ひよこ達



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




 「何度言ったら解る!!」
 「うわっ!!」

 アイギスの振りおろした木刀はオスカーを直撃し、オスカーはバランスを崩して地に落ちた。
うたれた箇所が、一瞬感覚がなくなったかと思うと間をおいてずきずきと激痛が走る。
その痛みにオスカーの表情は歪んだ。

 「剣にばかり気を取られているから、私に打ち込む事が出来ないのだと何度も言っている!
  これは子供のお遊びか?。軍では一体何を学んだと言うのだ!」
 「‥‥くそっ」
 「悪い事は言わん。聖地にいる以上、剣術など何の役にも立たんのだから諦めろ。
  オスカー、お前には向いていない」
 「もう一度!!」
 「‥‥何度やっても同じ事‥‥」

 痛みを堪えて立ち上がったオスカーをアイギスは容赦なく打ちのめした。
オスカーの剣は虚しく空を切り、アイギスの剣は的確にオスカーめがけて振り落とされる。

 「‥‥アイギス様は動きが早過ぎるんだ。だから剣筋を捕らえられない‥」
 「だからお前はダメなのだ。目が剣ばかりを追っている。
  例えばお前の持っている剣が、宇宙の中で決して切れぬもののない神剣だったとし、
  私の持っているものを、一度の軽い衝撃で崩れてしまうような朽木の剣だとしても
  私はお前にまける気はしない‥‥。
  どんなに素晴らしい名剣であろうと、結局はそれを操るのは人間なのだ。
  人間が関わる以上、完璧なものなどあり得ない。
  だからこそ、そこに付け入る隙があるのだ」
 「‥‥‥‥‥」
 「オスカー、お前は私の動きを全然捕らえてはいない。この手の木刀にいいように振り回されている。
  剣技に限らず、何事においても冷静に全体を見極める事は大事な事だ。
  歳若いお前にはまだ無理だろうが、私から技を盗みたいのであればそれを忘れない事だ」
 「アイギス様‥‥‥」
 「剣はたった1人の敵を相手にするものだ。この聖地では必要無い。
  多くの兵を動かして、陛下に近付く者のない様にするのが常だからだ。
  ‥‥それでも私に剣を教えて欲しいと、お前は言ってきたな‥‥」
 「‥‥はい」
 「剣で誰かを護る時は、絶体絶命の時と思え。その身に代えて護る人が後ろにいるなら
  今の時点でその人物は敵の手に落ちているぞ」
 「‥!!」
 「さぁ、どうする?。もう後がないぞ」
 「‥‥‥‥‥‥」

 オスカーは眉間にしわを寄せて立ち上がり、アイギスに再び向かっていった。
アイギスの木刀を避け、隙を伺いながらじりじりと距離を近付ける。
ここ、と思うどのタイミングで打ち込んでも、それらの全てをアイギスはかわしてしまい
オスカーのいらいらは溜まるばかりだった。

 「‥‥意外と強情だなお前は。それとも分からず屋か?」

 アイギスはまたもオスカーの剣を見事に避けて一撃を食らわせた。何度目かの地を舐めたオスカーは
今度はすぐに立ち上がる事は出来なかった。
真っ白な雲の流れる青い空を眺めながら、胸を大きく上下させて苦しそうに呼吸をしていた。








 二人は、9人の守護聖達の執務室のある宮殿のすぐ脇の木立の下で剣を交えていた。
なかなか起き上がらないオスカーに、アイギスは日陰の下へと移動し涼をとっている。
もう汗だくだくなオスカーとは対照的に、ひと粒の汗もかいていないアイギスをみて
オスカーは下唇を噛みしめた。
 すると、宮殿の2階の廊下から1人の男性が顔を出して二人を見つけるとこちらに向かって
何かを叫び出した。

 「アイギスー!!。うちの可愛いコちゃんをあんまり虐めないでくれよー!」
 「‥ふふ‥‥あんな事言われてるぞ?オスカー‥」
 「‥‥‥‥‥‥‥#」

 オスカーは息の静まらない体を起こして、やっとの事で立ち上がると上を仰いで
声をかけた人物、自分がまだ見習いという立場の現炎の守護聖を恨めしそうに睨みつけた。

 「可愛いコちゃん、なんて呼ぶのは止めて下さい。俺にだってちゃんと名前が‥‥!」
 「無駄だよオスカー」
 「アイギス様?」
 「一人前と認められるまでは、あやつに名前を呼ばれる事はないよ。
  ふざけているように見えるが、あれで色々考えやポリシーの多い奴だからな。」

 アイギスの言葉に表情を暗くしながら、草の上に落ちてる自分の上着を拾うと、
アイギスに向かって頭を下げた。

 「今日はありがとうございました。またお時間がある時にでも御指導お願いします」
 「ああ。私でよければいつでも相手になろう」








 「可愛いコちゃん。物覚えがいいのは良いけどね、君に覚えてもらわなくちゃいけない事は
  まだまだ沢山あるんだから、言い付けた用事が済んだからといって消えたりしないでよ?
  捜しまわるのが大変なんだから‥」
 「なら言わせてもらえれば、先に居眠りしたのはそちらでしょう?。
  しかも俺は何度も起こしました。しかし起きていただけず、そのまま何時間も経てば
  じっとしているのもいい加減飽きますよ」
 「私は寝起きが悪いんだから、起こす時は遠慮などしなくても良いと言ったはずだよ」
 「なら寝ないで下さいよ」
 「そうは言っても、こんなに天気がよくて気持ちよいと眠らずに入られないだろう!
  ”春眠暁を覚えず”って言葉を知ってるか?」
 「知りません」
 「ある惑星の言葉だよ」

 むくれ顔のオスカーを気にもせず、先代は歩いている。向かう先は炎の守護聖の執務室。
ものをまとめたり、人に何かを教えたり、説明したり、という事の苦手なこの先代は
中々オスカーに跡を継がせる事が出来ないでいる。オスカーにしてみればいい迷惑この上ない。
彼の言う事はその8割がたがどうでもいい話で、核心をつく内容は話の所々の少しだけ。
しかも、話せば話す程話の内容は脱線しまくっているので、居眠りしたいのはこちらの方である。

 オスカーは額の汗を拭いながら、むくれ顔のまま彼の後をついて歩いていた。




 聖地の時間は麗らかに過ぎている。
同時期に迎えた炎と水の守護聖達の交代は着々と進み、歳若い守護聖が9人の中に加わるのも
そう遠くない話‥‥‥‥。

 だが今は、まだ分からない事を沢山抱えた二人の新人守護聖は、まるでひよこのように
先代の後をついて歩き回るのみである‥‥‥。




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