BARTH



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




 「女王試験は順調に進んでいるようね、ディア」
 「はい、もう時期どちらかが陛下の後を継ぐ256代女王と成るでしょう」

 女王の間で255代女王のアンジェリークとその補佐官ディアは
新しい女王と成るべく二人の女王候補達の試験経過の資料を眺めながら
その進み具合を確かめていた。
 試験の課題となっていた各々の大陸育成。ロザリアのフェリシアと
自分と同じ名を持つアンジェリーク・リモージュのエリュ−シオン。
二つの大陸はそれぞれに成長を遂げていた。出足が遅れたエリュ−シオンも
途中目覚ましい成長を遂げ大陸に住む住人は大きく膨れ上がっており
フェリシアと並び力強い命が根付いていた。

 自室に戻ったアンジェリークは、女王の装束を脱ぎ捨て身軽な部屋着に着替えると
窓の外を見渡した。聖地がほぼ一望にできるその部屋からは、聖地に住む様々な人々の
生活の様子が見れる。しかし今は衰えた自分のサクリアが聖地までにも影響をおよぼし
年中過ごしやすい気候と天気は崩れ、時に雨や落雷も鳴り響く始末である。

 「ごめんなさい。でも後少しの辛抱を我慢してちょうだい‥‥‥。
  時期女王がうまれれば‥‥」

アンジェリークは窓ガラスに手をあててそこに額をあてた。

 「私の最後の仕事も終わる‥‥」

 また、怪しい雲行きの空に目をやり疲れた溜め息を吐いた。
覚悟のついた意志の眠る瞳が鋭く天を見据え、やがて来る時を待つ。
その口からはか細い声で一人の名前がもれた‥。

 「‥‥‥‥‥クラヴィス‥‥」








◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆





 「それじゃあクラヴィス様、育成の件よろしくお願いします」
 「わかった。覚えておこう‥‥‥」

 闇の守護聖の執務室を訪れた女王候補のアンジェリーク・リモージュは
滅多に日の差さないその部屋の中を怖がる事もなく、世間話をまぜた育成のお願いに来ていた。
話も終わり育成の願いも終わって帰る為にドアに向かったリモージュは
その途中で立ち止まりくるりと向きを変えた。
ふいに立ち止まった女王候補にクラヴィスは視線を送る事なく声をかけた。

 「‥‥‥‥まだ何かあるのか‥」
 「クラヴィス様、もしよろしければ公園にでも御一緒しませんか?。
  たまには外の空気を吸わないと病気になってしまいますよ?」
 「‥‥‥‥気が乗らぬ‥‥」

リモージュはめげずに誘いを続けた。

 「でわでわ、森の湖はいかがですか?。あそこなら人も少ないしゆっくりできると思います」
 「‥‥‥‥同じ事を二度も言わせるな」

クラヴィスの怯えを誘う低い声で発せられた冷たい台詞にも、リモージュは引き下がらなかった。

 「え〜‥‥是非行きましょうよ〜。きっと気晴らしになりますから‥‥。ね?」
 「‥‥‥‥‥(一体私に何の気晴らしをしろというのだ‥‥)‥」

 エリューシオンの資料を片手にもう片手でクラヴィスの服の裾を掴みくいくいと引っ張る
金の髪の女王候補のその行動に、クラヴィスは無意識に過去の影を重ねていた。
 諦めたように溜め息を吐き無言で椅子から立ち上がると、それが無言の返事となり
リモージュは顔を輝かせて二人は執務室を後にした。








◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆





 アンジェリークは早い時間に夕食を済ませると、椅子に深く腰を落とし長い溜め息を吐いた。
女王のサクリアの衰えは宇宙にのみならず、アンジェリークの体にも影響を出していた。
今までにない喪失感。必要以上の疲労はアンジェリークの体を蝕むようだった。
 食後のワインを飲み干すと早くもベッドへと向かった。
沈む気持ちを紛らわすように窓際により、大切な思い出の残る森の湖に目を向けた。
すると、アンジェリークはそこに信じられないものを見た。

 「クラヴィス!!??」

そして、クラヴィスの前を歩くのは‥‥‥、

 「あれは‥‥‥女王候補の‥‥!!。どうして?」

 アンジェリークは思わず窓を開けてバルコニーへと出て、身を乗り出して二人を見つめた。
楽しそうに笑う少女と、その姿を優しい眼差しで見つめるクラヴィス‥‥。
 動揺を隠し切れない心に鞭打つように、アンジェリークは自分に言い聞かせた。

