休日の過ごし方



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




 「はー。いいお天気ですねぇ‥‥」


 今日は日の曜日。ルヴァは森の湖に向かっていた。
てくてくと歩くスピードは決して速いとは言いがたいが、本人は回りの景色に目を向けながら
マイペースに歩いている。
途中挨拶を投げ掛ける人々に丁寧に挨拶を返すので、なかなか歩は進まなかった。


 「あーどうやら間に合ったようですね」


 湖に着いたルヴァは辺りをぐるっと見渡し、待ち合わせをした相手がまだ居ない事を確かめた。
きらきらと風に揺れて光る水面を見ながら、約束の相手が現れるのを待っていると、
湖と隣接した森の少し奥からカップルが飛び出し、ルヴァを見つけるなり
慌てた様子で駆け寄ってきた。


 「あー‥‥どうしたのですか?」
 「ルヴァ様、あちらの木の上から人の足が見えるんです。なんだか恐くて‥‥」
 「えー?木の上からですか」
 「呼び掛けてみても返事もないんです」
 「わかりました。わたしが見てきましょう。あなた達はもう行って大丈夫ですよ」


 ルヴァの言葉を聞いてカップル達は、デートの場所を他の場所へと変えて
森の湖から遠のいて行った。
 ルヴァはカップルが出てきた辺りの木を一本一本上を見上げながら確認していくと、
二人の言っていた通り、回りより少し大きな木の上から
木々の葉に紛れて白い足がぶら下がっていた。


 「あー‥‥そんなところにいると危ないですよー」


声をかけてみるが返事がない。どうしたものかとルヴァは考え込んだ。


 「あのー‥‥えぇっと‥‥」


 しかし今度は返事があった。がさがさっという音と共に降ってきたのは
少し厚く大きめの本だった。目の前に落ちた本を広い上げてルヴァはまた上を見上げる。


 「本が落ちましたよ〜もしもーし‥‥。困りましたねー、木登りはしたことないんですよねー」


 ルヴァはふう…と息を吐いて見上げている。
どうしたものかとしばらく考えていると、急にぶら下がっている足が二本に増えて
ずるずると傾いた。
 瞬間「落ちる」と思ったルヴァは地面への激突だけは防ごうと、
両手を広げて真下に移動したが‥‥!


 「!!」


 ルヴァの心配は無駄に終わった。
落ちる寸前に枝にしがみついた少女(と、ルヴァは思っていたらしい)は
落下を免れて地面に1m程を残してぶら下がって、それだけではなく
振り子のように揺れる体は、助けようと真下に居たルヴァの頭を蹴り上げてしまった。


 「あ」
 「っ‥‥!」


ルヴァは蹴られた箇所を手で押さえながら、痛みをじっと堪えている。


 「ごめんなさぁい‥‥」


恐る恐るかけられた声にルヴァは聞き覚えがあった。


 「陛下!?こんなところで何を為さってるんですかー!」
 「‥‥読書」


驚きのあまりいつもより早い口調でそう言われて、陛下「アンジェリーク」は恐る恐る口を開いた。


 「読書って‥‥木の上ですよ〜?!」
 「あまり一目につきたくなかったの‥‥」
 「それでもですねー、危ないじゃないですか。そんな‥‥」
 「ごめんなさい」
 「いいえ。私が言っているのはあなたの事ですよー。
  陛下の身に何かあったらどうするんですか?」
 「いつもはこんなヘマはしないのよ!。今日はちょっと眠くなっちゃって‥‥」
 「眠く!?。まさか寝たんですかー!、木の上で?」


 アンジェリークは申し訳なさそうに小さく頷いた。
ルヴァは呆れたようにぽかんと口を開けている。言葉もないとはこういう事か‥‥と
しみじみ思っていた。


 「陛下‥‥。あなたがこの宇宙にとってどれ程大切な方か、
  今更説いて教えることになるとは思いませんでしたよ〜」


はぁ‥‥とルヴァは溜め息を吐く。


 「あっ!ほらルヴァ!待ち合わせの方がいらっしゃったんじゃない!?」


 アンジェリークはルヴァの気を逸らそうと湖の縁を指差して言った。
確かにそこには待ち合わせの相手、ロザリアが立っている。


 「早く行ってあげないと!、ね?」
 「陛下‥‥まっすぐ、寄り道せずに帰れますか?」
 「えぇえぇ、一人でちゃんと帰るから」
 「嘘はいけませんねー」
 「ルヴァのいじわる‥‥」


