Stand By Me |
KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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Recover oneself 街に教会の鐘の音が響き渡る。それは時を知らせるものではなく、夫婦となる者達を 祝福するものでもなく、生を閉じた死者を弔う鐘の音だった。 「…いつ聞いても嫌な音だね。葬式の時の鐘は」 街では葬式に参列した者やそうでない者達が揃って黒い喪服に身を包んだ喪主の リルヴェ−ルに思いを寄せていた。黒いレースを一枚隔てていても彼女の目はウサギのように 赤く染まり目の回りは重く腫れて、普段明るい彼女とはまるで別人のような代わり果てた姿に かける言葉もなく、早々に式から帰ってきた人達で街の中はざわついていた。 もう一つ目を引いたのはそんな彼女に寄り添い、支えるように隣に立ち、彼女にとって煩わしい 事の全てを済ましていたオスカーの存在で、夫をなくして傷付いた彼女に うまい事取り入ろうとする、常識知らずの連中達を無言で追い返しているようだった。 「お嬢ちゃん、荷物はこれだけでいいのか?」 「…………………………」 「お嬢ちゃん…」 「…うん……、着替えだけあればいい」 「…そうか」 渋るリルヴェ−ルを説得し、彼女を親元へ連れて帰ることを決めたオスカーは 一日中部屋の中を眺めてぼーっとしているリルヴェ−ルに替わり、帰省の準備を進めていた。 「(今のお嬢ちゃんには家族が必要だ。いくらクラヴィス様でもこんな状態の お嬢ちゃんを叱りつけるような事はしないだろう…) お嬢ちゃん…、もう寝ろ。明日の朝はやく街を出るからな…」 「…うん………」 クリフトが亡くなってからこっち、リルヴェ−ルはまるで子供のようだった。 自分の身の回りの事は全て虚ろで、夜眠る時はオスカーに添い寝をねだりオスカーがそれを断ると そのかわりに彼女が眠るまで手を繋いでいる事を約束させられた。 しかしリルヴェ−ルにとっては、その繋いだ手から伝わる僅かな温もりだけが支えになっていた。 次の日の朝、早くに家を出た二人はバスと電車に飛行機とあらゆる交通網を乗り換えて クラヴィス達の住む街に辿り着いた頃には、もう夜も遅く日付けも変わりそうな時間になっていた。 「…オ……オスカー……」 「ん?、なんだ…」 「やっぱり明日にしようよ。…もうこんな時間だし、ね?」 「何言ってるんだ。自分の家だろう?。灯りもまだついているし大丈夫だ」 「………でも…………あ」 門の前まで来て戸を叩く事を嫌がるリルヴェ−ルを無理矢理言い聞かせて、オスカーは 家の敷地内に入り玄関に吊るされてある呼び鈴を鳴らした。 「はーい」 家の中からは聞き覚えのある声で返事があり、”ガチャリ”と鍵を外す音がして 開かれた戸の隙間から中の灯りがこぼれ、二人の影を長く伸ばした。 「お久し振りです、アンジェリーク様」 「オスカー!!!」 「お変わりありませんようで何よりです」 「あ………相変わらず口がうまいわね。最後に別れた時からもう何年たったと思ってるの?。 もうすっかり年をとってしまって……」 「そんな事ありませんよ。本当に聖地でお別れした時とそう変わりません」 「フフ…ありがとう。でも、ここへは何をしに?。わざわざ訪ねてきてくれるなんて…。 もしかして、もう守護職は………」 「はい。次代の青年へと交代致しました」 「そう……永い間お疲れさまでした」 「ありがとうございます。 ………実は本日こんな時間にお邪魔しましたのは、御会いする事だけが目的ではないんです」 オスカーは右に2歩程ずれて、背中の影に隠れていたリルヴェ−ルを前に押しやった。 「!!!!!」 「彼女を送り届ける為に………」 「………あ………あの………」 「………馬鹿な子ね……」 「お母さっ…!!」 