 「‥‥‥いい事じゃない。私がひどく傷つけた人があんな風な笑顔を取り戻したんだもの‥。
  もう解りきっていた事じゃなかったの?。この恋は片道だって事を‥‥。
  もう彼の側には居られない‥‥‥‥。‥‥‥居られないのよ!。
  だったら、あんな風に側にいてあげられる人が彼の心に住んでくれたら‥‥」

 その時、アンジェリークのほほを流れ落ちるものがあった。
同時に心の中に響く声が一つ‥‥。

 …自分で自分に嘘をついてどうするの?。私はあの人が好き。
  あの人もそうあって欲しい‥‥。今でも‥‥‥好きでいて欲しい。
  クラヴィスの髪がのび続ける限り‥‥私の事を吹っ切れていないんだって思い込んだように
  また自分を騙すの?。

 アンジェリークはいたたまれなくなって部屋に戻りベッドへと飛び込んだ。
枕に顔を埋めても涙は止まらなかった‥‥。








◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆







「‥‥‥アンジェリーク‥‥、これからもずっと私と共にいてくれぬか?」
「‥クラヴィス様‥‥‥‥‥はい、もちろんです」
「‥アンジェリーク‥‥」







「アンジェリーク!!何故だ!?。私の側に居ると約束をしたのを忘れたのか!?。」
「いいえ!!。忘れてなどいません!!!」
「ならば何故女王になるのだ!?。女王になってしまえば、守護聖である私とお前の間には
 目に見えぬ壁ができる。陛下のお名前は付せられ尊称でしか呼べなくなるというのに
 お前はどうやって私の側に居るつもりなのだ!!!?」
「クラヴィス様!!。私は女王候補として聖地を訪れました。
 でも貴方と出逢って初めて本当に人を好きになるって事がどんな事なのかを知りました。
 その気持ちは変わりないけど‥‥でも‥‥!!」
「‥‥もういい‥‥。それ以上は聞きたくない‥。
 私はもう一時もお前と離れてなど居られぬ。なのに、お前は女王になり私から離れて行く。
 しかし、気持ちは私と同じだと‥‥‥。お前の言っている事は脈絡のないものばかりだ!」
「待って下さい!!。どうか私の話を‥‥」
「同じ事を二度も言わせるな!!」
「クラヴィス様!!!‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」





 ………女王陛下…………………女王陛下……。
 「‥‥‥‥っ‥」
 …もうお目覚めになる時間でございます。
 「‥‥‥‥‥あ‥‥もう朝なの‥?」
 …はい‥。
 「‥‥そう‥‥」

 泣きながら眠りに入ったアンジェリークの目覚めは最悪だった。
アンジェリークにも、そしてクラヴィスの心にも深く傷を残した出来事を夢で見て
幾つもの涙を流したまぶたは重く、頭はずきずきと痛む。
眉間にしわを寄せてけだるそうにベッドから出ると、沈んだ気分を消し去ろうと
バスルームへと向かった。

 「‥‥‥‥クラヴィス様を傷つけて、私は”安らぐ”事を失くした。
  あの頃の”強さ”も”勇気”も今の私にはない‥‥。
  ”夢”も”優しさ”も、すぐにでも失くしてしまいそう‥‥。
  かろうじて少しの”誇り”が残ってる。女王としてのもの‥‥‥。
  それさえも失くしたら‥‥‥きっと私、もう立ち上がれないわね‥」

鳥肌の立つ程冷えた水を全身に浴びると、バスルームを出て一日の仕事へと向かった。








◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆





 「女王陛下に御報告致します。
  第256期女王候補生、アンジェリーク・リモージュの育成する大陸「エリューシオン」の
  人口が順調に増加し、「フェリシア」との間に存在する「島」に命が芽生えるのも
  もはや時間の問題と思われます。
   もう一人の候補生、ロザリア・デ・カタルヘナの育成する大陸「フェリシア」も
  人口は増加していますが、「エリューシオン」には今一つ及ばないかと‥‥」
 「‥‥‥‥‥‥解りました。御苦労でした、パスハ。下がってよろしい」
 「はい。失礼致します」

