闇の子供達〜別れの意味 |
KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「やだっ!!!!!」 「リルヴェ−ル!?」 「やだっ!。あたし絶対帰らない!!。ここにいるの!」 「我がままはダメよ、リールー。もうお家へ帰らないといけないのよ」 「やあだ〜!。ここにいるの。ここにいたいんだもん!」 「リルヴェ−ル!!」 声を張り上げて喚き散らすリルヴェ−ルをなだめるアンジェリークの言葉も空しく リルヴェ−ルは屋敷を飛び出していった。 あっという間に草むらに消えたリルヴェ−ルにあっけに取られながら、 アンジェリークは後を追おうとしたが‥‥‥‥。 「クラヴィス‥!」 「少し放っておく‥‥。そのうちに頭も冷めるだろう‥‥。ここにはそう危険もない」 「‥‥あなたがそう言うなら‥‥」 ふいに掴まれた腕を握り返し、リルヴェ−ルの消えた先をアンジェリークは心配げに見つめた。 リルヴェ−ルがこうだだをこねる事は、話す以前に予測出来ていた。 毎日を楽しそうに飛び跳ねるリルヴェ−ルが、下界へ帰る事を拒むのは自然な反応に思えたが、 かといって、二人はこのまま聖地に暮らす気にもなれなかった。 二人は第二の人生をすでに下界で始めてしまっていたのだし、そこが子供達の 生まれ育った場所なのだから‥‥。 リルヴェ−ルは涙目になりながら聖地を走り回った。両親が後を追い、捕まる事を恐れ 森の中へと入って行き、母親譲りの見事な運動神経で一本の大きな樹を見つけると スルスルと上へと登っていく。下からは葉で隠れて見えない所まで上り詰めると そこで1人泣き始めた‥‥。 しかし、昼を過ぎても帰らない娘をとうとう放っておく事も出来ず、アンジェリークは 外へと探しに行く事にした。 「やっぱり心配だから少し探してくるわ。あなたは帰って来た時の為にここに居て。 ザイ、一緒に探してくれる?」 「いいよ」 「じゃあクラヴィス、行ってくるわね」 溜め息をつくクラヴィスをおいて、アンジェリークはザイオンと共にリルヴェ−ルを探しに出かけた。 |
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その日オスカーは、やっと溜まっていた仕事を終えてゆっくりした午後を手に入れていた。 背もたれに大きく背伸びをすると、窓の外から差す光が顔にあたりオスカーの気は外へと向けられ 書類整理で散らかった机の上を片すと、マントを翻して執務室を後にした。 ぽかぽかした陽を浴びながら公園にまで足をのばすと、焦った顔で辺りを見渡しながら 走っていくアンジェリークを見かけ、声をかけた。 「アンジェリーク様!。どうかされたんですか?」 「あ!。オスカー」 アンジェリークはオスカーの方を振り向くと、足を止めて一呼吸おいた。 「実は、クラヴィスとも話し合ってそろそろ下界へ帰る事にしたのよ」 「‥そうですか‥。また寂しくなりますね」 「でもその事を子供達に言ったらリルヴェ−ルがだだをこねて居なくなってしまったの‥」 「ええ?」 「クラヴィスは少し放っておけば頭も冷めて帰ってくるって言うんだけど‥ やっぱり心配で‥‥」 「‥それは大変ですね‥‥。俺も手伝いましょうか?」 「お願い出来る?」 「はい。では俺は‥‥森の方を探してみましょう」 「ありがとう。見つけたら屋敷に連れ帰ってもらえるかしら‥」 「かしこまりました」 一般人となったアンジェリークに対する態度も依然と変わらないオスカーは、アンジェリークに 礼をすると森の方へと進路を変え、アンジェリークはまた逆の方向へと向きを変えた。 |
