喜びと悲しみの生まれた場所



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




 その日の朝、クラヴィスはいつもより早い時間に目が覚めてしまった。
日の曜日で仕事もない。もう一眠りしてもよかったが、隣にあるはずの影がない事に気がついた。
シーツを触るとだいぶ冷たくなっている。

 「……休日の日にこんなに早く起きて一体何をしているのだ…?」

ふとそう疑問に思った時、寝室の扉がノックも無しに開かれた。

 「あ!、もう起きてたの?。おはようクラヴィス」
 「アンジェリーク……」
 「ちょうどあなたを起こしに来た所なの。今日も外はとても良い天気よ」

 アンジェリークは喋りながら窓際へ向かうと、カーテンを全開にし朝の日射しを部屋の中に招き入れ
窓を開けて清々しい空気を取り込んだ。
 起きたばかりでベッドの上でまだぼーっとしているクラヴィスの元に駆け寄ると
シーツを剥いでクラヴィスをベッドの中から引っぱりだした。

 「一体なんなのだアンジェリーク…」
 「起きてよクラヴィス。今日は外が暖かいし、朝食は外でとりましょうよ…」
 「それはかまわんが……」

アンジェリークはいつもの笑顔でクラヴィスを寝室から追いやった。

 「じゃあ早く来てね。先に外へ行って待ってるから」

 ぱたぱたと音をさせながらアンジェリークは階下へ降りて行った。
クラヴィスは寝衣を着替えながらまだ眠ったままの頭の中を覚醒していた。

 「…(アンジェリークは今日は一体どうしたというのだ?。やけに朝から上機嫌だが…。
    ………まあそれはいつもの事だが。…………??。
    …ーー機嫌が良いのならそれはそれで良しとしよう。
    何かは分らぬが、よほど嬉しい事でもあったのだろう。
    先週などは庭の花が咲いただけで浮かれておったし………)……」

 理由をつけて疑問を解消するとクラヴィスは階段を降りて行った。
いつもの食事をする部屋の奥のガラス扉が開かれて、きれいに食事を並べられた机が
あたたかな日射しに包まれていた。
 日射しに反射してアンジェリークの金の髪がキラキラと光り、日射しを跳ね返した
ブルーグリーンの瞳は透明に輝いていた。
食器を並べていたアンジェリークがクラヴィスに気がつくと、朝の日射しにも負けない笑顔で
クラヴィスに微笑みかけ、クラヴィスは眩しそうに目を細めた。






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 「クラヴィス……、今日の朝食はどう?」
 「どう……といっても…、いつもとそう変わらんが……」
 「ええ〜!?。いつものより美味しいでしょう?」
 「………そう言われてみればそうだな…」
 「よかった!。実は今日の朝食は私が作ったの」
 「…………一体今日はどうしたのだ?、アンジェリーク」
 「どうもしないよ。ねえ、今日は1日私に付き合ってくれる?」
 「‥‥‥?」
 「ね?、いいでしょう?」
 「……ああ、わかった」

 アンジェリークはクラヴィスの前の空の食器を下げると、食後のお茶を入れて出した。
クラヴィスがそれに口をつけ、アンジェリークも自分のカップに口をつけた時
館を訪れた赤い影があった。

 [おはようございます。クラヴィス様、アンジェリーク様。]

その意外な来客にクラヴィスは少々驚きを見せた。

 「…オスカー………。何故?」
 「アンジェリーク様に……」
 「アンジェリーク?」
 「アンジェリーク様、頼まれた者をお連れしたのですが…」
 「ありがとうオスカー。朝から御苦労様」
 「いえ。とんでもございません」
 「…………”者”?」

クラヴィスはオスカーの後ろにある影に目を向けた。

 「………!。アンジェリーク、馬などどうするつもりなのだ?」
 「え?。クラヴィスは馬を乗る以外にどうするの?」
 「乗る?。」
 「アンジェリーク様もう一つの頼まれました着替えも御持ちしたのですが……」
 「着替え?」
 「あなたのよクラヴィス。だってあなた、動き易い服一着も持ってないんですもの」

