月は見ている



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




 「うふふ‥‥少し飲み過ぎちゃったかしら」


 ある日の夜、オリヴィエは踊るような足取りで森の中を歩いていた。
いいワインが手に入ったというオスカーの誘いにのって、
つい先程まで彼の屋敷で飲み交わしていたのだ。
夜風がひんやりとして、わずかな熱を帯びるオリヴィエの頬をなぜる。
ふと下を向くと大地に自分の影ができていることに気がつく。
今宵は満月。優しい光がオリヴィエを照らしていた。


 「いぃ〜んじゃな〜い。真夜中に満月。‥‥きれい」


オリヴィエは完全に酔っ払っていた。


 真上の月を見ながらフラフラと歩いている。ここは森の中。
器用に木々をよけながら歩いていたが、やがてオリヴィエは障害物に体当たりした。


 「いった‥‥。なんでこんなところに壁が‥‥?」
 「‥‥‥‥‥誰が壁か」
 「あっら〜?なんで居るの?」


 オリヴィエがぶつかったのは月光浴をしていたクラヴィスだった。
黒いローブを羽織り、長い髪を後ろで一纏めにし、ぶつかってきたオリヴィエにゆっくり振り返る。
 壁と言われたせいか、月光浴を邪魔されたせいか、単なる地なのかは解らないところだが、
振り返ったクラヴィスの眉間には皺が寄っている。
年少組の三人なら確実に畏怖を抱く形相だったのだが、事相手がオリヴィエで
しかも酔っているとなるといつも以上に無礼な態度でケラケラと笑っている。


 「あ〜、でもあんたにとっては今が活動時間になるのかぁ‥‥夜行性だもんねー♪」
 「‥‥‥酔っているのか?」
 「酔ってなんかいないわよ〜ぅ。あれっくらいのワインでな・ん・か!」


 そう言ってヒールの高い靴でオリヴィエは背伸びをしてクラヴィスに顔を近付けた。
もわっとアルコール独特の匂いがクラヴィスの鼻をつく。クラヴィスの眉間の皺が更に深くなる。


 「それだけ呑んでいれば夜風は体に毒だろう‥‥‥‥。さっさと館へ戻ることだ」


オリヴィエに背を向けてクラヴィスは歩いて行ったが、オリヴィエはそれを追いかけて歩き始めた。


 「なぁ〜によぅ、冷たいわね。
  こんな時間にこんな場所で会った偶然をもうちょっと大事にしてくれてもいいんじゃない?」
 「‥‥‥‥‥」


 オリヴィエの言葉を無視してクラヴィスは歩き続ける。
返事がないのはいつもの事と、オリヴィエもさして気にせず歩き続けた。
 森の中を歩く奇妙な二人連れを満月は変わらず照らしている。
木々の葉の隙間からこぼれ見える、優しい月の光は幻想的でオリヴィエを魅了した。


 「ふぅ〜ん。夜の散歩って悪くないわね‥‥。たまには来てみようかしら♪」
 「?!」


 クラヴィスが振り返った時、そこにオリヴィエはいなかった。
草むらをベッドのようにして夢の中へ‥‥。クラヴィスは溜め息をつきながら、近寄る。
頭の奥の方でクスクスと笑い声が聞こえた。





 「オリヴィエ、寝ちゃったの?」
 「‥‥どうやらそのようだ」


 背後から突然かけられた声に、驚く事もなくクラヴィスは返事をした。
そこには一人の女性が立っていた。
 腰までもある長い金髪。風がもてあそんだその髪に月が光をあてて、キラキラと輝いている。
眩しさと愛しさでクラヴィスは目が眩む。