「”ただいま”でしょ」 「お母さん!!」 リルヴェ−ルは長い事音信不通にしていた事と、勝手に家を飛び出した事を 開口一番に叱られるだろう…、とかなりの覚悟をしていたが、 何も変わらないやさしい笑顔で出迎えてくれたアンジェリークに、思わず抱きついた。 「ごめんなさい!!。………ごめんなさいお母さん!!」 「もういいわリルヴェ−ル…泣かないで。お帰り。よく帰ってきてくれたわね…」 アンジェリークの腕の中で喋る事もままならない程泣きじゃくるリルヴェ−ルを アンジェリークは優しくなだめていた。 「リルヴェ−ル…、あなたの気持ちはわかっていたつもりよ。 でも母親としてあなたを心配する気持ちもあった。それでもどんな時もあなたの幸せだけを 願ってたわ。それはわかっていたんでしょう?」 「…う…っうん…」 「だから一言、言って行って欲しかったわ…。 クリフトと一緒に居る事があなたの為になるなら、私には反対する理由はないもの…。 それで、彼はどうしたの?」 その台詞を言った瞬間、リルヴェ−ルのからだが強張った。 「リルヴェ−ル?」 「…………………………」 「…彼は数日前に亡くなりました」 「!!………そう………だったの……」 「自分が最後を看取りました。それで今の彼女には家族といる事が一番と思いお連れしたんですが…」 「……そう……。ありがとうオスカー。世話をかけたわね」 「いえ」 「でもどうしてあなたがこの子を?」 「それは私も驚きました。守護聖になる以前に暮らしていた街に、お嬢ちゃんが居たんです」 「そう。なんにしても嬉しい偶然だわ。 リルヴェ−ルは昔からオスカーにだけは素直だったものね」 「お母さんっ!」 「とにかく入りなさい。皆まだ起きてるわ。顔を見せてあげて…。 でも、怒鳴られても私は止めないわよ」 「………う…うん……。お父さんも起きてるの?」 「ええ」 「……何だか恐い。お父さん、怒るとすっごく恐いんだもの…」 アンジェリークはリルヴェ−ルとオスカーを家の中にあげると、玄関の戸を閉めて 再び鍵をかけた。 リルヴェ−ルは恐る恐る足を進め、アンジェリークの背中の後をついていき、 リビングらしき広間が見えてくると、その影から中の人影が見え始め 思わず止まったリルヴェ−ルを、オスカーが優しく背中を押して部屋の中にはいった。 「クラヴィス」 アンジェリークが声をかけると、机の上でタロットをめくっていたクラヴィスが その手をとめてゆっくりとこちらを向いた。その顔には驚きの様子は見られない。 玄関先でのやり取りが聞こえていたんだろう。机の上のタロットを一つにまとめると、 衣擦れの音をさせて静かに立ち上がり、リルヴェ−ルに歩み寄った。 ふと上げられた手に一瞬打たれると思ったリルヴェ−ルはぎゅっと目を瞑り体を強張らせた。 しかし暗闇の中で感じたものは、クラヴィスに優しく抱き締められた感触だった。 「…お…父さん…」 「……………………」 クラヴィスは表情も変えずにリルヴェ−ルから腕を離すと、そのまま自室へと戻っていった。 「………お父さん!。………………ただいま…」 階段を昇るクラヴィスの背中にリルヴェ−ルは声をかけたが、それでもクラヴィスは歩みを 止めずに部屋へと戻って行った。 昔と変わらない父の態度。クラヴィスは何かあると照れを隠す為に わざと何も反応を示さない時がある。誕生日や父の日、祝い事の度にそんな素っ気無い姿を見せられ 子供心にがっかりする事もあったが、今はその何もない態度が嬉しかった。 そんなクラヴィスと入れ違いになるように2階から兄のザイオンが降りてきた。 やはり玄関先での会話が聞こえたらしく、驚いた様子は見せなかった。 しかし階段を降りてくるその足取りには、明らかに怒りが見られた。 リルヴェ−ルはザイオンに怒鳴られるのを覚悟した。 昔から何を言いながらも結局はリルヴェ−ルに甘い両親に変わって、彼女を 厳しく叱りつけるのは兄、ザイオンの役目だった。 