終末の末に‥‥



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




振り返るとそこには、1本の路がある。
まっすぐではなくて、あちこち曲がりくねっているけど
それは確実に、私が今立っている場所へと繋がっている。
私が今まで歩いてきた路。

楽しい事も、辛い事も、
悲しい事も、嬉しい事も
‥‥‥その全てを私は忘れない。

辛い過去も、
悲しい記憶も、
今の私が在る為には重要な事柄だったから。

それらが私の中に存在しているからこそ、
楽しい想い出や、
嬉しい出来事が
より一層の輝きを放って私の中に在り続ける。

それらはまた、
未来の私に降り掛かる数々の試練を乗り越える力の源と成ってくれるのだ。

 私の今までの人生の大きな分岐点には、いつもあなたが居た。
そう


クラヴィス‥



いつもあなたが‥‥。






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Ж
Ж
Ж
Ж
Ж
Ж
Ж
お前が好きだ。
私は今まで、自分の意志を通して行動した事などなかった。
私にはお前が必要だ。
お前の居ないこれからの時間など、もはや考えられない。
これからも私のそばに居てくれないか?
Ж
Ж
Ж
Ж
Ж




 「アンジェリーク」
 「!!!!!!」
 「何を考えていたの?」
 「‥‥‥ディア‥‥。何でも無いわ。昔の事よ」
 「そう‥‥‥‥。アンジェリーク、本当にこれでよかったの?」
 「もちろんよ、ディア。今さら何を言うの?」
 「だって、今のあなたどんな顔をしていたか分かる?
  迷子になった子供のような顔をしていたわよ。何か思い残す事があったんじゃないの?」
 「‥‥‥皆を守りたい。それは女王と選ばれた時からずっと変わらない私の覚悟。
  今だってそう‥‥‥。大きな光となって全てを抱きしめて守りたい。
  その為に必要ならば命だってかける思いがあるわ。
  だから、本当にこれで良かったと思ってる。
  思い残す事があるとしたら、あなたの事よ‥‥‥ディア」
 「私?」
 「今までずっと私の力になってくれたのに‥‥こんな所まで引きづり混んでしまって…」
 「アンジェリーク、私だって昔から変わらないわ。
  私達、今まで離れていた事なんてなかったでしょう?
  ずっと、あなたの力になるわ‥‥‥」
 「ディア‥‥‥」










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その日、ルヴァはクラヴィスの姿を探して宮殿を後にした。

 女王候補であったアンジェリーク・リモージュが新たな女王となり
生命力に溢れる新しい空間がうぶ声を上げた。
 女王陛下は新たな空間に星を移し、命を移して、宇宙の崩壊は免れたが、
女王陛下は滅びゆく宇宙と身を共にする覚悟を決め、たった独り宇宙に残ったのだ。
 そして、それを知ったディアも崩壊寸前の宇宙へと身を投げ、二人は皆の前から
姿を消して、新しい宇宙と女王陛下の誕生に喜びで満ちている聖地の住民達とは正反対に
守護聖達やそれまで候補生であった二人の少女達は、悲しみの中へと沈みかけていた。

 女王陛下や補佐官に変わって皆をまとめていたのは、首座のジュリアスだった。
ジュリアス自身も消えた陛下と補佐官へ思いを馳せていたが、
二人の覚悟を無にするような事だけはしたくなかった。
 辛い気持ちを堪えて、新しい女王の誕生を祝う式典の準備や即位式の準備をすすめる中
ふと、クラヴィスがいなくなっている事に気がついた。

 「このような時に一体どこへと消えたのだ!。
  今こそ我々守護聖が力を合わせねばならん時だと言うのに!!」

 、と憤るジュリアスをなだめすかして
彼の変わりにクラヴィスを探しに歩き回っているという始末。

 しかし、普段からあまり外をふらつく事はないクラヴィスなので、心当たりなどどこもなく
近場からしらみつぶしに捜しまわってる‥‥という、経緯であった。

 「ふ〜〜、やれやれ。見当たりませんねぇ‥‥。一体どこにいるんでしょうか、クラヴィスは」

 ルヴァは年寄りじみた仕種で腰の辺りをとんとん、と叩くと
姿勢を正して、再び陽の光には馴染まない見事な黒髪を探して歩き始めた。









 その頃、クラヴィスは庭園の女王陛下の像が建てられている噴水の前に居た。
止めど無く流れ落ちる水の流れを、ぼーっとした表情で眺めながら
まわりの視線にも気を向けずに、1人思い出の中に想いを馳せる‥‥‥

