エステティックサロン



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




 その日はとても気持ちの良い風が吹いていた。


 抜けるような青空と頬をなでる風が、珍しくオリヴィエを公園へと誘う。
その日は日の曜日で公園は人で賑わっているだろうが、今日の天気はそんな事も気にならないほどだった。


 「ん〜〜♪。やっぱ出てきて正解だったね〜。こんな日に外に出ないなんて★」


 途中で挨拶を交わす人達も、楽しそうな顔をしている。
こんな顔で埋まる人込みがオリヴィエは好きだった。

 公園にたどり着いたオリヴィエは木陰のベンチに腰をかけた。
背もたれに肘をかけ足を組んで、楽しそうに遊んでいる子供達にふと目を向けると、
その小さな子供達の中に一際大きな少年がいた。子供達に同化してしまっているその少年を見て
オリヴィエは、声を上げて笑ってしまった。
 そう大きな声ではなかったのだが、少年はオリヴィエの存在に気がつき
足下に群がる子供達をかき分けてオリヴィエの元に駆け寄ってきた。


 「こんにちわオリヴィエ様!」
 「はぁ〜い★随分と楽しそうじゃない、ランディ」
 「オリヴィエ様も一緒しませんか?」

 (この私が子供と公園で遊ぶだなんて‥‥本気で誘ってるとこが天然よね。この子って‥‥)


オリヴィエは苦笑いをしてひらひらと手を振った。


 「いいよ、あたしは。そんながらじゃないし。ほら、行っといで★」
 「いいんです。皆もうお昼の時間みたいだし」
 「そ?」
 「はい!」


 ランディの足下には人懐っこい顔をさせた見事な毛なみの犬が、
御飯を催促するようにまとわりついている。
ランディは制止させるが、思いっきり遊んだ後のせいかなかなか落ち着かなかった。
 オリヴィエと話をするランディを見てすぐに御飯を貰えないと気付いた彼は、
今度は他のものに気を散らし始める。
オリヴィエの座るベンチの後ろ、草むらの中に何か見つけた彼は、
鼻をふんふんさせながら草むらの中へと体ごとつっこむ。


 「こら!。拾い食いはダメだよ」


ランディが彼を連れ戻そうと、後を追って草むらの中に入り込もうとすると‥‥‥


 「きゃぁっ!」
 「え?」


不意にした女性の悲鳴に、ランディをオリヴィエは一瞬固まった。


 「ちょっ‥‥‥何ー!?‥‥‥‥やめっ‥‥‥」
 「‥‥‥‥‥‥‥」


 はっと我にかえったオリヴィエは彼のしっぽを遠慮なく引っ張った。
キャン!、とないて彼は草むらから姿を現し、それをランディは押さえ付ける。
二人して声のした草むらをじーっっっと睨んでいると、がさがさっと音がして女性が姿を現した。


 「‥‥‥も〜〜、せっかくいい気持ちで寝てたのに‥‥」
 「あ‥‥あの、ごめんなさい!」
 「!」
 「あの‥‥‥怪我とかないですか?」
 「‥‥‥あなたの犬?」
 「はい‥…」


 躾がなってない、と思われただろうか‥‥。ランディはその女性を前にしゅんとしているが
オリヴィエは冷静に対応した。


 「こんな所で一体何してたの?」
 「‥‥いいお天気だったンで、ちょっと横になったら‥‥‥‥」
 「‥‥‥‥熟睡してたってワケ‥‥」


 オリヴィエは何所か呆れ気味で、その女性を観察した。
肌も髪も綺麗な色をしているのに艶がない。目の下にはクマ。爪はくすんだピンク色。
顔色は陽の下にあってもどこか青白い。
どう見ても”疲労”がにじみ出ている。オリヴィエにとっては許せない事実。


 「ちょっと来なさい」
 「え?」


 オリヴィエは女性の腕を掴んで立ち上がらせると、髪と服とそこらについた葉っぱを
払い落として、グイグイと引っ張って行った。


 「え?え?」
 「ちょっと‥‥オリヴィエ様!、どこ行くんですかー?」
 「私の屋敷よ。あんた名前!」
 「え?!。あ‥‥‥アンジー」


 オリヴィエはアンジーを掴んだ手を緩める事なく、真直ぐに屋敷に帰った。
なぜかおたおたとランディも後をついて行ってしまったが‥‥‥。






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 屋敷につくとオリヴィエはまず使用人を何人か呼んだ。主人のただ事ならない様子に
用を言い付けられた使用人達にはぴりっと緊張が走り、さっと四方に消えて行く。

