開花予報



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




 ある昼下がりの午後、1人の少女が聖地の公園を横切っていた。
咲き誇る桜のような淡い桃色の髪と瞳を持った少女、名はディア。
第255期の女王候補生である。
 ディアは女王試験に関する資料を抱えて数種の質問と疑問を胸に、その二つを解決を
二人の守護聖へと求めようとしていた。二人ともディアがどんな些細な質問をしても優しく
的確にその答えやヒントを与えてくれるが、今回はどちらにその質問を投げかけようか悩んでいた。

 1人は「知恵」を司り大地のように広い知識を持っている守護聖「ルヴァ」。
もう1人は「誇り」を司り光のような眼差しで解決への糸口を照らしてくれる「ジュリアス」。
どちらとも選びがたい二人であった。

 「‥‥‥さて‥‥、どちらの方にお聞きしましょうかしら‥‥‥」

 ディアは足が止まりふっと辺りを見渡した。
平日とは言え、昼下がりの公園は少なくない人で賑わっている。
公園の緑を楽しむ者もいれば、公園奥にあるカフェで時間を潰している者も、
ベンチで隣り合って会話を楽しむ者達も居た。

 「やあ、どうしたんだ?。こんな所で立ち止まって‥」
 「‥‥あ、カティス様」

 1人で公園の真ん中に立っていたディアに声をかけたのは、緑の守護聖のカティスだった。
彼はおおらかな人柄で聖地に訪れた二人の少女達が、早く聖地に慣れるように‥、また
9人の守護聖達とも早く馴染めるように、色々と気を使ってくれる人物で
アンジェリークとディアが聖地で一番初めに馴染んだ人であった。

 「何でもありませんわ。それよりカティス様こそ公園で何を為さっているんですか?」
 「俺はこれから執務室に帰る所だ。部屋に閉じこもるってのはどうにも我慢が出来なくてね。
  ちょっとした気分転換に公園へね‥‥。
  もし急いでいなければ、この先のカフェで一緒にお茶でもいかがかな?」
 「ええ。是非御一緒させて下さいな」

 ディアもアンジェリークもあどけなく笑うカティスの誘いを未だかつて断れた試しがなかった。
有無を言わさない迫力がある訳ではないのだが、何となくうなずいてしまうのだ。
質問も急いでいる訳ではないので、ディアはカティスの誘いにのって
お茶を御馳走になる事にした。







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 「試験の方は順調に進んでるかい?」
 「はい。まだ解らない事もありますけど皆様に色々教えて頂きながら頑張っています」
 「そうか‥‥。試験以外の事でも困った事があったら何でも相談してくれ」
 「ありがとうございます、カティス様。ここに来てから色々気を使って下さって
  アンジェリークもわたくしも、本当に感謝していますわ」
 「そうか?。可愛い女王候補生達の力になれてよかった」

 ディアはテーブルに運ばれた紅茶に口をつけると、
目の端に飛び込んだ見なれた金髪に視線を向けた。
その視線に気付きカティスもその先を見てみると、そこには昼間は陽の下に姿を現さないどころか
滅多に外にでない闇の守護聖「クラヴィス」を連れたもう1人の候補生
アンジェリークの姿があった。
 クラヴィスとアンジェリークの2ショットは今やそう珍しいものでも無くなりつつあった。
特にアンジェリークと仲のいいディアや、クラヴィスの事で色々とアドバイスを請われている
カティスの二人には驚く程の事ではなくなっている。
 クラヴィスに初対面の者達は皆例外もなく、その雰囲気に恐怖とはいかないまでも
一抹の気後れを感じていたものだが、アンジェリークが感じたものは少し違ったようであり、
クラヴィスはどんな人なのか?、どんなものが好きなのか?、気さくに話しやすいカティスに
色々聞き出してはクラヴィスの部屋へと足を運び、ついには外に引きづり出す事に
成功したようであった。

 [‥アンジェリークはとうとうクラヴィスを外に連れ出す事に成功したようだな‥」
 「ええ、ほんと。彼女の行動力にはかないませんわ。
  好きな人にあそこまで強引にアプローチ出来るなんて‥‥」
 「おや?。ディアにもそんな人が出来たのかい?」
 「ええ??」
 「想い人にアプローチ出来るアンジェリークがうらやましいのかな?」
 「いませんわ、そのような方は‥。強いていうなら、好きな人ができたアンジェリークが‥」
 「うらやましい?」
 「‥‥‥ええ、少し‥」