 定例になっている王立研究院の責任者パスハから女王試験についての報告を受けると
アンジェリークは早々にパスハを下がらせた。

 「陛下‥‥‥‥御体の調子でもお悪いのですか?」
 「ディア‥‥。いいえ、そんな事はありません。何故?」
 [御声の様子がいつもと違われるような気が致しましたので‥‥。]
 「‥‥‥何も変わりありません。あなたももうお下がりなさい。
  変わらず候補生達の力になるように‥‥」
 「はい。心得ております」

 ディアが一礼をして謁見の間を後にすると、独り部屋に残ったアンジェリークは
女王とを隔てるベールを潜って残された資料に目を通した。
次女王となる者を決める二つの大陸の真ん中に点在する、不思議なオーラの湧き出る島。
その島に最初に命を芽生えさせた者が、自分の跡を継ぎ女王となる。
そして確実にその時は近付いていた。








◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆





 「天使様!。またいらしてくれたんですか?」
 「ええ。皆の様子はどう?、リオ」
 「はい。クラヴィス様のサクリアが大陸に満ちて皆とっても喜んでいます」
 「そう、よかった!!」
 「天使様、よかったら皆の様子を見て行って下さい」

 エリューシオンを訪れたリモージュは、神官のリオと話をするとそのまま大陸の民達の
顔を嬉し気に眺めながら帰路についた。
そして聖地に戻りロザリアと共にお茶をしていた時に、その時は訪れた。

 リモージュの育成するエリューシオンの民が中心にある島へと命を芽生えさせたのだ。
そしてその島は大陸に住む人間達には感じないが、聖地に住む者達全てに
新しい女王誕生のエネルギーを感じさせた。
そのエネルギーは女王試験の終わりを告げ、二人の女王候補と9人の守護聖、補佐官のディアは
謁見の間へと集められた。
 しかしそこに女王陛下の姿はなかった。

 「ディア。陛下は一体どうされたのだ?。このような時に‥」
 「わたくしも何も聞いておりません。‥‥‥‥しかし」
 「?どうしたのだ」
 「‥‥‥‥‥‥‥‥最近の陛下の御様子は、何かわたくし達に
    とても大事な事を隠されているように思うのです」
 「大事な事‥‥?。‥‥‥‥‥‥‥‥‥!!!」

 その瞬間聖地は大きな地震に見舞われた。大地が揺れる、というよりは空気全体‥いや
宇宙が揺れているような振動が聖地にまでも響いている‥‥‥そんな感じだった。
 そう思うと又空気が変わり、まるで産まれたばかりの初々しいエネルギーが聖地に広がった。
しかし、とっさの事に皆が動揺し落ち着きを取り戻すと、そのエネルギーは
アンジェリーク・リモージュの中から湧き出る「女王」としてのサクリアだった。








◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆





 「クラヴィス‥‥‥いつだってあなたに恥じない自分でありたい‥。
  例えあなたがもう私を思い出にしてしまっても‥‥。
  それが、私が女王を選んだ理由なのだから‥‥!!!」



 アンジェリークは自分に残るサクリアを全開にし新しい宇宙へと星星や生命の全てを移した。
一瞬にして移動した事に皆が気付かず、女王の姿を探すとそこにあるべき場所には、
暗い空間がありその向こうに女王の姿があった。

 「皆、揃っていますね。これが私からの最後の言葉となります。よくお聞きなさい。
  今私は、私に残る全てのサクリアを使い、新しき宇宙に生命や惑星の全てを移しました。
  産まれたばかりの宇宙のエネルギーはその変動に耐え、
  今までと変わらぬ時間を刻むでしょう‥。アンジェリーク・リモージュ」
 「はっはい!」
 「あなたを255代目女王の名において、第256代目、そして新しき宇宙の
  初代女王と認めます。生まれたばかりの宇宙を守り、導きなさい。
  あなたにはその力があります」
 「はい!!」
 「ロザリア・デ・カタルへナ」
 「はい!」
 「あなたは初代女王を支える補佐官となり力を尽くしなさい‥‥。
  若き女王にはそれを支える者が必要です」
 「はい!」
 「9人の守護聖達よ‥。まだ幼き女王と補佐官を支えるのがあなた達の役目。
  それをしっかりと心に命じなさい」
 「陛下!!!」
 「私はこれからこの古き空間を封印しなければなりません。
  この空間には濁ったものが溜まり過ぎています。これは仕方のないものです。
  時間を重ねれば重ねる程、年を重ねるのと同じように宇宙も年老いてゆくのです」