 クラヴィスは唖然とした顔で、アンジェリーク・オスカー・そして馬と視線を往復させた。
オスカーもなんだか困惑したような表情である。

 「クラヴィスは馬に乗れる?」
 「馬など乗った事もない!」
 「そう………、なら私が手綱を握るからいいわ。クラヴィス、これに着替えてきてくれる?」

 アンジェリークはオスカーの手から服を受け取ると、それをクラヴィスに差し出したが
クラヴィスは憮然とした顔のまま動こうとしなかった。

 「…………………」
 「ねえクラヴィス……。今日1日は私に付き合ってくれるってさっき言ったじゃない…。
  今日はお休みなんだし、いいじゃない。ねえお願い……ね?」

 アンジェリークは甘えた声でおねだりをした。クラヴィスは何だか困り果てて
頭の中で葛藤しているような表情のまま、せめてもの反抗に返事をしないまま服を受け取った。

 「よかった!!。じゃあここで待ってるから」

 クラヴィスは無言のまま館の中へと消えて行き、その後ろ姿を見送りながら
アンジェリークはティーポットに手をかけた。

 「オスカー、よかったらお茶を飲んで行かない?」
 「では御言葉に甘えて頂きます」

オスカーは空いている席に腰をかけると出されたカップのお茶を一口飲んでソーサーに戻した。

 「……それにしても、アンジェリーク様も罪な事を為さりますね」
 「え?。何が?」
 「先程のクラヴィス様とのやり取りですよ。あんな風に頼み事をされれば
  男として断るより他に辛い事はないですからね………」
 「………そう?。……………普通だと思うけど………」
 「……なんだか……(クラヴィス様も大変そうだな…)…」
 「そういえば、ごめんなさいね、こんな朝早くからお願いして…」
 「いいえ。私の方からお届けに上がりますと申し上げたのですから、そうお気に為さらずに…。
  では、私はこれで失礼致します」

オスカーはカップのお茶を飲み干すと席を立った。

 「本当にありがとう、オスカー。”彼”はちゃんと今日中にお返しするから…」
 「大丈夫ですよ。今日1日どうぞ楽しんで下さい」

オスカーは胸に手をあてて御辞儀をすると向きを変えてクラヴィスの館を後にした。

 それより暫くしてから、着替えを終えたクラヴィスが館の中から戻ってきた。
乗馬用の服ではないが、馬に乗るのに動き易い服を……と、オスカーに頼んだアンジェリークは
一体どんな服をオスカーが持ってきたのかは分らなかったが、姿を現したクラヴィスが
着ている服が違うだけで全然様子が変わっている事に驚いた。
 分かりやすく言えば、今さらながら”惚れ直した”という所である。

 「うん。似合ってるクラヴィス。すごくかっこいい。何だか別人みたい……」
 「…………アンジェリーク……、本当に乗らねばならんのか?」
 「どうしたのクラヴィス……。昔一緒に木登りをしてくれた勇気はどこへいったの?。さあ」

 クラヴィスの長い髪を邪魔にならないようにアンジェリークが結んでやると
ここまで来てまだ気の進まないクラヴィスの背中を押した。
アンジェリークが先に馬にまたがり、馬をクラヴィスの横に移動させると
馬を前にして、やっと観念したクラヴィスは馬のたてがみに手をかけ、鐙に足をかけると
勢いをつけて一気に馬にまたがった。

二人も乗せて落ち着きなく動く馬に向かってアンジェリークは
優しく首の辺りを撫でながら話し掛けた。

 「どうどう……。え〜と……”アーサー”だったわね。アーサー、今日はよろしくね」

 まるでアンジェリークの問いかけに答えるようにアーサーが一声あげると
アンジェリークは握っていた手綱を握り、腹を蹴って走り出した。






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 緩やかにアーサーを走らせながらアンジェリークとクラヴィスは頬を掠る風を感じていた。
聖地の中の林を抜けて、湖の奥を通り、森を抜けて、宮殿の裏を通って………。