 二人はまた視線をクラヴィスとアンジェリークに向けた。
アンジェリークの手が離れたすきに執務室へ戻ろうと引き返すクラヴィスを、
アンジェリークが追い掛けてまた手を握りながら先へと進んみ、クラヴィスを見上げながら
笑って話をしている。ムスッとしたクラヴィスの不機嫌な顔は
アンジェリークの前ではそう長もちもせず、アンジェリークの話に耳を傾けながら
ふっと笑顔をちらほらさせていた。
 やがて二人を眺めているディアとカティスの存在にクラヴィスが気付くと
まずい所でも見られたように、アンジェリークの手をほどいて引き返して行った。
残念そうに肩を落としたアンジェリークは、ディア達に気がつくとぱっと笑顔を戻して
二人のテーブルにかけ寄って来た。

 「こんにちわ、カティス様!。ディアと二人でお茶ですか?」
 「ああ。君も一緒にどうだ?。
  間接的にもクラヴィスとのデートを邪魔してしまったみたいだったしな‥」

 アンジェリークは嬉しそうにディアの隣に席を取るとオレンジジュースを注文した。
アンジェリークを交えて会話にも花が咲いたようだった。
時間を忘れてお茶の時間を楽しんでいると、アンジェリークがある人影を見つけて
席を立って手を振った。

 「あ!!。ジュリアス様〜!」

 名を呼ばれて振り返ったジュリアスはアンジェリークのいるテーブルの向い側に
捜し人の姿を見つけると、目尻を釣り上げたまま近付いて来た。

 「カティス!!。こんな所に居たのか。探したのだぞ!?」
 「そうか、それは悪かったな。どうだ?、お前も一緒にお茶にしないか?」
 「何を言って‥‥。まだ執務時間中ではないか。
  息抜きの時間も必要だとはいえ、一体いつからここにこうしておったのだ?」
 「まあまあ、息抜きが必要なのはお前の方だな。そうかりかりするな。女王候補達が怯えるぞ?」
 「え?。女王候補”達”?」

 カティスにばかり目がいっていたジュリアスは、カティスの言葉でやっと
テーブルについている人を確認した。そしてアンジェリークの隣に座るディアを目にすると・‥、

 「////////////////////」
 「??」
 「ジュリアス様も御一緒にお茶にしませんか?。ねえ、カティス様」
 「そうだな」
 「いや‥‥しかし‥」
 「大勢の方が楽しいですもの。少しくらいお時間頂いてもよろしいでしょう?」
 「ええ。ジュリアス様さえよろしければ、是非」
 「‥‥‥‥ならば少しだけ‥」

 3人におされてジュリアスは席についた。店員がメニューを取りに来ると
ついでにお茶請けとなるお菓子も注文し、4人の会話は楽しそうに弾んでいた。
しばらく時間が経つとジュリアスも最初の目的も忘れ、会話を楽しんでいた。

 「‥‥さて、そろそろ仕事へ戻るとするかな‥」

カティスが席を立つと思い出したようにジュリアスも席をたった。

 「あ!。カティス様、途中まで御一緒してもよろしいですか?」
 「え?」
 「いいからいいから」

 アンジェリークはカティスの腕を掴むとグイグイと引っ張り
ディアとジュリアスを置き去りにした。
残されたディアは首をかしげつつ席を立つと、目の合ったジュリアスに向かって
にっこりと笑いかけた。
その笑顔を見てジュリアスの顔がポッと赤くなったのだが、ディアはそこまでは気がつかず‥‥。

 「ジュリアス様、わたくしも途中まで御一緒してもよろしいですか?」
 「(/////////)ああ!。‥‥その‥、そなたは何処まで行くのだ?」
 「少し解らない所がありまして、お聞きしに行こうと思うのですが‥‥」
 「そうか!。そなたは勉強熱心だな。よい事だ」
 「あの‥‥?」