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「やみくもに探してもらちがあかんな‥‥」 森の入り口付近に辿り着いたオスカーは足を踏み入れる前に立ち止まり、リルヴェ−ルが 行きそうな場所に予想を立てた。 アンジェリークの話から連想した限りでは、リルヴェ−ルは両親から隠れるつもりで 屋敷を飛び出したんだろう‥‥。普通人から隠れる時、大概の人間が 自分が行きなれない場所には身を隠す事は考えない。 そのほとんどが、いつも足を運ぶ所やその場所の回りなどを知り尽くした場所、 もしくは一度でもいった事のある場所に足が向かうだろう。 ましてやリルヴェ−ルは10にもならない子供、そこまで相手の心理を読んで隠れるとは考えにくい。 付け加えれば、パニクッた時程思い入れのある場所に足が向かう。 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」 オスカーはある一つの心当たりへと向かった。記憶喪失だった自分をリルヴェ−ルが見つけた場所へ。 |
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予想した場所に辿り着いてみるとそこにリルヴェ−ルの姿はなかった。 ふう‥と息をつき当たりを見渡したがそれらしき人影はなく、次の場所ヘと向かおうとした時 風もないのに木々の葉が揺れたのをオスカーは聞き逃さなかった。 「‥‥リルヴェ−ル!」 オスカーは一度、その揺れた場所に向かって声をかけた。返事はない。 「リルヴェ−ル?」 2度目の呼び掛けにも何の返事もなかった。しかし人の気配は確かにあった。 「‥‥‥いないのか‥‥」 「待って!!。居る!」 その場を去ろうと振りをした瞬間、思い通りその場所からリルヴェ−ルが声を上げた。 オスカーはやれやれ‥という顔をしながら、その樹の下までやって来た。 真上を見上げると、よくもまあそんな所まで登ったもんだ、と感心するぐらい 高い場所にリルヴェ−ルの姿が見えた。 「何してるんだ。そんな所で」 「お母さんにいわれて探しにきたんでしょ」 「心配していたぞ?。降りておいで」 「やだ」 「リールー‥‥」 「だって帰りたくないもん!。まだここに居たいよ‥‥」 「‥‥とにかく、降りておいで‥。じゃなきゃ置いていくぞ」 「待って!?。置いてかないで!!」 「!!待て!」 オスカーの言葉に焦ったリルヴェ−ルは、急いで降りようと急に立ち上がったが オスカーが声をかけるよりも早く、バランスを崩し、足を滑らせて しがみついていた樹の幹から落下した。 オスカーは慌てて腕をのばしリルヴェ−ルの落下地点へと移動して 落ちてくる少女を受け止めたが、勢いあまって地面に倒れてしまった。 「あ‥‥たた‥‥。大丈夫か?、リールー‥」 「‥‥‥‥‥‥」 リルヴェ−ルは無言でうなずきながらもオスカーの首にしっかりと抱きついていた。 なだめるように頭を撫でて、そのまま草原へと寝転がり空を眺めた。 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」 オスカーはしばらく無言のまま空を流れる雲を眺め、頬を撫でる風を感じていた。 リルヴェ−ルもやがて気分が落ち着きオスカーの胸の中から顔を上げた。 「‥‥遠出でもするか‥」 「え?」 「時間が空いたら誘いに来るといっただろう?。大切なお嬢ちゃんとの約束だからな」 「うん!」 |
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屋敷へと戻りアグネシカにのって再びその場所に戻ったオスカーは リルヴェ−ルを乗せて走り出した。 あまりスピードは出さずに片手で手綱を握り、もう片方の手を前に座るリルヴェ−ルの体に まわした。小さな体はオスカーの片手にすっぽりと納まり、リルヴェ−ルは背中をオスカーに 密着させ前に回された自分の両手程もある大きな手に自分の手を添えた。 