 アンジェリークはぷうっと頬を膨らました。
アンジェリークとロザリアを見ながら、少し考えてルヴァは個人より守護聖としての役目を選んだ。


 「わかりました。私が宮殿まで送りますよ。
  ロザリアには訳を話して少し待っていてもらいましょう」
 「訳を話すって‥‥私が女王だって事も?」
 「いえいえ。それはふせて話しますよ」
 「ならダメよ。ロザリアはあなたと約束をしてたのに、彼女よりも私を優先させちゃ、
  彼女に嫌な思いをさせるわよ?!」


 鈍感なルヴァにアンジェリークは詰め寄った。
「頭でっかちで女の子の気持ちなんて全然わかってないんだから」と心の中でぼやきながら‥‥。


 「しかし‥‥」
 「一人でもちゃんと帰るから、ロザリアのところに行ってあげて」


 ルヴァはうんうんと唸りながら迷っていた。そのうちロザリアがルヴァを見つけて近寄ってくる。


 「ルヴァ様?、こんな場所で何をなさってるのですか?」
 「ロッ‥‥ロザリア!」
 「そちらの方はお知り合いですか?」
 「えっ?、はい。あ、いいえ」
 「?」


ルヴァは見るからに動揺していた。


 「じゃあ、私はこれで‥‥」
 「あぁっ!、いけません!」
 「ルヴァ様?」


 二人の女性にはさまれてルヴァはめずらしくパニクッていた。
女王陛下を無事に宮殿まで送り届けなくてはならない。
しかしロザリアに嫌な思いをさせたくない。
体が二つ欲しい‥‥。
彼女は二つ返事で待っていてくれるだろうが、陛下の正体を隠して訳を話す事が
ロザリアに不信感を与えないだろうか?。


 「そこで何をしている」
 (この声は!!)


天の助けとはこの事か!、とルヴァは声の主を見上げた。


 「女性に囲まれるなんて珍しい事もあるものだな、ルヴァ」
 「オスカー!」


 馬上からオスカーが3人に声を掛けた。
いつもよりシンプルないでたちで、多分乗馬の最中だったのだろう。


 「あー、ちょうどよかったです。オスカー、へい‥‥、彼女を送って差し上げてください」
 「彼女?」


 そういってオスカーはアンジェリークを見た。
腰まで隠れるような流れる金の髪と陶磁器の様な白い肌。


 「あぁ、かまわないぜ。これほどに美しい女性をエスコートできるなんて光栄だ」


 オスカーは馬上から颯爽と降りて、アンジェリークの右手を取ってその甲にキスをした。
いかにもなそのきざったらしいしぐさにアンジェリークは思わず吹き出してしまう。


 「何か?」
 「いいえ‥‥」
 「オスカー。くれぐれも失礼のないようにお願いしますよ」
 「あぁわかっている」
 (思わず頼んでしまいましたが‥‥本当に大丈夫なんでしょうか‥‥)


一抹の不安を残しながらルヴァはオスカーとアンジェリークを見送ろうとしたが‥‥。


 「何事だ」
 (‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ジュリアス‥‥)


耳に低く響くその声はアンジェリークが今一番会いたくない人物のものであった。


 「申し訳ありません。ルヴァにこちらの女性を送り届けて欲しいと、頼まれまして」
 「女性?」
 「ジュリアス〜、あなたも一緒でしたかー。でしたらあなたに頼むのが一番安心ですね〜」
 「何の事だ、ルヴァ」


咄嗟にオスカーの後ろに隠れたアンジェリークは長い長い溜め息を吐いて、小さな隠れ場から現れた。


 「!!」


思いも寄らぬその正体にジュリアスもルヴァ程ではないが動揺した。


 「‥‥オスカー、送ってくださるんでしょう」


アンジェリークはオスカーの手を取ろうとしたが‥‥


 「ならぬ!」
 「?」
 (はぁ‥‥‥)
 「さぁ、こちらに」


 ジュリアスは馬上から手を延ばし、アンジェリークは諦めたようにその手をとって
ジュリアスの馬に乗った。そしてそのまま、オスカーとルヴァとさっぱり事情の飲み込めていない
ロザリアを残してジュリアスは馬を走らせて行った。

残された3人は‥‥。


 「ルヴァ‥‥」
 「はい?」
 「ジュリアス様は一体どうされたんだ。
  急に機嫌が悪くなったようだが‥‥。彼女は何者なんだ?」


その質問にロザリアもルヴァの方を見た。


 「え〜と‥‥彼女はですねぇ‥‥」


ルヴァはいつもよりずっと歯切れが悪かった。


 「え〜と‥‥」
 「え〜と‥‥はもういい」
 「はい。すみません。‥‥あのー、女王陛下‥‥の一番近くにいらっしゃる方なんです。
  今の時間は宮殿にいる筈なんで、こんなところで会ってちょっとびっくりしたんですよ‥‥」
 「‥‥‥‥‥‥ルヴァ、何か隠してないか?」
 「いっ‥いいえ!とんでもない!」
 「そうか‥‥」








