昔話〜前風 02



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




 宮殿の中の一角、テラスの下の部分に位置する草むらは、人が通れるような整備はされておらず
一定の長さで切りそろえられた草が、日光を浴び風をうけて
それはそれは気持ち良さそうにさわさわと音を立てている。
一段高いテラスの下の部分に当たるこの場所は、案外一目につく事が少なく
執務の時間の間は宮殿を離れられないアイギスにとって、一目を避けて落ち着ける数少ない場所の一つだった。

 今日もアイギスはそこに降り立って座り込み、膝を抱えて肌を撫でる草と同じように風に吹かれていた。
目を閉じてもやもやした気持ちを忘れるかのように、瞑想をする。
瞑想と言うよりは、思考停止の状態を保つと言うか‥‥‥‥。とにかく光の守護聖様にいわれた”嫌な事”を
忘れるように、努力していた。

 そして自分の意識に集中するあまり、いつもなら気がつく背後にいる人間の気配に気付くのが遅れた。
はっと気がついた時には、自分の領域の中にその人物は踏み込んでおり、また背後から近付かれた事で
アイギスは条件反射的に、手が出てしまった。



 それまでの、下界に居たアイギスの生活の中では、背後をとられるという事は自らの死を表わしてしまう。
一番無防備な背中にまわられるという事は、死を覚悟しなければならない状況もあるという事。
なので、条件反射で手が出てしまうという事は、自分の身を守る為に一撃で相手を倒す技を喰らわせるという事。



 背後に近付いた人物がアイギスに声をかけるよりも早く、アイギスの手刀は確実に相手の喉元に一撃を加え
無防備な所にそれを喰らった人物は、抵抗の痕すら見せずにその場に崩れ落ちた。
 その人物は「カディナール」だった。実はアイギスが居たその場所は、カディナールにとっても
最高のお昼寝ポイントで、そこに居たアイギスに声をかけて驚かせてみようと、
彼なりに気配を殺して背後から近付いたのである。
しかし、急に喰らった手刀は一瞬、カディナールの呼吸を停止させて、身体に酸素を取り入れる事を拒んだ。
酸素を求めるように大きく小刻みに呼吸を始めると、今度は息苦しさのあまり酸素ばかりを求め
息を吐く事がおろそかになる。その結果カディナールは過呼吸に落ちいっていた。


 「げほっ‥げほっ‥‥‥ぁっ‥‥」
 「‥あ‥‥‥‥ぁあ‥‥」


 自分のした事にアイギスはどんどんと青ざめていった。
蒼白だって身動き一つ出来ず、その場にがたがたと震えながら立ち尽くしている。


 「カディナール!!」


 ふいに頭上からした声にアイギスはビクッと震えた。
恐さのあまり後ろを振り返る事ができなかった。その声の主はテラスをひらりと身軽に飛び越えて
悶えているカディナールの側に駆け付けた。その人物は先代の炎の守護聖様だった。


 「アイギス?。一体何があったんだ?」
 「あ‥‥‥あの‥‥‥ぁ‥‥」
 「カディナール!!しっかり!!」


 先代の炎の守護聖はカディナールを抱き起こし、苦しそうに胸を握りしめる少年の背中を撫でる。
まるで空気中に上がった金魚のように口をぱくぱくさせているカディナールの様子をじっと見て
過呼吸である事を理解した先代は、身につけていたマントをカディナールの口にあてて
自分の吐き出した二酸化炭素をまた吸わせるようにしていると、
だんだんとカディナールの呼吸が落ち着き、脂汗がにじみ出ていた額もうっすらとピンク色を取り戻した。


 「アイギス。別に君を怒っている訳じゃない。何があったのか、説明してくれないか?。‥‥‥あっ!」


 説明を求める彼から逃げるように、アイギスは二人に背を向けて走り出した。
後を追おうとアクションを起こしかけて、腕の中のカディナールをまだ放って置けない事に気がつき、
彼はメトロノームの様にアイギスとカディナールを交互に見やる。
そんな事をしているうちにアイギスの後ろ姿は建物の向こうに消え、彼は舌打ちをした。


 「まずいな。あのままほっとくのは‥‥」
 「う‥‥」
 「気がついたか。大丈夫か?」


 その問いにカディナールは無言のまま頷き、彼はよし、と小さく言って
さっきアイギスにした質問をカディナールに問うた。


 「知らない」
 「知らないって事はないだろう」
 「知らない。気付いたらこんなんなってたんだもん。わかんないよ」
 「‥‥そっか」


 ごまかしているのではなく、自分の身に何が起きたのか、本当にわからないようなその口ぶりに、
彼はしつこく問いただすのを止めた。
 ん、と言ってカディナールに背中を向ける。おぶされ、という意味のそれに、
カディナールは戸惑う様子も見せずにその背中におぶさった。
 普通、彼位の年にもなれば人におぶさってもらう事には、抵抗を感じる年頃の筈なのにそんな様子もなく
誰かにおぶさってもらう事だけではなく、人に構ってもらう事に慣れているようであった。
 大して重く感じない筈にも関わらず、少し年より臭いかけ声と共に彼は立上がり、そのまま執務室に戻った。




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