 「………アンジェリーク…」
 「なあに?」
 「馬の扱い方など、いつの間に覚えたのだ?」
 「オスカーに教えてもらったのよ。土の曜日と日の曜日はあなたと過ごすから
  平日の午後とかに。ジュリアスはまだ私への態度が堅いけど、オスカーは
  言葉遣いは丁寧でも態度は変わらないから…」
 「…………………………」
 「何?。聞きたい事があるなら聞いて」
 「……オスカーとはよく会っているのか?」
 「週に一度くらい乗馬を一緒にしてるの。たまにディアも一緒に。
  あなたは何だかんだ言いながらも、執務時間が終わるまでは帰ってこないんですもの。
  1日ならともかく、5日にもなると結構時間を持て余すのよ。
  今までがきつきつの時間枠でいたからよけいにそう感じるのかもね」

 目的地らしき場所に辿り着くとアンジェリークはアーサーを止まらせた。
先にクラヴィスが降りて、クラヴィスの差し伸べる手をとりアンジェリークもアーサーから降りた。
場所は聖地をほぼ一望できる丘の上で宮殿や公園、王立研究院などを
まるで雲の上から見下ろしているようだった。

 「ここよ。ここが今日の最大の目的地。ここからの景色をあなたに見せたかったの」
 「…………アンジェリーク……」
 「クラヴィス、今日は何の日か本当に分らない?」
 「……ああ、何かあるのか?」
 「くすっ……。昔から変わらないわね。今日はあなたの誕生日でしょう?」
 「!……………ああ、そうであったな…」
 「私がまだ候補生だった頃からそうだったわね…。自分の事には本当に無頓着で…
  プレゼントを持って行っても、”貰う理由がない”って突っ返された事もあったわね」
 「………そうであったな…。私にとっては”聖地”という
  生まれ育った世界と切り離された時間の中で、自分の生まれた日など
  そう気に留める程のものでもなくなっていた……。
  もう顔も思い出せぬ家族といた頃はまだ祝ってくれる者があったのだが
  聖地に来てからはそれもなくなった………」

 丘の上から静かに下を眺め、いつもとは違う環境のせいか、いつもよりも饒舌に
自分の事を話すクラヴィスの視界にアンジェリークは割って入った。

 「……今はもう、私がいるでしょう……?」
 「……そうだな…。お前に出逢う為に守護聖となったのだとしたら………
  心に堕ちた今までのどんな闇も、私は喜んで受け入れる事ができるだろう……」
 「(/////////////)。……ど……どうしたの?、クラヴィス……」
 「お前がくれた贈り物に返す物を贈らねばなるまい……」
 「……ありがとうクラヴィス……。すごく嬉しい、今の言葉……。
  私のプレゼントは気に入ってくれた?」
 「もちろんだとも…」
 「あなたは私よりずっと前から聖地にいるけど、こんな所まで出歩くとは思えないもの。
  聖地の中は絶対私の方が詳しいと思うわ。
  ここからの景色なら、あなたは知らないだろうと思ったのよ…」

 アンジェリークはクラヴィスから視線を下に広がる景色へと移した。
クラヴィスがアンジェリークの肩に手を置き抱き寄せ、アンジェリークもクラヴィスの胸に
そっと手を添えた。その胸に額を預けるとクラヴィスの鼓動が心地よかった。

 アンジェリークとクラヴィスは時間が経つのも忘れて聖地を見下ろしていた。
潰されそうな悲しみと、溶け入るような喜びと、その相反する二つを二人に与えた場所を。
失った者は多くても、それに見合う幸せを手に入れたこの地を、
いつまでも愛おしそうに眺めていた………………。




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はい。久方ぶりのアンジェリーク更新でごじゃります。
何を書こうか……誰を書こうか………考えてネット上をふらふらしていると
ふと見かけた「クラヴィス様生誕企画」。………そうか、そういえば今月だったな…
という、なんとも愛情の薄い一瞬から浮かんだネタ。
でも誕生日ネタって結構他の方も使い易いネタだし、何かぱっとしたのないかな……
と考えて、絶対にこんな事はクラヴィスはしないだろう……
というものに挑戦させてみました。






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