アンジェリークが言い終わる前に徐々に空間は小さくなり、今にも閉じてしまいそうだった。

 「陛下!!??」
 「こちらへ来てはなりません!!。産まれたばかりの赤子のような宇宙には
  貴女達が必要なのです」
 「ジュリアス‥ごめんなさい‥‥」

その時ディアが閉まりかけた暗い空間に飛び込んだ。

 「ディア!!??。なぜ?」
 「水臭いですわ。わたくし達、いつだって一緒だったでしょう?」
 「だめよ!!。まだ間に合うわ、あなただけでも戻って!!」
 「いいえ。あなたの側に居なければあなたの力にはなれないもの‥」
 「‥‥‥‥‥‥そうね‥。女王候補として聖地に訪れる前からいつも一緒だったものね」
 「ええ‥‥陛下‥」
 「もうその呼び名はいいわ‥‥。昔のように呼んでちょうだい‥」
 「ええ。アンジェリーク」

 アンジェリークは最後にクラヴィスに視線を移した。
もう声は届かないが何かを言いかけて、止めた。
最後の最後まで未練がましく、彼の心を惑わせたくなかったからだ。
そして命の何も残らない古き宇宙に255代女王とその補佐官を残し、空間は閉じた‥‥。








◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆





 空間は閉じその場には再び静かな時間が流れた。とっさの事にその場にいる誰もが
事体を理解するのに時間を必要とした。首座のジュリアスでさえ‥‥。
 いや、愛しき人を失った事でジュリアスは今までにない程動揺していた。
ディアを深く理解しているからこそ、自分よりも陛下を選んだディアの心情も解る。
複雑な想いだった。
しかし、首座として皆をまとめなければ‥という強い責任感がジュリアスを支えた。

 「‥‥‥‥‥アンジェリーク・リモージュ。
  先代女王陛下の御言葉によりそなたを新しき女王と迎えよう。
  即位式は明後日に執り行う‥‥‥‥」
 「‥‥‥‥はい」
 「皆も急いで準備に取りかかるように‥」

ジュリアスの言葉と共に固まっていたその場の空気が流れ始めた。

 しかしたった独り‥クラヴィスだけはまだ固まったままであった。
最後に目を向けた陛下の顔を覆うヴェ−ルがひらりと舞って
その影になっていた人の瞳と視線が合わさったような気がしていた‥。
何か言いた気に開いた唇はその声をクラヴィスの耳まで届ける事もなく
ぱくぱくと動いた。
”アイシテル?”、”ゴメンナサイ?”その最後の言葉はクラヴィスには解らなかった。

 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
  (なぜだ?。こんなに心がざわめくのは、一体なんなのだ?。
   アンジェリーク‥‥‥お前は何故そこまでして‥‥女王でありたかったのか?。
   その身を破滅させる程に‥‥‥?。‥‥‥‥‥‥なぜ?)‥‥‥」

 しかしクラヴィスの心は空しく宙を漂うのみで、それに還るものは何もなかった‥。


 その頃、閉ざされた宇宙の中では‥‥‥‥。








◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆





 「ディア…、あなたもとんだ貧乏くじを引いたわね」
 「そうね。でも嫌な気分じゃないわ」
 「もしあなたが女王になってたら、もとましな”現在(いま)”があったかもしれないのに‥」
 「いいえ。スモルニィ女学院で、先生からあなたとわたくしが女王候補に選ばれたと
  お聞きした時から、わたくしはあなたこそが女王に相応しいとずっと思っていたわ。
  だからといって、試験の手を抜いたりはしなかったけど‥‥‥」
 「‥‥‥ディア。あなたがいてくれるだけで私はいつも勇気づけられたわ。今もそう‥‥。
  最後の悪あがきをしてみようかしら!?」
 「悪あがき?」
 「この宇宙をこのまま放っといたら、いずれ禍々しいものが生まれてしまうとも限らない。
  それが100年先でも、1000年先でもわずかな可能性がある限り
  今できる事があるわ。
  この虚無の空間にもう一度新しい命を芽生えさせる為には、どうしたらいいと思う?」
 「???どうするの?」
 「一度この空間を破壊してしまうのよ。
  悪いものは塵となって消え、良いものは粉となって残る。
  その残った粉の中から遠い未来にでも必ず、新しい命が生まれるはず‥」
 「‥‥”破壊と誕生”ね!」
 「そう!。遠い昔にそうやって宇宙の素が生まれたように‥!!
  この虚無の空間もきっと生まれかわれる!!」
 「‥‥あなたを信じるわ、アンジェリーク」