ザイオンはそう言った意味じゃ兄というより親に近い心境でリルヴェ−ルに向かっていった。 「あ……あの………お兄ちゃん……。その………た……だいま…」 「…………………………リールー……」 ”パシィッ” ザイオンがリルヴェ−ルの目の前に立った瞬間、ザイオンの手がリルヴェ−ルの頬を叩いた。 「ザイオン!」 「甘いよ、母さんも父さんも!。こんなに長い間俺らをほったらかしにしておいて いざ帰って来たら抱きしめて終わりなんて!」 「勝手してごめんナサイお兄ちゃん……」 「まったくだ!。 お前があんな風に家を出て行ってから、父さんと母さんがどれだけ辛い思いをしてたか…。 俺は全部見てた。お前の浅はかな行動でたくさんの人が傷付いたんだ」 「……本当にごめんなさい……」 「………っとに………。元気でやってるならそう連絡くらいしてもいいだろうが…。 父さんがそれはないって言ってたけど、最悪何かの事故で もう死んでしまったんじゃないかって…そう思いながら暮らすのってすごくきついんだぞ」 ザイオンは言いたい事だけを言うと、そのまま奥の部屋へと消えて行った。 後に残されたリルヴェ−ルは叩かれた頬をさすりながら、涙目でうつむいてしまった。 「リルヴェ−ル……ザイもすごく心配してたのよ。あんなに怒る程に……」 「うん……解ってる。お兄ちゃんお父さんと似てて素直じゃないもん…」 「そうね……。お茶入れるから座ってなさい」 アンジェリークはリルヴェ−ルをソファーに促すと、台所へと向かった。 部屋に残ったオスカーとリルヴェ−ルは荷物を邪魔にならない壁際に置き オスカーが先にソファに深く座り、リルヴェ−ルは叩かれた事で流れる 気まずい空気の中オスカーのすぐ横に座り込んだ。 「………叩かれちゃった…」 「自業自得だな。4年も音沙汰なしじゃ心配するのが当たり前だろう」 オスカーは段々赤くなっていく頬を手の甲でさすり、リルヴェ−ルのおでこを軽く弾いた。 「冷やしてこい。でないと後で腫上がるぞ」 慰めの言葉を期待していたリルヴェ−ルは不満そうに口を尖らせて立ち上がると 台所へと歩いて行った。 台所ではお茶の為のお湯を準備しながら、アンジェリークとザイオンが話し込んでいた。 「言い過ぎよ、ザイオン」 「何言ってるんだ。リールーがいなくなって母さんだって泣いてたじゃないか…。 叱られるのを覚悟して帰ってきたのに、両手広げて迎えられちゃあいつだって居づらいだろ」 「……あなたには嫌な役ばかりまかせてしまうわね……」 「いいさ別に。母さんと父さん程人間ができてないから、どうしても怒鳴っちゃうんだよな。 昔からだからリールーだって解ってるだろ。 ……もう寝る」 「ええ。おやすみなさい」 ザイは廊下に面した別の出口から部屋へと戻って行った。 リルヴェ−ルは会話を立ち聞きしていた事がばれないように、数分そこで息を潜めてから キッチンに姿を現した。 「あら、どうしたの?」 「頬を冷しとこうかと思って……」 「そう。ちょっと待ってね」 アンジェリークは棚から綺麗なタオルと持ってくると、水で濡らし緩く絞ってリルヴェ−ルの 頬に当ててやった。 「お母さん…」 「なぁに?」 「本当にごめんなさい…」 「もういいのよ。あなたが無事に帰ってきてくれただけで…。 それに本当の事を言うとね、あなたが思う程心配はしてなかったのよ」 「え?。』 「あなたがクリフトと駆け落ちした後、クラヴィスがこっそりあなたの事を占ってたみたいでね 実は水晶球の中で楽しそうに笑うあなたも何度か見せてもらったのよ」 「そうなの!?」 「居場所を調べて連絡をつける事は簡単だったけど、そうすれば増々あなたは意地になるでしょ?。 だから、あなたの方から連絡してきてくれるのをずっと待ってたの…。 そう二人で話し合って決めてからは、水晶球であなたを見る事もなくなったから クリフトの事は知らなかったわ…………。大丈夫?」 「うん………て言うのもなんだか変だけど…、もうだいぶ平気。 オスカーがずっと居てくれたし…、帰って来れたし……」 「そう………。彼に感謝しなくちゃね」 温くなったタオルをアンジェリークはそっと離し、湯気の吹いていたケトルからティーポットへ お湯を注いだ。器にお茶を注ぎ入れるとトレイを持ってオスカーの待つリビングへと戻って行った。 |