一方こちらは空気の重いレグルスの上‥‥。


 「陛下、このような場所で何をなさっておられたのですか?」
 「天気がよかったからたまには森で読書。それ以上何も言わないで。
  ルヴァにも言われたし自分でもわかってるから」
 「陛下?」
 「‥‥私だってたまには息抜きしたい。聖地の外に出るわけじゃないのに‥‥」
 「‥‥‥」
 「珍しい。本当に何も言わないのね」
 「今は大変な時期ですから、陛下の気が休まれるのであれば、
  あれしきの事で今更目くじらを立てたりはいたしません。
  しかし、それでも言わせていただければ、外出なさるのは構いませんが
  せめて共の者をお連れください。ディアでもかまいません。
  お一人で出歩かれるのは感心しませんね」
 「女王補佐官様を連れて歩いたら余計人目をひいてしまうじゃない!
  私だって行けるならディアと一緒にカフェテラスとか行きたいけど、
  それでゆっくりくつろげると思う?」


ジュリアスは即答できなかった。


 「女王陛下の素顔は誰も知らないから、一人でいればそう目立たないでしょ」
 「陛下の正体がバレるかバレないかが問題なのではありません。
  もし何かあったらどうされるのです?」


 そう言ってジュリアスの顔がふと暗くなった。守護聖の中で一番、自分に近いところにいて
しかも、仕事に行き過ぎるほど真面目なジュリアスは、きっと
女王の身にかかる負担を知っているのだろう。きっと他の誰よりも‥‥。


 「昔と比べて随分変わりましたね」
 「私は昔から私ですが‥‥」
 「そお?‥‥‥‥そうね。ね、胸を借りてもいい?」


アンジェリークはそう言って、ジュリアスの胸に寄り掛かり頭を預けた。


 「陛下?」
 「ごめんなさい。少し‥‥このままでもいい?」


 緩やかに揺れるレグルスのリズムが心地好かった。
とくとくと脈打つジュリアスのリズムに耳を傾けて目を閉じると、不思議な感覚に襲われた。
アンジェリークはフフッと笑みをこぼす。


 「何ですか?」
 「怒るかもしれないから言わない」
 「そうおっしゃられると余計気になります」
 「‥‥こうやって目を閉じると似てる」
 「似てる?誰にですか」
 「クラヴィスに‥‥」
 「‥‥」


アンジェリークの口から出た名前に、ジュリアスは言葉が詰まった。


 「変に思わないでね。私は女王になった事を悔やんだことなど一度もないわ。
  クラヴィスもその気持ちはわかってくれてた。まだ候補生だった時、
  私がどんな思いで試験に望んでいたか‥‥彼には話したことがあったもの」
 「陛下‥‥」
 「でも‥‥たまにはこうして、甘えたくなる時もあるの‥‥。それって弱さだと思う?」
 「‥‥いいえ」
 「ディアが羨ましいわ。甘えられるあなたが身近にいて‥‥」
 「っ!私とディアはそんなっ‥‥!/////」
 「あ、鼓動が早くなった」
 「/////私をからかっておいでなのですか?」
 「そう思うのならそうなのかも」
 「/////」


 ジュリアスの顔は赤く染まっていた。努めて冷静を装う様が逆に可愛く見える。
ジュリアスに恋をしたディアの気持ちがわかる一瞬だった。









 「陛下!!」


 宮殿が近くなって来た頃、姿の見えない女王陛下を探していた女官達が
アンジェリークを見つけると泣き出しそうな程ほっとした表情で駆け寄ってきた。


 「あぁよかった!。お屋敷のどこにもいらっしゃらなかったからびっくりいたしました。
  ジュリアス様と御一緒だったのですか?」
 「いえ‥‥」
 「そうだ。黙ってお連れしてしまってすまなかった」
 「ジュリアス!?」
 「いいえ。とんでもございません。陛下のお顔のお色が今朝よりもずっと
  よくなっていらっしゃいますもの。きっと良いお時間だったのでしょう」


 ジュリアスは自らが先に馬から降りてアンジェリークを優しく降ろした。
エスコートした手を触れたまま、ジュリアスにしか聞こえないような
小さな声でアンジェリークは呟いた。


 「あなたが嘘をつくなんて‥‥」
 「無用な心配はさせなくてもよいでしょう。しかし次からはお気をつけください」





 アンジェリークはジュリアスの手から離れ、女官達に囲まれながら屋敷の中に消えていく。
ジュリアスはたずなを握ってそれを見送っていたが、やがて振り返りレグルスに乗ってその場を去っていった。





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ジャンルがちがくなってしまいましたが、私の中ではクラ前はお話です。
久し振りの更新。それに肝心な闇が出ていませんが‥‥こんなのもありという事で^^







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