 最近、クラヴィスは毎晩の様に同じ夢を見ていた。昔の夢‥‥。
未だ自分の心の中に癒える事の無い傷を作った、甘くて甘美で残酷な過去。
それまで自分から何か行動を起こす事などなかった自分が、たった一度
彼女を得る為に、彼女の元へと足を運んだ。何度も何度も‥‥。
 彼女を求めて差し伸べた手をすり抜け、彼女は、今までにない程の神々しさを放つ
女王陛下となった。

 女王と成るべく、彼女はこの聖地にやってきた。
「女王」という鍵がなければ、決して出逢う事の無かった自分とアンジェリーク。
その彼女が、女王へと求められて断れる筈がない。彼女のその心の内を理解していても
自分勝手な逆恨みだとわかっていても、自分達が出逢った運命を恨まずにはいられなかった。
 「何のしがらみもなく、普通に出逢っていられれば‥‥」
求めて、叶う筈の無いそんな望みを、未だに抱いてしまう。
生まれた場所も、惑星も、時間も。その全てが偶然も奇跡も起こり得ない程にかけ離れた二人なのに‥。



 「クラヴィスーー!」
 「!」

 クラヴィスの暗い思考を遮ったのは、自分を呼ぶルヴァの声だった。
思えば、「思ったままを素直に口にしろ」とクラヴィスの背中を押したのはルヴァだった。
その所為で深く傷付いたと言えなくも無いが‥‥‥…

 「こんな所に居たんですか−。探しましたよ−」
 「‥‥‥‥何の用だ」
 「いつの間にいなくなったんですか−?気がつきませんでしたよ。
  ジュリアスがかんかんに怒っていましたよ?」
 「‥‥ふっ。あれは好きでそうしているのだ。勝手に怒らせていればよい」
 「あー^^;‥‥‥。そういえば何を見ていたんですか−?」

 ルヴァはひょいっとクラヴィスの影から顔を出して、その視線の先に目を向けた。
陽の光をきらきらと反射して輝く噴水の水と、その中心に立つ女王陛下の像。
その向こうには生い茂る木々の葉と、白い宮殿の屋根。

 「‥あのークラヴィス?‥‥まだ‥‥‥」

ルヴァがそう言いかけたが、その言葉を遮ってクラヴィスは振り返り歩き出した。

 「あ。‥‥待ってください、クラヴィス〜」

 すたすたと先を行くクラヴィスを追うように、ルヴァも歩き始めた。

「‥…まだ‥‥‥忘れられないのですか?」
 馬鹿な事を言いそうになったと、その言葉を遮ったクラヴィスにルヴァは感謝した。
自分の余計な一言で、彼はこれ以上も無く傷付いたのだ。自分の所為で‥‥‥。
なのにその自分が、まだ忘れられないのか?、などと無神経な事を聞いては
クラヴィスの機嫌が悪くなるのも当たり前で‥‥‥‥。

 「‥‥‥‥‥‥‥‥」

 そんな落ち込みかけるルヴァの心情とは裏腹に、クラヴィスの心の中は静寂だった。
確かに、ルヴァの一言で自分は自らアンジェリークに逢いに行き、想いを伝えて
その結果傷付く事となったが、最近ではそれで良かったのだと僅かに思えるようになった。
 アンジェリークを想う気持ちを彼女に伝えず、自分の中でその想いを消化し
”共に居たい”という願いを諦めてしまえば、これほどに傷付く事は無かっただろう。
 しかし、傷付かないでいる事が最良の方法とは限らないのだ。
心に負った傷の中から大事な事に気がつく事もある。

 それは、自分はまだ彼女を愛しているという事。

 そう、心に小さく想うだけで、なんと安らかな気持ちになれる事だろう。
アンジェリークが女王の大任を果たしたら、今度こそ彼女を迎えに行きたい。
 いや、彼女が今でも自分を想っていてくれているとは解らないが
もう一度、あの時貰えなかった返事を聞きに行きたい…。
そして彼女が自分の手を取れば、今度こそ彼女と共に‥‥‥‥。

 そう思っていたのもつかの間、彼女はまたクラヴィスの手の届かない場所へと
羽ばたいて行ってしまった。
 再び空を泳いだ、彼女へと差し伸べられた手‥‥‥‥。
今度こそ‥‥‥‥捕まえられると思っていたのに‥‥‥。



