お茶はいかが?



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




 「知恵を与える地の守護聖、ルヴァといいますー。
  ‥今回の女王試験は何しろ急な事でしてー、しかし、あなた方が選ばれた事は
  何かしらの意味を持っているはずですー。貴女達にとっては解らない事だらけで
  不安もあると思いますが‥‥、その中でできる限りの事をして下さい」

 アンジェリーク・コレットの彼への第一印象は、あまりよくないものであった。
ゆっくりと、頭の中で話す事を考えながら喋っているかのような歯切れの悪さ。
加えて、大人しそうなその外見や表情、およそ自分と気のあう人物とは思われなかった。




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 彼女が一番最初に打ち解けたのは、やはり年も近い”年少組”と呼ばれている3人の守護聖。
中でも”鋼の守護聖・ゼフェル”様はとても馬があい、時間ができると彼のところへ遊びにいっていた。

 「こんにちわ、ゼフェル様」
 「おう、入れよ」

 育成を頼みにきた訳でなく、試験についての話をしにきた訳でなく、ただ遊びにきたアンジェリークを
ゼフェルは自分の執務室に招き入れた。
執務をする為の広い仕事机の上は、何に使われるのかアンジェリークには検討もつかない
小さな機械の部品が無造作に転がっている。
それらをいじり、片目にレンズをはめたゼフェルが顔も上げずに黙々と作業をしている。
 鋼の守護聖付きの秘書的役割を果たしている青年は、慣れた様子でアンジェリークに椅子を勧め
それに腰掛けたアンジェリークに飲み物を振る舞った。

 「どうですか?」
 「‥‥‥‥‥後ちょっと‥‥‥で‥‥」

 ゼフェルは手元に集中し、最期のネジをはめ込んだ。
その手の中には小さな腕時計があった。アンジェリークがスモルニィ初等部を卒業した時に
両親がプレゼントしてくれた思い入れのある腕時計だった。
学制時代よりは時間の拘束の少ないここ聖地では、その腕時計はあまり役目を果たしていなかったが
アンジェリークはたまにその腕時計をしていた。
 しかし、ある日の朝腕時計に目をやると針が止まっている事に気がつき、時計修理屋など
見当たらない聖地で、ゼフェルにその修理を頼み、ゼフェルはそれを二つ返事で引き受け、
”夕方には直ってると思うぜ。その頃にまた来いよ”
と朝一番で執務室に訪れたアンジェリークに、返事をしたのだった。

 「ほら、出来たぜ!」

 片目のレンズを外したゼフェルは、その女の子用の小さな可愛らしい腕時計を持ち主の右腕に
はめてやった。腕時計は小さく”チッッチッッチ”と音を立てながら、規則正しく動きだしていた。

 「ありがとうございます!、ゼフェル様」
 「電池が切れただけだ。ついでにあちこち手直ししてやったから、とーぶんは心配いらないぜ。
  それでも壊したらまた俺んとこ持って来いよ」
 「こわしたんじゃないです!。朝起きたら止まっちゃってたんだもん」
 「強い衝撃に耐えられるような作りじゃねぇんだから、それしたまんま暴れんなよ」
 「も〜〜!、ゼフェル様ったら!」

 そう唇を尖らせながらも、アンジェリークの顔は笑っていた。
ゼフェルも素直な表情で彼女と接している。どうやらゼフェルも、アンジェリークがゼフェルに
対する印象と、同じ印象を彼女に持っているらしい。




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 ゼフェルの執務室を後にして、少し早いが寮に戻ろうかと聖殿の廊下を歩いていたアンジェリークは
ふと、ある人物に呼び止められた。

 「はい?」
 「あー、アンジェリーク。この後何か予定はありますかー?」
 「いいえ。何もありませんけど‥‥」
 「あなたさえよかったら、私の所でお茶を飲んでいきませんかー?。
  実はですねー、マルセルにちょうどいいお茶菓子を貰ったのですが、1人では食べきれなくて
  手伝っていただけるととても助かるんですよー」
 「マルセル様の手作りお菓子?」
 「ええ」

 アンジェリークはこの人物、ルヴァが苦手だった。二人きりになどなっても話す事が何も浮かばないし
気まずく居ずらい空気がどうしても流れてしまう。
 しかし‥‥”マルセル様の手作りお菓子”は守護聖様の間ではかなり評判の味だという。
甘いものを好んで食べないオスカーやジュリアス、あのクラヴィスさえも進められれば口にするという
聖地に暮らす女の子にとっては、庭園の奥にあるカフェテラスのケーキよりも
食べてみたいお菓子だったりするのだ。