 ぎくしゃくした面持ちで歩き出したジュリアスにディアは再び首をかしげながら
前を行くジュリアスの後ろを歩いた。
宮殿へつくとジュリアスは、「ならば私はここで‥‥。」とディアの返事も聞かずに
すたすたと歩いて行ってしまった。

 「?。ちょうど御会いしたからジュリアス様にお聞きしようと思っていたのに‥‥‥
  一体どうされたのかしら?」

 別れたばかりで再びジュリアスの部屋を訪ねるのもなんだか気が引けたディアは
宮殿の一番奥のルヴァの執務室を訪ねた。
思った通りルヴァはディアのどんな小さな質問にも書物をめくり答えていた。
単純に答えを教えるのではなく、ディアが自力で答えへと辿り着くヒントを与えて
ディアの抱えていた質問と疑問は全て解決されたのだった。
 用事の済んだディアは深々と頭を下げてルヴァの部屋を後にし、寮へと戻った。







◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇





 寮に戻り部屋に入ったディアを見計らったようにアンジェリークがディアの部屋へと
入って来た。

 「アンジェリーク‥‥、どうしたのさっきは?。急にカティス様といってしまって‥」
 「ねえディア?。あの後ジュリアス様と何かあった?」
 「何かって‥‥。何もないわよ。
  宮殿へついてからはジュリアス様は御自分の執務室へ戻られたし‥」
 「ええ〜?。もう!。ジュリアス様何やってるのかしら?」
 「一体どうしたのアンジェリーク?。何だか変よ」
 「変なのはディアの方よ。あなたジュリアス様を見て何も解らないの?」
 「解るって何を?」
 「ジュリアス様‥、絶対ディアに気があるわよ」
 「ええ!?。まさかそんな事‥‥‥」
 「んもう!。ディアも鈍いんだから‥」

 椅子に座って話しまくるアンジェリークをよそに、ディアはテーブルに荷物をおいて
部屋着に着替えていた。

 「ねえ、ディアはジュリアス様の事どう思ってるの?」
 「どうって‥‥‥。とても立派な方で素晴らしい方だとは思うけど‥‥。
  あのジュリアス様がわたくしの事なんて‥‥」
 「じゃあ‥、こんどジュリアス様に逢った時、じぃっと瞳を5秒間見つめてみてよ。
  ジュリアス様がディアの事を好きなら何かしらの反応を起こすはずよ」
 「反応って‥‥」
 「私だってクラヴィス様に見つめられたらドキドキしてしまうもの‥。
  好きな人にジッと見つめられたら‥‥、大抵の人は普通ではいられないわ。ね?」
 「‥‥‥‥‥5秒間?」
 「そ。5秒間」

着替え終わったディアと共に二人は部屋を後にし夕食へと向かっていった。







◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇





 それから何日かした後、ディアはジュリアスの執務室を訪れた。
ドアをノックする直前、数日前のアンジェリークの言葉が頭の中にふっと沸き上がった。

 「‥‥‥‥5秒間‥‥」

改めて姿勢を正すと部屋のドアをノックして、中から返事が聞こえたのを合図に戸を開けた。

 「こんにちわ、ジュリアス様」
 「!!ディア(//////////)!」
 「少しお聞きしたい事があるのですが、今お時間よろしいでしょうか?」
 「あ‥‥ああ。もちろんだ」
 「よかった」

 ジュリアスの了解を得てディアが笑うと、ジュリアスは握っていたペンを
机の上に転がしてしまった。
なぜかはディアには解らないが、ジュリアスはひどく緊張しているようだった。
部屋を進みジュリアスの机に前まで来ると手に持っていたノートを広げた。
 疑問点をジュリアスに訪ねると、ジュリアスはいつも通りの口調でディアの質問に答えた。
そして、用の済んだディアが広げたノートを片付けていると、
ふとジュリアスと視線が合わさった。

 (5秒間‥‥)

ディアはアンジェリークの言葉を思い出しそれを実行した。心の中でゆっくりと数を数える。

 「‥‥(1‥‥‥2‥‥‥3‥‥‥‥4‥‥‥‥5‥‥‥)‥」
 「(/////////////////////////)」

 するとジュリアスは見る見る顔を赤くさせ、ディアと目を合わせるのが恥ずかしくて
耐えきれないようにさっと顔を伏せた。
その様子を見てディアもポッと顔を赤くさせた。

 (‥え!?。まさか、アンジェリークの言った通りなの?)