 「‥…ク‥‥クラヴィス‥‥あの‥」
 「‥ルヴァ」
 「はいっ、何ですか?」
 「お前は今の私をどう思う?」
 「はい?‥え‥‥〜と」
 「昔の‥‥アンジェリークを知る前の私と今の私を比べて、今の私の方が不幸なように見えるか?」
 「‥‥‥‥‥いいえ」

ルヴァは小さく応えた。

 「確かにアンジェリークの事で私は深く傷付いた。
  しかし、彼女に思いを告げた事を後悔はしていない‥‥‥。
  ‥‥‥今も‥‥そう‥‥思う」
 「‥‥クラヴィス‥」
 「だから、お前が気をやむ事は何もない」
 「‥‥‥まだ彼女の事を?」
 「もし、今一度アンジェリークと逢う事ができたなら、その時は彼女を掴んで離さない。
  ‥‥‥‥‥‥もし、もう一度‥‥‥」
 「クラヴィス‥‥‥‥、こんな時期になんですが、変わりましたねぇ‥」
 「‥‥ふっ‥‥‥お前が変えたのだろう」

 クラヴィスは口の端を上げてルヴァを見た。
ルヴァはきょとんとした顔でクラヴィスに視線を向けたままであるが‥

 「私?」
 「‥…あの時のお前の言葉がなければ、今も私はあの頃のままであっただろう‥」
 「‥あー、そう言っていただけると私も嬉しいです‥‥‥。
  それにしても、思いのほか元気ですねぇ、クラヴィス。
  皆落ち込んでいるというのに‥‥」
 「”あれ”の気持ちが分かるからな‥‥。どんな理由があるかは知らぬが
  そういった境地に追いやられればあれは迷わずに選んだだろう‥。
  きっと‥‥‥後悔などない筈だ‥‥‥」
 「‥そうですかー‥‥‥‥」


 ルヴァの少し前を歩くクラヴィスの表情は、ルヴァからは見る事が出来なかったが
その喋る声の様子から推測する限りでいえば、それは決して強がりなどではなく
本心から生まれ出る台詞であった。

 ”成長しましたねぇ‥‥‥クラヴィス”

 クラヴィスの後ろ姿を眺めながら、ルヴァは足取りも軽く聖殿へと向かって歩いていた。
これからきっと忙しくなるだろう。先代女王陛下の損失にショックを受けているのは
ランディ、ゼフェル、マルセルの3人ばかりでなく、リュミエール、オスカー、オリヴィエらまでが
ショックを隠しきれずに動揺を露にしている。
ジュリアスも皆の先頭に立っていながらもどこか地に足がついていない様子だ。

 ルヴァは昔から常々思っていた。ジュリアスとクラヴィスは似ているようで似ていない。
相反するようで、結局はお互いを誰よりも頼りにしているのだ。
こればかりは付き合いの長い自分でも太刀打ちできない。
幼い頃から共に同じ環境を過ごしてきた二人にだからこそ、我々には解り得ない
”繋がり”があるのだ。
 このクラヴィスの落ち着き様を見れば、きっとジュリアスも普段のペースを取り戻すだろう。

 きっと、これからは良い事づくめな毎日が待っているだろう。
宇宙だって新しく生まれ変わったのだ。我々にも何かが待っているだろう。
自分にも、クラヴィスにも、滅びゆく宇宙へと消えた255代目女王と補佐官のディアにも
きっと、何かが‥‥‥‥‥‥‥‥。






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キリ番「3333」を申告してくれた紫闇珠さんのリクで
「クラヴィスと(初代)アンジェリークのお話で、リモージュとロザリアの女王試験が終わり、
アンジェリークが旧宇宙に残った時」
ということでした。
副題で「忘れ去ったと思い込んでいたのに未だ想っていることを思い知るクラヴィスの心情」
+「ディアもちょっとでいいからでてくると」ということでし。
しかしなんだか、ルヴァの出番の方がディアよりも多かったような‥‥。
リクを頂いたのはかなり前の事のような気がします。
こんなにこんなにお待たせしてしまって、もうしわけないです〜〜(泣)
このお話を書いて、クラヴィスが異様に前向きな感じになってしまったような気がします
いや、それでも良いんだけど。
でもなんか‥‥ねぇ?







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