 ディアがアンジェリークに向かって手を差し出すと、アンジェリークは笑顔でその手をとった。
わずかに残ったサクリアに集中し、力の方向を変え虚無の空間へと向けた。
それまでサクリアを送り続けた宇宙へと向かって‥‥‥‥。








◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆





 謁見の間では女王陛下と補佐官が古き宇宙の空間と共に消えてからすでに3日経っていた。
前代未聞の女王陛下の居ないままの新しき次代女王の即位式が厳かに執り行われようとしていた。

 「ではこれより、新女王の即位式を執り行う。
    アンジェリーク・リモージュ。前へ」
 「はい」

 正式な装束に身を纏ったリモージュが足を前に進めると、
本来女王が居るはずの奥の場所に異変が起こった。
 何もないはずのその空間に突如亀裂が走ったかと思うと、大きな雷音と共に
第255代目女王とその補佐官がいきなり姿を現したのだった。
謁見の間にいる者達全てがまるで幽霊でも見るかのようにその場に固まっていた。

 「!!!!!!!!!!!」

 しかし驚いていたのはアンジェリークとディアもだった。
何故いきなり自分達がここにいるのか、宇宙を破壊する時の爆発に
自分達は決して助からないと思っていたのに何故今無事でいるのか‥何がなんだか解らなかった。
 しかしアンジェリークは冷静に辺りを見渡し、自分達がどういった場面に現われたのかを
正確に読み取り、そして固まる皆に言葉を吐いた。

 「どうやらいい所に間に合ったようですね‥‥。ジュリアス、続けなさい」
 「はっっはい!!。
  では、アンジェリーク・リモージュ、陛下の御前へ‥」
 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 「アンジェリーク・リモージュ!」
 「!はいい!!!」

 アクシデントを交えながらも即位式は無事終わり、新しき女王が誕生した。
聖地や主星には瞬く間に新女王御即位のニュースが広がり、そのおめでたい知らせに
誰もが新女王陛下の即位を祝ってお祭り騒ぎが繰り広げられた。

 「陛下!!!よく御無事で‥‥‥。しかしどうやって‥?」
 「私にも解らぬ。私達は確かに閉ざされた空間の中で命が消滅する瞬間を覚悟した。
  しかし気付けばこの場にあった‥‥。それが何故なのかは、私にも解らぬ」
 「きっとアン‥‥陛下は愛されているんですわ。
  わたくし達は大変な思い違いをしていたのかも知れませんわね‥」
 「??」
 「どーいう事だ?」
 「わたくし達は守っていたつもりで、逆に守られていたんですわ。
  最後の最後まで決して諦めずに前を向き続けた陛下を宇宙は愛しておられたんですわ。
  そして守って下さった‥。そうとしか思えません。
  わたくし達が今こうして無事でいる事がまるで奇跡のようですもの‥‥‥」
 「‥‥‥‥何はともあれ、またそなたの顔を目にする事ができた事が私は‥‥‥」
 「ジュリアス‥‥‥」
 「‥‥‥‥コホン‥‥」
 「‥あ(////////////////)、し‥失礼致しました‥」
 「(///////////////)」

 ジュリアスとディアは思わず握りあった手を振りほどき、まるで湯気でも登りそうな程
まっかな顔をしていた。
 ベールに隠れたままのアンジェリークの顔は全てが上手くいった事に恐怖を覚える程
安堵していた。祝報に沸き上がる聖地、笑顔で盃をかわす人々の笑顔。
それを目にしただけで、胸の中に深く達成感が広がった。
自分が恐れ続けた危機は無事、回避されたのだと‥‥。








◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆





 「それではアンジェリーク。
  これから女王としての必要な諸事をあなたに引き継ぎをしてもらいます。
  期間は一ヶ月か、二ヶ月かあるいはそれ以上か‥‥‥、
  ようはあなたの覚え次第で、私がもうあなたは一人でも大丈夫だと思えた時に
  女王の戴冠式を行い、本当の意味での女王となります。頑張りなさい」
 「はっはい。よろしくお願いします」