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Cherish Heart オスカーがクラヴィスとアンジェリークの屋敷に滞在して1週間ばかりが経った。 リルヴェ−ルは今は明るく笑顔を見せる程になり、古い友人達と遊びに出かけたりと クリフトを亡くした悲しみから立ち直りつつあった。 「オスカー……、もう様はよして。今の私は一般市民なのよ」 「いいえ。例えそうでもアンジェリーク様を尊敬している気持ちは変わりありませんから…」 「…あなたも結構強情ね…。それで何?」 「御言葉に甘えて一週間もこちらにお邪魔してしまいましたが、 そろそろ旅にでも出ようと思うんです」 「旅に?」 「はい。もともとそのつもりでしたし、残っているかどうかも解りませんが 両親の墓にも顔を見せておかないと…」 「そう。こればっかりは引き止められないわね」 ガタン…。 その時二人が話している後ろで物音がして振り返ると リルヴェ−ルがショックをうけたような顔で立ちつくしていた。 「……リルヴェ−ル…」 「今の話本当!?」 「ああ。家族団欒をこれ以上邪魔できないしな」 「そんな事ないよ!。まだ行かないで、もう少し居てもいいでしょう?」 「………しかし……」 リルヴェ−ルはオスカーに詰め寄り両腕にすがっていた。 「リルヴェ−ル…。無理をいってはダメよ。 オスカーだってこれからの人生を楽しまなくっちゃいけないもの…」 「それは解ってるけど、でももう少し……」 「…………解った。じゃあ出発は明日にしよう。それでいいか?」 「後一週間」 「…………明後日…」 「後6日」 「……………解った、出発は3日後だ。これ以上はダメだ」 「………3日……?」 「そんな顔をしないでくれ。別に今生の別れって訳じゃない。たまには遊びにくるさ。 可愛いお嬢ちゃんの顔を見にな」 暗い顔のリルヴェ−ルの頬にオスカーは軽くキスをして頭を撫でた。 リルヴェ−ルがリビングに消えると、アンジェリークが溜め息まじりに話しだした。 「リルヴェ−ルも我がままだけどオスカー、あなたも大概甘いわね。 あなたがなまじ聞いてしまうものだから、あの子も我がままを言うようになるのよ」 「わかっていますが、どうもお嬢ちゃんには弱くて……。 できるならどんな我がままも聞いてあげたいんですけどね……」 「……………………」 「なんですか?」 「…いえ、なんでもないわ」 (オスカーはあの子の事意識してるのかしら?。そのわりには………??) オスカーは今夜発つつもりだったがリルヴェ−ルとの約束で3日後に延期になってしまった。 両親の墓参りも、旅に出るというものただの言い訳だった。 ここでの生活が心地よすぎて離れられなくなるのがオスカーは怖かった。 リルヴェ−ルが日に日に元気を取り戻す様子を見ながら、彼女の行く末を見届けたくなってしまっている。 初めて出逢った時はまだ幼い少女だった。自分の腰よりも小さな黒髪の少女。 再び出逢った時は自分よりも年上の、しかし少女だった頃の面影を残していた女性になっていた。 自分の知らぬうちに恋をして、愛する人を見つけて、色んな悲喜を経験して綺麗なレディに成長し そして最愛の人を失うという堪え難い辛さまで味わって、それからも立ち直ろうとしている。 「………もう俺の手が必要な子供じゃない。このままじゃ、もしリールーが結婚する なんて事になったらみっともなくなりそうだ……」 自分に甘えてくるリルヴェ−ルは可愛い事この上なかった。