春風の嵐



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




 それは、アンジェリーク・リモージュが新しい宇宙の女王に即位し、
補佐官の任をロザリアに引き継ぎ、宮殿を出る身支度を整え始めた時の事。
それまで与えられていたディアの部屋の戸を叩く者がいた。

 「はい」
 「私だ」
 「ジュリアス?、まぁお入りになって」

 ディアの声と共に扉は開かれその向こうからジュリアスの姿が現れた。
その面持ちはどこか緊張しているようであった。

 「後でわたくしの方から御挨拶に伺おうと思っていましたのに‥‥」
 「うむ‥‥‥‥‥。その‥‥‥‥準備は進んでいるか?」
 「?。ええ。もともと荷物もそんなに多くないですしそれが何か?」
 「その‥‥‥‥(これからの事なんだが‥‥)‥‥‥いや‥‥」
 「?」
 「‥‥ま‥‥‥また出直そう。忙しい時に邪魔をした」
 「ジュリアス?」

 ディアが止めるのも聞かずにジュリアスは部屋を出ていってしまった。
結局何の用事でディアの元を訪れたのか、ディアはわからないままで‥‥。

 「一体何を‥‥‥‥‥‥」

 ディアは記憶の中のジュリアスの行動パターンをフル回転させて、彼の行動を分析した。
お互いの思いを確認しあったのがまだ自分が候補生だった頃。ジュリアスはある意味不器用な質で
女王陛下に御仕えするという役目をもったまま、同じ役目をもった補佐官という立場に納まるディアと
なかなかプライベートで付き合う事ができなかった。

 首座という責任ある立場が、必要以上に自分に厳しくあることを課し甘えを許さなかった。
だから、たまに二人きりになると意味不明な行動が目立つ事があり、ディアはジュリアスが一体自分に
何を言いたいのか、それを読み取るのにかなりの苦労を重ねてきた。
 しかし、長い年月を重ねた事でジュリアスの性格を深く理解する事となり、
今では大体の予想をつける事ができる。そして今回の突然の訪問の意味も‥‥‥‥。

 「‥‥‥‥‥‥‥さて、どうしたものかしら」







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その頃ジュリアスは独り宮殿の廊下を早足で歩いていた。

 「何をしているのだ私は‥‥。ディアにこんな遠慮をしていてどうするのだ?。
  お互いどちらかの役目が終わったら、その時に‥‥‥‥。
  それは彼女が補佐官になった頃約束していた事だ」

 …一緒に暮らそう…
その一言がジュリアスはここ数週間言えないでいた。







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 ちょうど同じ時刻、再びディアの部屋の戸を叩く者がいた。
その者はディアの返事を待つ事なく扉を明けて中に入ってきた。金の髪の彼女の幼馴染み‥‥。

 「ディア。準備は進んでる?」
 「アンジェリーク‥‥」
 「あら、まだ荷物運び始めてないの?」
 「‥ええ」
 「早くしないと、ロザリアがこの部屋に入れないわよ?」
 「わかってるわ‥。あなたは?」
 「私の荷物はもうほとんどクラヴィス様のお屋敷の方に運び終わってるわ。後は簡単な手荷物と私だけ」
 「そう‥‥‥」
 「どうしたの?。何か心配事でも?」
 「実はジュリアスがまだ何も言ってこないのよ。あの様子からして約束を忘れている訳では無さそうだけど」
 「そうなの?。‥‥う〜ん」
 「彼の方から約束を切り出す何かいい切っ掛けはないかしら?」
 「ならこんなのはどう?」

アンジェリークはディアの耳に小声で一つの案を提案した。

 「どう?」
 「そうね‥‥‥。それをやってみようかしら‥」
 「じゃあ続きの片づけは私がやっておいてあげるから、いってらっしゃいな」
 「ええ」

ディアは片づけをアンジェリークに任せると部屋を出て、ジュリアスの私邸に向かった。







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 同日の午後。
ジュリアスは屋敷で頭を唸らせていた。一行にも満たない短い台詞をスラッと言えばいい事だと
頭ではわかっていても、いざ本人を前にするとその一言が口をついて出てくれなかった。
自分自身を情けなく感じ始めた時、執事がディアの訪問をジュリアスに告げた。

 「ディアが?」

 ジュリアスは執事にディアを部屋にまで通す事を言い渡し、再び訪れた機会に今度こそと
決意を固めた。

 『失礼いたします。』

 聞きなれた声と共にディアが部屋の中に進んできた。
彼女が近付く事に心臓がバクバクと鼓動しやはり台詞は言えそうにもなかった。

 「あの‥‥」
 「あ!、ああ」
 「わたくしと一つ賭けをしませんか?」
 「賭け?」
 「はい。わたくしが勝ったらわたくしの言う事を一つ聞いて下さい。
  あなたが勝ったらあなたの言う事を一つわたくしが聞きます」
 「‥‥‥??。いきなり何を‥‥‥」
 「受けて下さいます?」
 「(‥‥‥まあいい。ちょうどいい機会だ。)わかった。して賭けの方法は?」
 「ダーツで」