 二人きりの女王陛下の仕事用に用意された部屋の中でリモージュは初めて見る陛下の
素顔に見とれていた。自分よりも白く光るプラチナブロンドにブルーグリーンの瞳。
ベールに覆われ陽にあたらなかったせいか、生まれつきなのか、まるで雪のような白い肌。
少し開いた窓から流れる風に腰までもある長いストレートの髪がなびくと
リモージュは同性であるにも関わらずその姿に見とれてぼーっとしてしまっていた。

 「‥‥アンジェリーク‥‥‥アンジェリーク!?」
 「はい!!。すみません‥‥!!」
 「‥‥ふう‥‥‥あまり緊張しなくていいのよ?。私にまで移ってしまうわ」
 「は‥はい。すみません」
 「‥‥‥所でアンジェリーク、こんな事今さら聞いても仕方がないのだけど
  あなたは、‥‥その、女王になる前にやり残した事とか、思い残した事はないの?」
 「‥‥やり残した事‥ですか?」
 「ええ。‥‥‥‥‥その、好きな人とか‥‥?」
 「え!?(///////////)」

”好きな人”その言葉にリモージュはぽっと顔を赤く染めた。

 「もしかしてその相手って‥‥‥クラヴィス?」
 「(/////////)やあ〜だ〜!!。どうして陛下そんな事まで知ってるんですか〜!?」
 「(やっぱり‥。)‥‥彼と話をしてこなくていいの?。』
 「止めて下さいよ〜。クラヴィス様にはもうきっぱりと振られちゃったんですから‥!」
 「え!?。振られた??。‥‥‥‥‥だってあなた達、二人で歩いてるのを‥‥え?」
 「クラヴィス様には、気持ちを打ち明けた時きっぱりといわれました。
  そんなつもりで私に付き合っていて下さったんじゃないって‥」
 「でも、彼のあんな笑顔は‥‥‥」
 「そりゃ振られてからも私の誘いには何度か付き合って下さいましたけど
  何度かお時間を御一緒するうちに私解っちゃったんです」
 「‥‥‥何を?」
 「クラヴィス様は私と一緒に居る時に、たまに凄い優しいお顔をする時があるんですけど
  それは私に向けられたものじゃないんです。
  私の後ろに誰かの影を重ねているんだと思います。私にくださった笑顔じゃないんですもの。
  きっといつか少し話して下さった方を今でも忘れられないんじゃないかな‥‥‥と」
 「誰か‥?」
 「”ツキマチスミレ”の花言葉って陛下は御存じですか?」
 「え?。ツキマチスミレ?。それがどうかしたの?」
 「前にクラヴィス様にツキマチスミレの花言葉をお教えした方が
  いらっしゃったらしいんですけど、そのお話をされた時と時折見るお顔が一緒なんですもの。
  きっとまだその方を思っていらっしゃるんだと、そー思ったんですけど‥」
 「!!!!!!!!」
 「陛下?」

 アンジェリークはぽろぽろと流れる涙をとめられなかった。
涙を拭う事もせずに、ビー玉のような透き通る瞳から流れる滴はアンジェリークの頬を伝って
机の上の書類を濡らした。

 「!!??え??。陛下?。一体どうされたんですか?」
 「‥‥‥クラヴィスがそう言ったの?」
 「‥‥いいえ。クラヴィス様は何も御自分の事はおっしゃらないんですけど‥‥。
  そーいえば‥‥クラヴィス様がまだ私の事を「金の髪の女王候補」と呼んでいた頃に
  一度、急に名前を呼ばれて腕を掴まれた事が‥。
  その後急にご気分が悪くなって‥‥‥。きっと私と同じ名前の人なんでしょうね?」
 「‥‥(クラヴィス!!。)‥」
 「あの‥‥陛下どう為さったんですか?。どこか痛い所でも?」
 「違う‥‥‥違うのよ‥‥アンジェリーク‥」

 急に泣き出し、そして止まらず泣き続けるアンジェリークに困ったリモージュは
おろおろとアンジェリークの回りをうろつくばかり‥‥。
ちょうどその時、部屋の戸を叩く音がした。