 「‥‥‥‥‥‥」

 アンジェリークはしばらく考え込んだ後、誘惑に勝てずにルヴァの誘いを受けた。
時間も遅いし、そう長く引き止められもしないだろう、とふんで。




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 「おいしーーい!」
 「そうですかー?、それはよかったですねー」

 出されたケーキをひとくち口にした途端、アンジェリークはそう叫んでいた。
あれ程気の進まなかったルヴァとの二人きりも気にならない程、”マルセル印”のケーキに夢中になり
ルヴァの煎れてくれたきれいな翠色のお茶がまた、甘いケーキとマッチしてとても美味しかった。

 「このお茶もおいしーです。なんていうお茶なんですか?」
 「これはですねー、下界にある惑星の一つの中の大陸で採れる”深蒸茶”というものなんです。
  ”緑茶”と呼ばれるお茶の一種でー、元来の製法とは違った新しい手法で作られている
  珍しいお茶なんですよー。私はこの渋みと自然の甘味の上手く合わさったこの味が好きなんですがー
  意外にもこういった甘いお菓子にもあうんですよねー」

 永遠と思えそうなルヴァの講釈もあまり気にせずに、アンジェリークは黙々とケーキを頬張っていた。
ルヴァの言葉ではないが、確かにこのお茶は甘いものによくあう。
ケーキを口にした後このお茶をひとくち含むと、口の中がさっぱりして、
それが次のひとくちを更に美味しく感じさせる。
 ケーキとお茶を交互に口に運んでいるアンジェリークを他所目に、ルヴァの講釈はまだ続いていた。
壊れたレコードのように誰かが止めないと、止まらないのだろうか?。

 「‥‥えー、このお茶はですねー健康にもとても良いんですよ。毎日飲み続ければ
  体のなかをきれいに、また女の方は興味あると思うんですがダイエット効果もあるようでしてー」
 「ルヴァ様、こっちのケーキも頂いても良いですか?」
 「あーー、はいはい。どうぞー」

 アンジェリークは平らげたケーキとはまた種類の違う2個目のケーキを、手前に持ってきて
一指しづつフォークを差し込んでいる。
ふと気がつくと、ルヴァの”緑茶”の講釈は終わっていて、ケーキを頬張るアンジェリークを
笑いながら眺めていた。
 アンジェリークは口の中の物を飲み込んでお茶をひとくちすすると、その視線にこたえた。

 「何ですか、ルヴァ様?』
 「ーいえ、ね。あなたがとても美味しそうに食べているので、つい眺めてしまいました」
 「‥‥‥そんなにがっついて食べてました?」
 「いえいえ、そういう訳ではなくてですねー。
  えぇ‥‥と‥‥、なんていったらいいんでしょうか‥‥〜〜」
 「‥‥‥?‥‥‥」
 「‥‥そう、美味しそうに食事をする人とは、一緒にいて楽しいですよねー。
  見ているこちらまで、その美味しさが伝わってきそうです。
  ですからー、えぇ〜と‥‥あなたをお茶に誘って本当によかったですよー」
 「‥‥あ‥‥ありがとうございます///////////」

 思わぬ台詞に不覚にも顔が赤くなってしまったアンジェリークは、どもりながらもほめられた礼を述べた。
ルヴァはそれに優しい笑顔で答えると、それを見たアンジェリークは増々体温が上がるのを感じた。

 『(何?。どうしちゃったの私?。急になんだか暑くなってきた‥‥。???)』




 ……とくん




 その出来事以来、アンジェリークはルヴァと逢う度真夏の日射しに照らされているかの様な暑さに見舞われた。
ルヴァが自分に笑いかけてくれる度に”とくん”と胸の奥が疼く感じがする。




 「どうしちゃったの私???」




 そしてアンジェリークは今日も試験をすすめる為に守護聖様達の執務室のある聖殿へと足を運ぶ。
しかし、目的の人物はゼフェルから他の人へと変わっていた。





ゼフェルの隣の隣の部屋‥‥‥‥‥地の守護聖様へと‥‥‥‥‥‥。




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キリ番「2000」を申告してくれたなっぱさんのリクで
「ルヴァ×勝気で 初めての出逢い」
ということでした。
「どういう風に惹かれあい、そして恋に落ちたのか」
それがテーマになっていますが、‥‥‥‥いったいどんなやねん
というような、出会いでした。すいません。余りろまんちっくではなかったですねー。
とりあえずはケーキにつられたコレットでした。






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