 その瞬間ジュリアスの心の中に一筋の光が刺したようだった。
ダーツなら日頃から興じている為負ける気はしなかった。後になって冷静になってみれば
その事を知っているはずのディアが何故そんな賭けを持ち出したのか、容易に予想出来たのだが
軽い興奮状態にある今のジュリアスには、その真意を見抜けなかった。

 ルールをあまりよく知らないディアの為に、ジュリアスは簡単な方法を提案した。
お互いに3本つづ投げて点数の多い方が勝ちとし、ディアの為に的から外れた場合は
的に当たるまでやり直しができる、というルールで。点数は中心から10点、5点、0点。
そして中心の更に真ん中にある直系1ミリ程の小さな枠が20点。

 「では私から」

最初にジュリアスが的に向かって矢を投げた。矢は中心から1〜2ミリ程外れて的に刺さった。

 「では、次はわたくしですね」

次にディアが矢を投げる。ディアの投げた矢はジュリアスの投げた矢のもう一回り外側の枠に刺さった。

 「‥‥‥‥‥‥」
 「‥‥‥‥‥‥」
 「‥‥‥‥‥‥」

 ジュリアスの3回目の矢はまたも5点の枠に刺さった。ジュリアスは合計で15点。
ディアの2回目の矢は惜しくもライン上で0点。ダーツをあまりやった事のないディアにしてみれば
予想通りの結果だった。むしろ的に当たるだけ素質はあるのかもしれなかったが‥‥。
それがディアの狙いだった。

 「では最期の一つ、投げますね」

 ディアは深く息をすって的に向かって矢を投げた。
最期の一投は空をきって、ジュリアスもディアもその行方を見据えた。

 「!!!」
 「!!!」

最期の一投は運が良いのか悪いのか的の中心、20点枠に見事に突き刺さった。

 「!!!!!!!」
 「!!!!!!!」

 思わぬ展開に二人はお互いを見合わせた。互いに言葉が出てこなかったが、ディアが
恐る恐る声をあげた。

 「あの‥‥‥‥ジュリアス?。わたくしの勝ち‥‥‥ですよね?」
 「あ‥‥‥‥ああ。そうだな。(よりによってダーツで負けるとは‥‥‥‥)
  約束は約束だ。そなたの言う事を何でも一つだけ聞こう」
 「‥‥‥‥‥‥あの‥‥」

予想外の展開にディアは混乱したが、口からは素直なディアの気持ちが飛び出した。

 「じゃぁ、明日からよろしくお願いします」
 「??。よろしく?」
 「はい。もうわたくしは自由の身です。これからはあなたの側に居たい‥‥‥。
  だから、わたくしをあなたの側において下さい」
 「ディア!!」
 「いつか約束しましたよね?。わたくしそれをずっと楽しみにしていました。
  ‥‥‥‥これからはあなたの側に‥‥‥‥」
 「‥‥‥私の隣で‥‥‥」
 「ええ‥‥」

 ディアは静かにジュリアスの胸に顔を埋め、それを優しく抱きとめるジュリアスの腕が
ディアの背中にそっとまわった。
ほーっと息が抜けたのと同時にジュリアスには笑いが込み上げてきた。

 「?」
 「しかし‥‥、よりにもよってダーツでそなたに負けるとはな‥‥‥」
 「ええ本当。‥‥‥わたくしも負けるつもりで来ましたのに‥‥‥」
 「負ける気で?。何故‥‥‥」
 「だって、あなたがなかなか言い出さないから‥‥‥‥」
 「‥‥すまぬ(////////)。その約束を忘れていた訳ではないのだ。‥‥‥‥が‥‥その‥」
 「わかっています‥‥。‥‥‥‥‥他でもないあなたの事ですもの‥」

 ディアの背中にあったジュリアスの腕がディアの顔を優しく包み込むと、
ディアは顔をあげてにこやかにジュリアスに笑顔を向けた。
天然記念物並みのシャイな恋人の為に目を瞑ってやると、ディアの唇にそっと触れるものがあった。

 窓の外には満開に咲いた桜が風に乗って雪のように花びらを辺りに降らせている。
その春風に乗って二人の上にも桜吹雪が舞い降りていた‥‥‥‥。




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キリ番「1600」を申告してくれたジェットさんのリクで
「ディアに戸惑うジュリアス。」
でした。
ちょうど今頃桜が満開で、自転車乗ってると車が通り過ぎたくらいの風でも
桜の花びらが散っててすごく良い感じだったんです。
4月って卒業入学シーズンだし、TV番組も入れ替えの時期(あまり関係ない?)だしで
何となく”心機一転”というイメージが離れないんで、このようなお話にしてみました。






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