娘とも妹とも恋人とも あてはまらない不思議な関係……。その気持ち良さに甘えているのはオスカーの方だった。 「何所か俺にあった土地に住み着くのもいいかもな。美しいレディがいればなおさら……」 自嘲気味に小さく笑うと、オスカーはリビングから庭へと続くガラス戸を開けた。 ガーデニングの好きなアンジェリークのおかげで、庭にはたくさんの花が咲いていた。 春に咲くもの、夏に咲くもの、秋に咲くもの、冬に咲くもの…… 色とりどりの花達が一年中咲き誇っている。 その中に立っているリルヴェ−ルがオスカーに気付いて笑いかけて手を振った。 それに答えて小さく手を上げて緑を眺めるリルヴェ−ルをオスカーはいつまでも目で追っていた。 リルヴェ−ルとの約束の3日は瞬く間に過ぎた。その間リルヴェ−ルは周りが気にする程 オスカーにべったりで、オスカーもそれを拒もうとはしなかった。 そして3日目、荷物をまとめたオスカーが朝早く……というより 日付けの変わった深夜に部屋を後にした。 リルヴェ−ルの部屋の前でオスカーは足を止めると、ドアを静かに開ける。 中ではリルヴェ−ルがベッドの中で熟睡していた。 ベッドのすぐ横、顔が見える所まで足を運びリルヴェ−ルの寝顔を眺める。 「……またねだられるとそれを振り切るのが辛いからな……。 悪いがこれでさよならだ」 頬をそっと撫でてオスカーは静かに部屋を出て行った。 下に降りるとクラヴィスもアンジェリークもまだ起きていた。 別れ際のリルヴェ−ルを心配して夜のうちに発つ事を二人には前もって話しておいた為で その顔には悲しみといった色は見られなかった。 「長い間お世話になりました」 「あなたも気をつけて……。元気でね」 「はい」 「…………………無理をしない事だ。自分自身を欺けば何も手に入れる事などできん」 「クラヴィス様?」 「…………手向けの言葉だ。どうやらお前は外見程精神は年を重ねてはいないようだな…」 「……それは私が子供だという事ですか?」 「………深い意味はない。そのままの意味だ」 「……??。では有り難く頂いておきます」 クラヴィスの言葉の真意が解らないまま、オスカーは荷物を手に持って屋敷を後にした。 門の外まで出てオスカーを見送るアンジェリークに、振り返って礼をすると駅行きのバスに乗り込んだ。 そのバスが見えなくなるまで、アンジェリークは月明かりに照らされていた。 バタン!!。ガタッ……ばたばたばた…!!。 「お母さん!!!」 リビングで朝食の準備をしていたアンジェリークは、2階から大きな足音をさせながら 階段を駆け降りて来たリルヴェ−ルを笑顔で迎えた。 「おはようリルヴェ−ル。朝から元気ね」 「お母さん!!、オスカーは!?。オスカーの荷物がないんだけど……!!」 「…………オスカーなら昨日の夜、あなたが眠ってから発ったわ」 「そんな!!、どうして………!?」 「…別れ際にあなたの顔を見るのが辛いから…って言っていたわ。 あなたに泣かれると行けなくなるからって………」 「だからってなんの言葉も無しに行くなんて酷い!!」 「それについては謝っておいて欲しいって………リールー!!??」 アンジェリークの言葉も最後まで聞かずにリルヴェ−ルは家の外へ飛び出した。 夜のうちにたったと聞いてもそれが嘘であって欲しいと、左右を見渡し見なれた炎色の髪を捜し それが見当たらないと、角まで走って更に道の奥に目を凝らしたがオスカーの姿はなかった。 「………はぁ……はぁ……。酷いよオスカー…………どうして………」 溢れた涙を拭いながらリルヴェ−ルは家に戻った。自分に声もかけないで去って行った オスカーに対する悲しみは怒りに変わり、その鉾先はそれを引き止めなかった両親に向けられた。 「……リルヴェ−ル……」 「どうして!!。どうして止めてくれなかったの!?」 