 オリヴィエは奥のある一つの部屋に辿り着くと、タオルをアンジーに持たせて
部屋の更に奥の部屋に放り込んだ。
そこはバスルーム‥‥というか、大衆浴場と言える程の大きなバスルームだった。


 「とりあえずお風呂に入りなさい。20分したらあたしが中に入るから
  湯舟の中に入ってるのよ。気になるんだったらこのタオルを巻いて入ってなさい」
 「‥‥あ‥‥あの?」
 「ちゃんと洗うのよ」


 それだけを言い残すと、ワケが解らずにほうけているアンジーを残してバスルームの戸を閉めた。
なぜかイライラしている風のオリヴィエに訳が解らないのは、ここまでついてきてしまった
ランディも同じだった。


 「あの〜急に一体どうしたんですか?オリヴィエ様‥‥」
 「あんたは解らないでしょうね。あの子を見た!?。素はいいのにあのくたびれ方!
  あーゆーのあたし大ッ嫌いなんだよね!」
 「はぁ‥‥‥」
 「何をしてるのかは知らないけど、あんな疲れ切った顔で一体何ができるのさ!
  自分を着飾るってことは、自分に気合いを入れるのと一緒だよ。
  それに1日の疲れを癒せないようじゃ、この先ずっと疲れが溜まって行くばかりだろう?
  そんな状態が良い訳ナイじゃない!」
 「‥‥そー‥‥ですか‥‥」


 オリヴィエはテラスに出て力説している。ランディはいつの間にかメイドが入れてくれた
お茶に口をつけているが、そんな事も気がつかずにオリヴィエはまだかっかしていた。






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 「よし!。20分経ったわね」


そういって、オリヴィエはバスルームの戸を叩いた。


 「アンジー。いい?入るわよ」
 「‥‥‥‥‥‥‥‥はぁ〜い」


 中から返事が聞こえたのと同時に、腕まくりをしたオリヴィエがバスルームの中に入っていく。
アンジーはバスタオルを体に巻いて、乳白色の湯舟の中に肩まで浸かっていた。


 「そんなに深く入ってると後でのぼせるわよ?」
 「え?」
 「ほら。ここにいらっしゃい」


 オリヴィエは湯舟の縁にアンジーを仰向けに寝かせた。胸から下辺りは湯舟に浸かったままで
ラバークッションの上に頭を誘導させる。
 すると、何かの液を数滴両手に馴染ませて、オリヴィエはアンジーの顔をマッサージし始めた。
頬の辺りから額へ、鼻筋を通ってまた頬へ。ゆっくりと両手を動かす。
その動きにアンジーは両目を閉じて、気持ちよさげにしている。


 「どお?」
 「‥‥気持ちいい‥‥」
 「でしょ?私が毎日やってるお肌のマッサージだもの。
  自分でやるのもいいけど、人にやってもらうのは格別でショ」
 「ええ‥‥」
 「この手の動きは肌の血行をよくしてすべすべにするの。肌理も細やかになるし‥‥
  覚えておいて損はないわよ?」
 「‥‥本当‥‥‥凄く気持ちいい‥‥」


 オリヴィエはしばらく肌のマッサージをすると、アンジーの両手両腕、首から肩にかけても
軽くマッサージを始めた。当のアンジーは湯舟に浸かりながらうとうと‥‥‥。


 「あ!寝ちゃダメよ。あんたって‥ほ〜んと疲れてんのね」
 「‥‥…う〜ん‥‥‥」
 「ほら、もうお風呂はイイから上がって頂戴。バスローブを出しといたからそれを使うといいわ」
 「ありがとう」


 湯舟のお湯を少し掬って両手を洗い流すと、オリヴィエはバスルームを出て行った。
アンジーが上がってくる間に、湿気でベとっとした服を部屋着に着替えて出てくると
ほかほかになったアンジーが、メイドの出したジュースを口にしている所だった。


 「それはあたし特製の野菜ジュースよ。天然のビタミンが豊富に入ってるから体にいいわよ」
 「‥‥‥‥‥」
 「さ。髪を乾かしましょ。ここに座って。ジュース飲みながらでもいいから」


 アンジーは招かれるままに鏡面の前の椅子に座る。大きな鏡がアンジーとオリヴィエと
その後ろの方にいるランディとを写し出し、鏡の中でアンジーはオリヴィエの華麗な手さばきに
見とれていた。
 しばらく経つと、今まで触った事のナイくらいアンジーの髪はさらさらになっており
それが済むと今度は顔の手入れに、オリヴィエは取りかかった。

