってこの間約束したのに‥‥」
 「ゆっくり時間がとれるようになったら、また俺の方から誘いに来ると言っただろう?。
  お嬢ちゃんとの約束はきちんと守るから」
 「リールー、我がままはダメよ。オスカーが困ってしまうわ」
 「‥‥はあい。またアグネシカに乗せてくれる約束、絶対忘れないでね?」
 「ああ。もちろんだ」

優しく髪を撫でてジュリアス達に一礼をし、オスカーは屋敷を後にした。




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このお話はまたもやオリキャラが出てきました。ちぐはぐして分け解らなかった方ごめんなさい。
オスカーの事情については「LOVING YOU MY DARLINGシリーズ」をお読みください。
オスカーが聖地に来る前のオリジナルストーリー(当たり前やん!)が書いてあります。

オスカーって小さい子供が似合うと思いません?。そんなこんなで一気にラブリーな話に‥‥。
やっぱりこんな感じの方が書いてて楽しいです。






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