「……リルヴェ−ル、話を聞いて…?」 「言い訳なんてなんにも聞きたくない!!。どうして私に隠してたの?。 お母さんとお父さんは知ってたんでしょ?、オスカーが夜のうちに出て行くつもりだったのを!」 「……ええ」 「ならどうして!!」 「オスカーに口止めされたからよ。私もその方がいいと思ったわ。 あなたが又我がままを言い出したら、オスカーもどうしようもなくなるもの…。 いつまでもあなたばかりに構ってもいられないのよ、彼も…」 「……でも………でも………側に………」 「え?」 「……側に……居てくれるって……約束したのに……。 独りにしないって……そう約束してくれたのに!!」 「リルヴェ−ル……」 「私………オスカーが居てくれないとダメなの………。 辛くって我慢できない!。クリフトがいなくなっても独りを感じないでいられたのは いつもオスカーが側に居てくれたからなのに………」 「今は私達がいるでしょう?」 「解ってる。でもダメなの…………。オスカーじゃないと………」 涙は止めどなく流れ、リルヴェ−ルはついには崩れ落ちてしまった。 その異常な悲しみ様にアンジェリークはリルヴェ−ルの心のうちを悟った。 「リルヴェ−ル…?、一つ教えて。オスカーの事は好き?」 「…どうしてそんな事……」 「好き?」 「嫌いならこんなに悲しい訳ないじゃない!」 「クリフトが好きだった気持ちとオスカーを好きな気持ちは同じ?」 「え?」 「大事な事よ。もし違うならそれはあなたのただの我がまま。我慢なさい。 でも同じなら………私が力になってあげる……」 アンジェリークのいきなりの言葉にリルヴェ−ルは一瞬泣くのも忘れて母の瞳を見つめた。 宝石のような透き通ったブルーグリーンの色の奥に、母の真意を捜すように……。 「……解らないそんな事……。でも側に居て欲しい。他の誰も代わりにはならないの…」 「なら後を追ってその意味を確かめなさい。オスカーを目の前にすれば あなたの心の中がはっきりと解るから。 そう意識しなさい。あなたはオスカーをどう想っているのかを確かめるのよ…」 「………お母さん……」 アンジェリークに腕を掴まれてリルヴェ−ルは立ち上がった。流れ落ちる涙は アンジェリークに拭われてその両手がリルヴェ−ルの頬に添えられ、熱を測るように リルヴェ−ルに額を擦り合わせた。 「しっかりなさい!。泣いてたって何も変わらないわ!」 「…うん!」 アンジェリークはリルヴェ−ルの手を繋ぎ、クラヴィスの部屋に向かった。 占いを生業としているクラヴィスの部屋の中は、聖地に居た頃を思わせるような闇に包まれていた。 「クラヴィス」 「………………」 「オスカーの居所を占ってあげて」 「………………」 「お父さん、お願い!」 クラヴィスは一つ息を吐くと目の前の水晶球に手をかざした。 暫くすると水晶が鈍く光り始め、その中にオスカーの顔が見え始めた。 「オスカー!!」 更にクラヴィスが神経を集中させるとオスカーの横に大きな樹が見え始め その眺める先には壮大に広がる草原が見えた。 「クラヴィス?」 「これ以上は何も見えん」 「そんな……」 「?」 リルヴェ−ルはその景色に見覚えがあった。 「待ってその樹………。あそこ?」 「リルヴェ−ル……解るの?」 「うん。行ってくる!!」 両親の返事も待たずリルヴェ−ルは部屋を飛び出した。 部屋に残ったアンジェリークとクラヴィスはその後ろ姿を見送っていた。 「……クラヴィス……、あれ以上見えないって嘘でしょう…」 「…………あれが本気ならこれだけで解るはずだ……」 「素直じゃないんだから……」 アンジェリークはクラヴィスの首に腕をまわし、その膝の上に座った。 机の上の水晶球にはすでに景色が変わり、必死に走るリルヴェ−ルが写っていた……。 |
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