身を切る風が冷たく感じなかったのは、安定した聖地の気候のせいだけではなく 体を寄せる少女の体から伝わる温度のせいだろう。 胸にあたる背中から伝わる体温と、手に添えられた小さな両手から伝わる温度。 アグネシカに揺られながらオスカーは、誰かを抱き締める温もりを久し振りに思い出していた。 「‥‥‥どうしてここにいちゃいけないのかな‥‥」 「え?」 「どうして帰らなくちゃいけないの?。 だってここはお父さんとお母さんが逢った場所なんでしょ。村にいるのも楽しいけど ここの方がもっと楽しいのに‥‥」 オスカーは答えるのに困ってしまった。聖地の制度を説明して理解出来る程 リルヴェ−ルはまだ大人ではない。確かに聖地は下界にくらべれば気候も安定し住み易いだろう。 しかし、ここに住むものは皆下界とは嫌でも切り離されてしまう。それが守護聖でなくても、 研究院に勤めるものや、学芸館に勤めるもの、守護聖達の屋敷に勤める者達までもが、 下界に居る家族、友人、恋人や、時間にまでも決別をつけなければならなくなる。 クラヴィスが守護聖として聖地にやって来たのはたった6歳の頃だと聞いている。 たった6歳で両親と引き離される‥‥、その孤独に長い間耐えて来た。 その事が心に暗い影を落とし、影は暗闇となって心の中を満たす。 それがどんなに辛い事かオスカーは想像出来なかった。 過去に歴代の女王や守護聖を多く輩出している名門の出のジュリアスと違い 無理矢理引き離されたであろうクラヴィスが、聖地を住みやすい場所と思っていないだろう、と いう事は想像出来る。思い返せば守護聖時代のクラヴィスはいつも屋敷や執務室の中に引きこもり 外を歩く事はまず見かけなかった。 煩わしい聖地から少しでも離れるように執務中や昼間でも寝入り、 ジュリアスによく注意をされていた記憶ばかりが浮かんでくる。 しかしそれを自分の口から、それもクラヴィスの娘であるリルヴェ−ルに言える訳もなく‥‥。 「お嬢ちゃんが帰ってしまっても、俺はお嬢ちゃんの事は忘れない‥‥」 「でも寂しくないの?。私オスカーの居るここに居たい。オスカーがいるから‥‥」 少し前から気付いていた。リルヴェ−ルの自分に対する執着は”初恋”と呼ぶ物だと。 しかしだからといってどうしようもない。 その想いに答えるつもりもないし、答える事もできない。そして距離を置く事も‥。 オスカーの中にリルヴェ−ルを可愛いと思う気持ちも確かにあるのだから。 「もう2度と会えない程離れてしまっても、気持ちも離れていく訳じゃない。 逢えなくても、俺がお嬢ちゃんを思っている事は変わらないよ‥」 「‥‥でも寂しいよ。逢えないんだもん」 (リルヴェ−ルが子供でよかった‥。これで年頃だったりしたら‥‥) 「もちろん、もうお嬢ちゃんに逢えないと思うと俺も寂しい」 「ホント?」 「ああ。嘘じゃない」 オスカーはリルヴェ−ルの額の髪を掻き揚げて軽くおでこに唇を合わせた。 掻き揚げた手を頬へと滑らせ親指で涙の痕をさすると、その指を伝ってまた涙が流れた。 「俺も寂しいのを我慢する。だからお嬢ちゃんも我慢出来るよな?」 「‥‥‥うん‥‥。寂しいけど我慢する‥‥‥」 胸に抱きついて涙を流す小さな少女に愛おしい気持ちを染み込ませるように 小さな背中を撫でて黒髪に唇を埋める。切ない泣き声はオスカーまでもをセンチメンタルにさせた。 BACK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■END なんにも書いてないけど、このシリーズはこれで一息つきました。 この続きはまた「STAND BY MEシリーズ」に移ります。 でもストーリー事体が続いてるわけではありませんので、お暇だったら 覗いてみて下さい。ありがとうございました−。お疲れ様です。 |
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