 ジュリアスの気持ちを察するとディアも顔を赤らめたままジュリアスの顔を見れなかった。
二人は執務室の中で顔を赤くさせたまま、机を挟んでうつむいていた。

 「‥‥‥‥あ‥‥‥あの、‥‥わ、わたくしこれで失礼致します。
  今日はありがとうございました!」

 ディアはガサガサとノートなどの荷物をまとめるとジュリアスの顔から目を逸らしたまま
慌てたように部屋を後にした。

 急な事にジュリアスも言葉をかけられなかったが、
ディアがいなくなってふうっと肩の力を抜いて後ろの椅子にどさっと座り込むと、
そのまま背もたれに寄り掛かった。
 ディアがいるとまるで嵐のように自分の気持ちがぐらぐらと落ち着かない。
今までにない初めての経験にジュリアスは頭を抱えるように机に突っ伏すと
机の上に見慣れないペンケースがあるのを見つけた。
 ジュリアスはそのペンケースを掴むと急いでディアの後を追って執務室を後にした。







◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇・◇◇◇◇





 ディアは足早に宮殿を後にして公園へと辿り着いた。
緑の中で高ぶった心を静めるように足を止めると、深く深呼吸をした。
少し落ち着いてくると、気を取り直して再び歩き出した。

 「ディア!!」
 「え?」

 急に名を呼ばれて振り返ったディアが見たものは、
珍しく走って自分に近寄ってくるジュリアスの姿だった。

 「ジュリアス様!?」
 「そなたは歩くのが早いな‥‥」

少し息を荒くしながらジュリアスはディアの目の前で足を止めた。

 「一体どうされたのですか?」
 「先程、これを忘れたであろう?」

ジュリアスはペンケースを差し出した。

 「‥‥これはわたくしの‥‥。これの為にわざわざわたくしを追って下さったのですか?」
 「あ‥‥いや‥‥。ないと困るであろう‥‥」
 「‥‥その為に珍しく走ってまで‥?」
 「む‥‥‥‥‥‥」

 答えにつまって黙り込んでしまったジュリアスを見て、ディアは心の中に何か暖かいものが
満ちていくのを感じていた。

 「くすっ‥‥」
 「?。何がおかしいのだ」
 「いいえ、すみません。ありがとうございます」

 ディアはとびきりの笑顔でジュリアスの手からペンケースを受け取った。
それまでは、他に見ない程の女王陛下へ対する忠誠心と、首座としてのその責任感の強さ
それらに尊敬すら覚えたジュリアスの顔が、その瞬間ふっと小さな子供のように見えた。
ディアはペンケースを胸に、らしくもない事をして返答に詰まっているジュリアスに
笑顔で問いかけた。

 「ジュリアス様?。
  これからも度々ジュリアス様の執務室へお邪魔してもよろしいでしょうか?」
 「え‥?。ああ‥‥、それは構わないが‥‥」
 「よかった!」
 「(/////////////////////////////)」

 顔を赤くさせたまま執務室へと戻るジュリアスの後ろ姿を見送りながら
ディアは、公園に吹く気持ちの良い風に吹かれていた。

 「‥‥‥わたくしはまだこの気持ちに気付いたばかり‥‥。
  このわたくしの気持ちを、ゆっくりとジュリアス様の気持ちに近付けても良いですか?」

 遠く小さくなるジュリアスの背中にディアは小さく問いかけた‥‥。
花が咲くのはまだまだ先の話‥‥‥‥‥。




■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■END




これは浮いたキリ番「2000」を貰ってくれたよねさんのリクで
「とにかくディア!」
なお話でした。よねさんはルヴァディアがお好きらしいんですが、あまたまごに来てからは
ジュリディアもお好きになってくれたという、嬉しい言葉を頂きました。
ということでジュリアスとルヴァを出してみたけど、
終わってみるとルヴァの台詞はなかったみたい‥‥。
‥‥結局私はジュリディアの人間のようです。






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