 「陛下。ちょっとよろしいでしょうか‥?」
 「ディア様!!」

 リモージュは急いで戸を開けて事の事情をディアに話した。
クラヴィスの話をしていたら急に陛下が泣き出してしまったと‥‥何か御気に触る事でも
言ってしまったのか‥と心配するリモージュに、ディアは優しく微笑みかけ
共に連れて来たロザリアとリモージュを廊下に待たせて、部屋の戸を閉めた。

 「アンジェリーク‥‥大丈夫?」
 「‥‥‥ええ‥‥‥」

そうは言っても涙は止まる気配もない。

 「アンジェリーク‥そこまで想っているのならクラヴィスと話をしていらっしゃいな」
 「でも‥!」
 「大丈夫。あなたの今の気持ちを全部隠さずにお話したら、きっと答えて下さるわ。
  たとえもうあなたに気持ちが残っていなかったのだとしても、納得する言葉をくださるわ。
  このまま、クラヴィスとの関係を半端にしたままじゃこの先、新しい恋も出来ないわよ」
 「‥ディア‥‥‥‥私、追い返されたりしないかしら‥?」
 「あら?。あなたとも思えない気弱な台詞ね。
  候補生だった頃はそんな事お構い無しだったのに‥‥。
  そんなあなたの”好きな人に積極的”な所、わたくし憧れていたのに‥」
 「ディア‥‥‥‥‥」
 「今夜にでもクラヴィスのお屋敷を訪ねてみなさいな。
  もしダメだったら、わたくし遅くまで起きて待っているから‥‥‥‥ね?」
 「‥‥‥‥‥うん‥‥‥‥ありがとう、ディア‥‥」

 アンジェリークは涙を拭って大きく深呼吸をした。気分が少し落ち着いた事で涙は止まり
永い付き合いの親友に向かってやっといつもの笑顔を向ける事ができた。








◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆





 そしてアンジェリークは走っていた。碧くおおい茂る森の中を。
額に流れる汗を拭う暇もない程に。

 「まだ逢える時期じゃない。追い返されるかも知れない。でも逢いたい。
  長い間ずっと封じた思いを打ち明けたい。あの人が変わらずにいてくれたら
  きっと私を受け入れてくれる…」

逢いたい。逢いたい。逢いたい。そればかりが、少女の胸の中を支配していた。

 どのくらい走ったのか、アンジェリークの額を流れる汗は首へと流れ
そのまま襟元からシャツの中へと落ちた。
やっとついた闇の守護聖の館にはまだ明かりがついていた。
2階の真ん中当たりにある一つの部屋。そこは8年前にも訪れた時と変わっていなければ
クラヴィスの部屋だった。

 「‥‥正面からいってもきっと会ってはくれないわね‥‥‥‥‥」

 はあはあと息をきらせながら回りを見渡し、明かりのついた部屋のバルコニーへ1m程を残して
垂れ下がっている樹の枝が目に入った。
アンジェリークは迷う事なくスカートを捲り上げて樹の幹に足をかけた。
物音もさせず、樹も揺らさず、慣れた様子で目標の枝まで上り詰めると
勢いをつけてバルコニーへとジャンプし、小さな足音と共にバルコニーへと辿り着いた。

 走っている時よりも数段速く大きく心音があがり、体中が心臓になってしまいそうな程で
その音が部屋の中のクラヴィスにも聞こえてしまいそうだった。

 「‥‥‥え〜‥‥‥と‥‥、ずっと好きでした‥‥。ちがう!。今でも好きです‥‥。
  好きです、好きです、好き‥‥‥‥‥‥。うう〜〜‥‥‥‥‥んと‥‥、
  ‥‥‥‥‥‥‥‥”愛してます”‥‥‥‥。
  愛してます、クラヴィス‥‥‥‥‥‥‥様?。‥‥よし!!」

 アンジェリークは小さく気合いを入れると、バクバクし続ける胸を押さえ
もう片方の震える手で、その部屋の窓を叩いた。

 「クラヴィス様、いらっしゃいますか?。私です。アンジェリークです」













■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■END




これは私の処女作品「再会・再愛」の直前までを、アンジェリークサイドで書いてみました。
ちょうどリモージュちゃんの試験中からですね。アンジェリークの心理状態などを
上手く書ければと重いながらドラマチック仕立てに仕上げてみました。






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