昔話〜前風 04



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




コンコンコン
 「どーぞ」


 5時を回った聖地で炎の守護聖の執務室を訪れたのは、アイギスとその先代の二人だった。
アイギスの姿を見ると、日当たりのよい窓際に椅子を置いて腰掛けていた炎の先代は、
読んでいた冊子から目を離して立上がり、二人に近寄ってきた。


 「よかった。見つかったんだな」
 「あぁ、世話かけたな。カディナールはいるか?」


 いるか?と聞かれて彼は右手の親指を立てて、カディナールの方を指差した。
まだ彼の体には大きすぎる執務机の向こう側に、埋もれるようにカディナールはそこに居た。
先代はアイギスの背中を優しく押し出したが、顔も隠れんばかりに本を広げて読んでいる
カディナールは、訪問者の存在に気付いているのか居ないのか、
先程からちっとも動かないでいる。

二人の先代は二人から離れ隣の部屋に場所を移した。


 「‥‥‥‥あの」
 「‥‥‥‥」


アイギスは勇気を出して声をかけたが、カディナールはまだ本を読むのを止めない。


 (カディナールは本を読み始めると回りの事はあまり頭に入らない程集中するからなぁ‥‥)
 (頑張れ!アイギス)


聞き耳を立てて見守る二人はまるでそれぞれの親のようだった。


 「‥ぁ‥‥カディナール‥‥」
 (お?あの子、初めてカディナールの事呼んだな)
 (いや‥‥アイギス、人の名前を初めて呼んだよ)
 (え?)
 (最初、俺の事も名前で呼ばせようとしたけどダメで「先生」って呼ぶんだ。
  自分が名前で呼ばれる事も最近やっと慣れてきたんだよ。可哀想に‥‥‥。前は番号で呼ばれてたんだと)
 (あぁなるほど。それで‥‥)
 (何がなるほど?もしかして、今まであの子が無視してたとでも?)
 (う〜ん‥‥‥‥ごめん)
 (‥‥♯)
 (だってさ!)
 (しーっ!大きな声だすな!気付かれるだろ?!)


 二人はなんだかぼそぼそ喋りながら、部屋の様子を覗き見ていた。


 「‥‥‥何?」
 (あれ?一発で気がついた‥‥)
 「あの‥‥さっきはご‥めんな‥‥さい」
 「ん?さっきって?」


意地悪でも何でもなく、本当に心当たりがないようにカディナールは聞き返した。


 「だから‥‥さっき、そこの下の所で‥‥自分が君に手を出したから‥‥」
 (違うアイギス。それをいうなら「手をあげた」だよ‥‥(^_^;)
 「あぁ何だか急に苦しくなった事?」


アイギスは無言で頷いた。


 「ふぅん。あれ君のせいだったのか‥‥」
 「ごめんなさい‥‥」
 「いいよ別に。怒ってないよ。忘れてた事なら対したことじゃないし。‥‥ねぇねぇそれよりさぁ」
 「それより?」
 「なんであそこにいたの?あの場所は僕しか知らないと思ってたのに!」
 「あ‥‥あそこは、風が気持ちよくて‥‥明るいし」
 「あそこは僕のお気に入りの場所なんだ。なんか変な感じ。僕のお気に入りの場所を君もお気に入りだなんて」


カディナールは目線をアイギスに合わせて、にっと笑った。


 「じゃぁ僕、この本読んでしまいたいから。またね」


 そう言って一方的に話を終えて、カディナールは再び本に集中し始めた。
アイギスはぽつんとそこに残り、帰っていいのかわからずに立ち尽くしている。
 隣の部屋から覗いていた二人は、やれやれ‥‥と姿勢を正して
先代はアイギスを連れて自分達の執務室に戻っていった。











 「先生‥‥」
 「ん?」
 「彼はどうしてあんなにあっさり僕を許してくれたんですか?
  僕が思ってた事は彼にしてみれば下らないものだったんでしょうか‥‥」


つないだ手の先からアイギスの戸惑いが伝わっていた。


 「そんな事はないけど‥‥
  カディナールがアイギスを許してくれたのは、カディナールがきっと強いからだろうね」
 「強い?」
 「人を許すという事は、その相手の全てを受け止めるという事だよ。
  強くなくてはできない事だ」
 「強い‥‥」
 「アイギスもそろそろ自分を許す勇気を持たなくちゃね」


彼はそれ以上話すのをやめた。ただ繋いだ手だけは、しっかりと握り締めたままで‥‥‥




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