始まりと終わり



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




 「‥‥‥ふう‥‥‥、頭が重い‥‥‥」



女王試験が終わって、女王補佐官となって2ヶ月。補佐官という仕事は忙しい事この上ない。
まだわたくしがこの仕事のペースを掴めていないせいもあるのだけれど‥。
もう慣れていない、などとは言ってもいられない。覚える事は山の様‥‥‥。
弱音も吐けない。わたくしより女王となったアンジェリークの方がずっと苦しいのだから‥‥。
彼女を支える役目のわたくしがこんな事では‥‥‥‥。






 「‥‥‥‥‥ィア‥‥‥‥‥‥ディア!」


 ふいに後ろから呼ばれてディアは足を止めた。
振り向くと鋼の守護聖イルヴァートがいつもの穏やかな笑みを浮かべて立っていたが、
衣装の裾が重なる程の至近距離に居たにもかかわらず、
声をかけられるまでディアは気がつかなかった。


 「ずっと呼んでたのに全然反応無しだもんな‥‥。一瞬無視されてるのかと思ったよ」
 「‥‥ごめんなさい。少し考え事をしていたものだから‥‥」


 なんとか言い訳をしたが、なかなか重い気分は晴れずに
上手く会話をつなげる事が出来なかった。


 「‥‥ディーア。眉間にしわが出来てるよ。せっかくの可愛い顔が‥‥」


 人さし指で眉間をつつかれてディアはその痕を手で隠した。
イルヴァートと一緒にいると何だかいつも気持ちがフワフワとおさまらない。
彼がいつもディアを子供扱いするせいもあるんだろうが、
それだけではない事をディアは知っていた。


 「イルヴァート様、こちらへは何の御用でいらしたんですか?」
 「イルヴァート。様はつけないで。もう君は女王候補生じゃない。女王補佐官ともなれば
  僕達守護聖とは同等の格を持つ事になるんだよ。呼び捨てでいい」
 「なら、イルヴァート?」
 「そう。それでいい。実はディアを探しにここまできたんだよ」
 「わたくしに?」


 イルヴァートは後ろ手に隠し持っていたものをディアの目の前に差し出した。
綺麗な細工のしてある宝石箱のようなものを。


 「‥‥‥これは?」
 「君にプレゼント。ほら、手を出して」


 おずおずと出したディアの手にその箱を置くとふたを開けた。
ふたが開けられた時に「カチリ」と音がして緩やかなメロディが流れた。
ディアはそのメロディに聞き覚えがあった。


 「どうしてこのメロディを!?」
 「以前に君が歌っているのを聞いたんだ。
  凄く綺麗な旋律で‥‥、色々調べてオルゴールを作ってみたんだよ。どう?」


ディアはそのメロディに聞き入っていてイルヴァートに返事が出来なかった。


 「‥‥‥ディア?」
 「‥‥ええ。とても素晴らしいわ。‥‥‥この曲はわたくしが小さい頃に亡くなってしまった
  お祖父様がよく弾いてくれた曲なの‥‥‥。とても大好きな曲‥‥。
  本当にこれをわたくしが頂いてもいいんですか?」
 「もちろん!。君の為に作ったんだから‥‥」
 「///////////わたくしの為‥‥?」


 ディアはストレートに気持ちを伝えるイルヴァートの言葉に顔を赤くした。
そんなディアの気持ちなどお構いなしに
イルヴァートは恥ずかしさで目を逸らす事もせずにディアを見つめる。


 「最近いつも疲れた顔をしているし、前のように笑わなくなったから‥‥。
  頑張ってる君への御褒美だよ」
 「‥‥イルヴァート‥‥‥‥」
  (‥‥‥どうしよう‥‥、今すごく彼に抱きつきたい‥‥)