 「起きそうにないねぇ‥‥」
 「‥‥ここにこのまま捨て置く訳にもいかんだろうな‥‥」
 「そうね。いくら万年常春の聖地でも風邪ひいちゃうわ」


 クラヴィスはいとも簡単にオリヴィエを脇に抱え上げた。見かけによらず力はあるらしい。
寝てばっかりの怠惰な生活の中のどこで筋肉が鍛えられているのかは、
また次の機会にでも話すとして‥‥‥‥‥当の本人はすたすたと歩き始めていた。
当然のように共に行こうとあとを歩くアンジェリークをクラヴィスは制止した。


 「館まで無事届けたら戻ってくる‥‥。人目につくからここで待っていてくれ」
 「一緒に行っちゃだめ?。時間が限られているんだもの。少しでも側に居たい‥‥」


 隠さず正直に感情を伝えてくる彼女を、素直にクラヴィスは可愛いと思った。
こんな風に甘えられるのも嫌いではない。
 しかし、現女王と現闇の守護聖が満月の夜に逢瀬を重ねている事は
周囲には秘密にしなければならない事であるのだが、このように言われて、なお
逆らえるクラヴィスではなかった。











 二人は森の中を並んで歩いていた。話をするでもなく、ただ手を繋いで‥‥。
時折視線を重ねては、幸せそうに笑うアンジェリークを見つめて、クラヴィスも表情が綻ぶ。
 アンジェリークはひょっこり顔を出して、自分が繋いでいる手とは反対の手でクラヴィスが抱える
オリヴィエの様子を確かめた。心地よさそうな正しいリズムで寝息が聞こえる。
彼が熟睡していると判断すると、静かに会話を始める。


 「あの子達はどう?」
 「あの子?」
 「二人の女王候補生達よ‥‥。なぁに?その興味なさげな顔は」
 「どちらが女王になろうとも私には関‥‥‥構わない‥‥」
 「今「関係ない」って言おうとしたでしょう。‥‥‥もぅ、相変わらずなのねー。
  本当、いつも思うんだけど、貴方とジュリアスを足して割ったらちょうどよくなるのに‥」
 「あの者と私を?」


クラヴィスは口の端を上げて「フッ」と笑った。


 「それでどう?頑張ってる?私はディアから話を聞くだけで二人がどんなに頑張ってるか、
  実際にはわからないのよ。貴方の目から見てどう?」
 「そのような話はジュリアスから聞いたが正確であろう‥‥」
 「もぅ‥本当に‥‥‥‥」


アンジェリークは溜め息をついて姑く月を仰ぐ‥。


 「もうすぐね‥‥。もうすぐ女王交代の時が来るわね‥‥」
 「そうだな‥‥‥」


また、アンジェリークは溜め息を吐いた。


 「どうした?‥‥何か気にかかる事があるのか?」
 「‥‥‥‥うぅん。‥‥‥無事交代を迎えられるかしら‥‥‥」
 「‥‥‥‥‥」


 クラヴィスは黙り込んでしまった。今の彼女の女王としてのサクリアが
どんなに即位した頃と比べて微弱になったか、彼はよくわかっていた。
神々しく、強かった彼女のサクリアは、今や虫食いの穴だらけのようだ。

 宇宙は急激に滅び始めたのではない。
彼女が女王へと望まれた時から緩やかに衰退し始めていたのだ。
 宇宙にも寿命がある。命ある物がやがて滅び行くのを止める事は、例え偉大な力を持っていても、
どんな強力な力を持っていても不可能な事。‥‥宇宙を統べる女王陛下のサクリアを持ってしてもだ。

 アンジェリークが今までどんなに心を砕いて宇宙の為に尽くして来たかも、
クラヴィスはよく見知っていた。
 前女王陛下から譲り受けた滅びゆく宇宙を、彼女は愛おしみ、育み、守り続けて来た。
ボロボロに身を窶していくアンジェリーク。そろそろ彼女を楽にしてやりたい。
そんな頃に公にされた「女王試験」
 クラヴィスにとって、二人の内どちらが女王になるかなど、本当に構わない事柄だった。
どちらでもいい。早く彼女を解放してやれるのなら‥‥‥。
早く、己の中に眠る女王のサクリアを叩き起こすがいい。