 ローションをつけて乳液をつけて、またマッサージをする。
自分で触ってみなくてもすぐにわかった。肌のハリが以前とは全然別物だった。
その素早い手さばきにアンジーは感心していた。


 「はぁ〜〜凄いわねー」
 「もちろんよ。こだわりがアルからね。こんな風に誰かを綺麗にするのって大好きなの私。
  下界にいたらこーいう仕事をしていたと思うわ」
 「うん。‥‥あなたにはあってるかも」
 「そ?。ありがと」


 などと、ほんわか会話をしながらオリヴィエはアンジーにマッサージを施す。
10分程経ってマッサージも終了すると、オリヴィエはアンジーに着替えを手渡して
そのまま昼食に誘った。腹を減らして座っていたランディにも。

 メニューはやっぱり美容にいいもの、体にイイモノだらけで、ランディにはほんの少し
物足りなくもしたが、その分は量を食べてオリヴィエを呆れさせていた。
アンジーが「沢山食べる人って一緒にご飯食べてて楽しいよね」なんて言うと
耳まで真っ赤にしながら俯いたり、それをオリヴィエにからかわれて違う意味でまた顔を赤くさせたり
長い時間もあっという間に過ぎた。

 食事を終えておしゃべりも弾んで陽が傾き始める頃、
アンジーがもう帰らなくては、と言い出してお開きとなった。


 「今日は本当にありがとう。見ず知らずなのにこんなよくしてもらって‥‥」
 「あら?。もう他人じゃナイでショ★。これからはいつでも遊びにきていいのよ。
  あんた、凄く綺麗だから今度は腕によりをかけてトータルコーディネートしてあげる♪
  メイクからヘアーからドレスまで。ん〜楽しみ★」
 「‥‥( ̄  ̄;」
 「社交辞令なんかじゃないからね。本当に遊びにきなさいよ!」
 「オリヴィエ様‥‥‥そーいうことは強要しない方が‥‥‥」
 「してないわよ!」
 「‥‥まぁまぁ。遊びにきます、私。いつもは忙しくて来れないけど時間できたらきっと!」
 「待ってるわよ」
 「‥‥‥あ‥‥えと‥‥」
 「ランディ、あなたの所にもお邪魔しに行ってもいい?」
 「は‥‥はいっ!。もちろんです」
 「少年‥‥そういう事は自分から誘えるようになりなさい★」


 などと、中々話もきれなかったが流石に暗くなりはじめると、アンジーは急いで帰宅についた。
それを見送ったランディも自分の屋敷に帰り、オリヴィエは二人を見送った後、屋敷の中へと戻って行った。





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それから、数日後のある日。宮殿の廊下でオリヴィエとすれ違ったディアがふと立ち止まる。


 「?。どーしたの、ディア」
 「‥‥‥オリヴィエ、香水か何かつけてます?」
 「いいや。今日はつけてないよ。昨日バスアロマにたぁ〜っぷり浸かったから
  それの残り香が薫るんじゃない?」
 「そうですか‥‥‥。この薫り‥‥‥何所かで覚えがあるんですけど‥‥どこだったかしら?」
 「このバスアロマは私のオリジナルブレンドだから、市販のものにはないはずだよ。
  前に私から薫ったのを覚えてるんじゃないの?」
 「‥‥いいえ‥‥‥あなたじゃなくて別の方で‥‥‥??。誰だったかしら?」


 その時は疑問の晴れぬまま、オリヴィエとは別れたのだが
同じ日の午後になってディアはどこであの薫りを嗅いだのかを思い出した。


 「そうよ!。陛下とお会いした時に嗅いだんだわ。
  香水とか滅多に使わないからそれで記憶に残ってたのよ!。あ〜スッキリした」


 思い出せなかった事を思い出せてスッキリしたディアは、何故オリヴィエのオリジナルブレンドの
バスアロマの薫りが女王陛下から薫っていたのか、その事には気がつかなかった。






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 とても気持ちの良い風の吹いていた日曜に、公園の草むらで昼寝をしていた女性『アンジー』は
それからも忙しい仕事の合間に時間を作っては、日の曜日にオリヴィエの屋敷に
遊びに行っていたという‥‥‥‥‥。
 新女王陛下を決める、「女王試験」が始まるまで‥‥‥。






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いやーなんとなく。オリヴィエって綺麗な人が疲れてるのって許せなさそうだから
絶対であってたらこんな事しそうだな、と。







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