 溢れる衝動をディアが必死で堪えていると、見つめていたイルヴァートの顔が近付いた。
ディアは避ける間もなく、微かに二人の唇が重なった‥‥。


 「!!!!」
 「あ‥ごめん、違ったかな?。今君がとてもキスして欲しそうな顔をしてたから‥‥」
 「わ‥‥わたくし、そんな事‥!/////////////」
 「ごめん‥‥。でも僕はキスしたかった‥」
 「!!!!!」


 唐突な台詞にディアは固まった。
薄いピンク色の瞳を大きく見開いたままイルヴァートから視線を逸らせなかった。


 「‥‥‥僕はキスしたかった‥‥。君にずっと‥‥」


 イルヴァートがディアに腕をのばしたかと思うと、ふわり‥‥とディアを抱き寄せ
ディアの髪を飾るヴェ−ルに顔を埋めた。


 「‥‥‥‥ずっと、こうして君を抱きしめたかった‥‥」


 ディアは一瞬自分の耳を疑った。彼の告白は夢にまで見たもの。
イルヴァートに想いを寄せながらもそれを伝える程の勇気を持っていなかった。
自分の弱さを克服出来ず、夢に見たイルヴァートからの告白。
こんなに自分に都合のいいシナリオが”リアル”になった事を認識するのに必死で‥‥‥。


しかし、ディアの言葉を待つ沈黙が二人を包んだ。


 「‥‥‥‥‥ディア?」
 「‥‥‥わたくし‥‥‥、わたくしも、あなたに抱き締められる夢をずっと見ていました」
 「ディア‥‥‥‥」
 「これ‥‥わたくしの宝物にしますわ‥。大事にします」
 「‥‥うん‥。僕も大事にするよ‥‥‥」
 「‥?‥‥‥何をですか?」
 「やっと手にいれた、僕だけの花を‥‥」


 イルヴァートは再びディアに唇を重ねた。
優しく触れあうだけで思いが伝わってくるような初めてのキスを
ディアは生涯忘れる事はなくなった。












‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡













 「‥‥‥ディア‥‥‥。入ってもいいかい?」
 「‥‥‥‥‥ええ‥‥‥。どうぞ、カティス」


 ディアの部屋に足を踏み入れた男性はカティスが2人目だった。
ディアにしては珍しく陽も高く昇ったというのにまだ部屋着のままで
けだるそうに窓際の椅子に腰掛けていた。


 「‥‥‥‥見送りに行かないのかい?」
 「‥‥お別れはもう済ませました。‥‥‥だから行きません。
  きりがないですもの。今になって二人で居ても彼が行ってしまうのは変わらない事実‥。
  わたくしは聖地を離れられない身‥‥‥。もう‥‥‥‥」


 ディアの泣き腫らした目から再び涙がこぼれだした。拭う事にも疲れたように
ディアは涙を膝の上へと落とした。


 「‥‥‥‥‥もう‥‥いやだわ。あんなに泣いたのにどうしてまだ涙が残ってるのかしら?。
  こんな姿で見送りになんていけないわ‥‥。
  彼もここを去るのが辛いのに、こんな状態じゃ困らせてしまう‥‥‥‥」
 「‥‥ディア‥‥」


 カティスはディアの顔が涙で歪むのを初めて見た。いつもいつも笑みを絶やさずにいる彼女の
普段との差が彼女の悲しみの深さを物語っていた。


 「‥‥‥‥カティス‥‥。わたくしの事は放っておいて、あなたは見送りに行って下さい。
  彼とはとても仲がよろしかったでしょう?。イルヴァートと付き合い始めた頃
  あなたとあまりにも仲がいいから、あなたに嫉妬して彼と喧嘩した事もあったのよ‥‥」
 「ディア‥‥‥何か言葉があれば伝えるが‥‥」
 「何もありませんわ。言葉も物も何も意味ないですもの‥‥‥。何も‥‥」