 「クラヴィス‥‥‥考え事?」
 「‥‥‥‥いや」
 「‥‥眉間に皺。私の前では止めて」
 「‥すまない」
 「そんな顔してる時は大抵よくない事考えてる時なのよね」
 「よくない事?」
 「また、私の事過剰に心配してるでしょう。大丈夫よ!私なら」
 「アンジェリーク‥‥」
 「たまにこうして逢う貴方からいつも力を貰ってるんだもの。
  貴方に愛されてるって感じる事が、今の私の力の源なんだから、
  心配するよりもっと愛して‥‥」
 「フッ」


 クラヴィスは繋いだアンジェリークの手の甲にキスをし、その後彼女の額にキスをした。
アンジェリークはとびきりの笑顔を見せて、クラヴィスの肩に頭を預けた。



 二人を照らし続ける満月の光は、雲に遮られる事なく光を降り注いだ。
その光に照らし出されるアンジェリークの表情が、クラヴィスの心にまた刻まれて目蓋の裏に浮び上がる。
繋いだ手の温もりが永遠の物のように二人には感じられた。‥‥‥そう強く願っていた。

クラヴィスの闇がアンジェリークを包み込み癒し、アンジェリークの光がクラヴィスを照らし癒す。


見つめあう二人の脇で、一つの影が動く。


 「‥‥‥んん‥‥」
 「起きたか‥‥」


 クラヴィスはオリヴィエを抱えた脇から降ろし、ローブでアンジェリークを彼の視線から隠した。
幸いな事に、寝起きと酔いでオリヴィエはクラヴィスの不振な動きに気がつかない。


 「ならば、もう1人でも帰れるだろう。お前の館は向こうの方角だ。まっすぐ歩き、帰るがよい」
 「ん‥‥。悪かったわね、クラヴィス‥」


 オリヴィエは伸びをし、あくびをしながらも私邸のある方向へと歩いていった。
クラヴィスはアンジェリークをそのままローブの影に隠したままその場から離れようとしたのだが
ふとオリヴィエが立ち止まり、振り返る。


 「ねぇ、アンタさぁ‥‥‥誰かと話してなかった?」
 「‥‥‥‥‥‥」
 「う〜〜ん‥‥。なんかぼそぼそ会話が聞こえてたような気がするんだけど‥‥‥???」
 「‥‥‥さすがの私も1人で会話をする程、酔狂ではないぞ‥」
 「そうよね‥‥‥‥。う‥ん、帰るわ。寝ぼけた事は誰にも言わないでよ」


 オリヴィエはひらひらと手を振り、帰っていった。
影ではアンジェリークが笑いを堪えている。クラヴィスは小声でそれをたしなめた。


 「‥アンジェリーク、気付かれるぞ」
 「‥オリヴィエに悪い事したわね。寝ぼけてた事にしてしまって」
 「別に構わんだろう。多少の酒も入っているようだし‥‥」


 アンジェリークは相変わらず笑いを堪えていた。
背にオリヴィエの気配を感じながらもクラヴィスもつられて笑いが込み上げた。
満ち欠けする月齢に合わせて重ねて来た逢瀬もこれが最後となった。

女王交代の時は、もうすぐそこまでせまっていた。





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キリ番ゲット&申告をしてくれたはじゃさんへのお話です。
リク内容としては「クラ前でオリヴィエが出てくるもの」というものでした。
今まで自分で書いて来たクラ前の流れとはちょっと違うものになってしまいましたが
久し振りに書いた(完結した)お話はなんともこてこてラブラブになってしまいました。

このお話しにすごくイメージぴったりな壁紙を見つけたので使ってみました。
いや〜ん♥ぴったり………☆゜・*:.☆.。:*・゜(  ̄ー ̄)






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