 カティスはディアの肩に手を置いた‥‥‥‥‥がしかし、
ディアは力を込めてカティスを押し退けた。


 「同情など結構ですわ!」
 「‥‥‥‥すまん‥‥‥‥」
 「‥‥‥‥‥‥いえ、‥‥わたくしこそすみません。大きな声を出して‥‥‥。
  でもお願いだから今のわたくしには構わないで‥‥。
  もう‥‥‥独りにして下さい‥‥‥」
 「‥‥‥‥‥‥‥わかった」


 泣き続けるディアを上手く慰める事も出来ず、カティスは部屋を追い出された。
大きく溜め息をつくと重い足取りで次元回廊へと向かった。





‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡






 その頃やっと独りになったディアは椅子から腰をあげて窓際へと進んだ。
ここからは次元回廊までは見通せない。しかしその目に写る全ての景色に
イルヴァートの姿が重なり思わず目を逸らした。
その先に以前彼から贈られたオルゴールがあった。
ディアはそっと近寄りオルゴールのふたを開けると、中からは変わらぬ緩やかなメロディが
流れ始める‥‥‥。
 心を落ち着かせる筈のそのメロディも、今では心をかき乱すものでしかなく
止めどなく湧き出てくる悲しみのせいで、そのメロディが耳障りなものにしか感じなかった。


 「!!!」


 ディアはオルゴールを床に叩き付けた。ガシャン‥‥という音と共にメロディは止まったが
耳から聞こえるメロディはなくなったものの、何度も何度も聞いたそのメロディは
ディアの頭の中で何度も何度もリフレインした。耳を塞いでもそれは消えず‥‥‥‥‥‥。


 「もう嫌!!。人を好きになる事がこんなに辛い事ならもう誰も好きになんてならない!!。
  だからもう消えて!!」


 ディアは耳を塞いだまま床に崩れた。ぎゅっと目を瞑り何も感じなくなる時を待った。
耳を強く塞いでいたせいで、誰かが部屋に入ってきた事も気付かなかった‥。

ふいに強く抱き締められディアはハッとして顔をあげた。

 「!!!!」
 「‥‥‥‥ずっと、こうして君を抱きしめたかった‥‥」
 「イルヴァート!」
 「‥‥ずっと、こうして君を抱きしめていたい‥‥。‥‥ずっと‥‥」
 「どうして来たの!?。もう‥‥‥!!」
 「見送りにくらい来てくれてもいいだろう?。それとも僕を好きになった事を後悔してる?」
 「後悔なんて‥‥‥」
 「僕はしてない。
  君と別れるのはすごく辛いけど、この後独りになって耐えられるかどうか解らないけど
  この恋がハッピーエンドじゃなくても、僕は確かに君を愛して幸せになったんだから‥」
 「イルヴァート!!!」


 ディアはもう何も言えなかった。伝えたい事はたくさんあっても、口をついて出るのは
狂おしい程愛おしい彼の名前だけ‥‥。
背中に回した手に力が入る。それに答えてイルヴァートも強くディアを抱きしめた。


 「もう行くよ‥‥‥」
 「‥‥イルヴァート‥‥」
 「最後にもう一度見せて?。僕の宝物を‥‥‥」


 頬に添えられた手でディアの視線はイルヴァートを捕らえた。
もう涙でぐちゃぐちゃの顔に必死で力を入れて笑顔を作る‥‥‥‥。
 しかし笑顔は3秒と持たずに崩れ、イルヴァートはそのティアーズロードを流れる滴を
唇で拭った。

 閉められた扉がもう永遠に開かれない事を、
無理矢理こじ開けてもそこに求める人はもう居ない事を
ディアは深い悲しみの中で理解せざるをえなかった‥‥‥。




■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■END




キリ番「100&111」を踏んだよねさんからのリクで
「ディアとカティスとかどうでしょう?でも他の守護聖も見たいですーー。
前鋼とかってほんとはドンナ人なんでしょうね?」
というものだった筈なのに‥‥‥‥。
どこでどうなってしまったんだろう?。しかもハッピーエンドじゃないし‥‥。
キーファ初のバッドエンド。初物ってことで貰ってくれないかな?






Back



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送