フルムーン



KIEFER ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




 「ふー‥‥少し飲み過ぎたかな‥‥」


 ほんのり赤い顔をさせながらオスカーは夜の森を歩いていた。
執務を終えて夜遅くになってから、飲み友達でもあるオリヴィエの屋敷でお酒を飲んでいた帰り。
酔いをさますために、歩いて帰宅していた途中のオスカーの目の前を、ピンクの影が通り過ぎた。
幻を見る程酔ってはいない筈‥‥と、オスカーは目の端に消えたその影を追うと
そこには月明かりに照らされたディアの姿があった。


 「レディ‥‥、こんな夜更けにこんな所で何をしているのかな‥‥?」
 「オスカー‥‥!」


ディアは少し驚いたように振り返ったが、すぐにいつもの落ち着きを取り戻した。


 「いくら聖地と言えど、こんな夜更けにふらふらしてると悪い狼にさらわれちまうぜ?」
 「あら?あなたが守ってくれるのではないの?」
 「ふっ。他のレディならいざ知らず、相手がディアなら俺は迷わず狼となってさらってゆくさ‥‥」
 「‥‥お酒の匂い。飲んでいらっしゃるのね」
 「おっと‥‥酔っ払いの戯言ですまさないでくれよ。これでもかなり本気なんだぜ‥‥。
  でも今夜はぐっと堪えて紳士に徹するとしようか。さぁ、どちらへおいでですか?レディ」


 オスカーは紳士の動きで右手を胸に当てて礼をすると、その手をディアに差し出した。
しかしディアはその手を取らずに「くすり」と笑ってオスカーに笑みを向ける。


 「別に用があるわけではありませんの。ただ少し眠れなくて散歩していたところなんですのよ」
 「そうなのか‥‥。ならその夜の散歩に俺もご一緒させて頂いてよろしいかな?。
  もう少し酔いをさましてから帰りたいんでな」
 「えぇ、喜んで」


ディアはオスカーの手をとって二人は歩き出した。


 「どちらで飲んでいらしたの?」
 「何を期待しているかは知らんが、オリヴィエの所で少し飲んできた。まぁささやかな楽しみさ‥‥」
 「最近はあまり聖地を抜け出してはいらっしゃらないみたいですわね」
 「‥‥っ!」


ばれていないと思っていた悪行をさらりと指摘され、オスカーは答えに詰まってせき込んでしまった。


 「あら?もしかして気付かれていないと思っていらしたのかしら」
 「あ‥‥あぁ。まぁ‥‥」
 「ふふっ。完璧なように見えて、案外抜けてるところがあるんですわ、貴方は。
  そこが可愛いんですけれど」
 「あまり嬉しくないな、その言葉は」
 「あら。褒めたのですわ」


 そう言ってディアは、ふふ…と笑った。いつもとは違う時間に違う場所であるせいか、
ディアはいつもよりずっと饒舌だった。
オスカーはまるで子供のように、繋いだ手のぬくもりにどぎまぎしていたのに‥‥。


 「眠れないなんて、何か悩みごとでもあるのか?俺でもよければ聞き役になれるが‥‥」
 「いえ、ただ‥‥昔を思い出してしまうんですわ」


ディアはふと俯いて一瞬物悲しげに表情を崩した。


 「あの時、あぁすればよかった、こうすればよかったって後悔する事ばかり‥‥。
  今更意味のない事だとわかってはいても、後ろ向きな思考から逃れられない日もあるんですわ‥‥」
 「‥‥‥‥」


 後ろ向きな後悔‥‥。オスカーはディアの言ったその言葉に心当たりがあった。
まだ彼が聖地に来て間もない頃、一目惚れした相手には恋仲と噂される相手がいた。
根拠のない噂など信じるに値しない情報である事は知っていたが、
ディアに恋人がいる事をオスカーは知っていた。

 人知れずディアを見つめ続けたオスカーは、彼女がいつも誰を目で追っているのかを知っていた。
彼女のしぐさも笑顔も声の調子もその人物と逢った時だけ他の時と違う‥‥。
 ゼフェルの前任者である前鋼の守護聖・ライ。
彼女の言う後悔とは、きっとライが聖地を去る時にあった何かの事だろう。
あの後しばらく、ディアは随分落ち込んでいた。


 「今夜は満月だな‥‥」


オスカーは話題を変えてふと夜空を見上げた。その言葉にディアも夜空を見上げる。


 「‥‥本当。綺麗‥‥」
 「綺麗‥‥か」
 「あら?貴方は違うんですの?」
 「俺はあまり好きじゃないな。
  人には知られたくない心の奥底まで見透かされているようで‥‥少し‥‥怖い」
 「‥‥‥‥フフッ」
 「なんだ?笑う程おかしいか?」
 「いいえ。昔貴方と同じ事を言った人の事を思い出して‥‥」


二人は立ち止まり、ディアは目を細めて満月=フルムーン=を見上げた。


 「その方も、満月は人の心の醜いところを煌煌と照らし出しているようで気に食わない、
  とんだおせっかい焼きだっ!、て言っていましたわ‥‥」


 思い出の中に沈んで行きそうなディアの心を自分に向ける為に、
オスカーはいつものようにジョークで気をそらそうとした。


 「だが、美しいレディとのロマンチックな夜には、満月は欠かせないけどな」
 「まぁ!オスカーったら」


 狙った通り、ディアはくすり‥‥と笑ってオスカーの方を見た。
その笑顔が、いつもより彼女が自分に気を許してくれているような事に気を良くしたオスカーは、
ディアと繋いだ手にぎゅっと力を込めた。


 「そろそろ屋敷に帰るか‥‥」
 「そうね」
 「では、帰り道を是非エスコートさせて頂こうか」


 繋いだ手を引き寄せてディアの手の甲にキスをして、いつもの調子のまなざしで
ディアを見つめた。このパターンで落ちなかった女性はいないと断言できるほどの
オスカー自信の策だったが、ディアの反応はあっさりしたものだった。


 「えぇ。お願い致しますわ」


 それでもオスカーは今夜の出来事に十分満足していたので、
ディアの反応をそう気にする事もなく、帰り道を歩き出した。











屋敷につくとディアを、多分抜け出て来た裏口まで送った。戸を前に二人して向き合う。


 「今夜はありがとうございます。思いのほか楽しい散歩でしたわ」
 「あぁ。俺もだ。‥‥‥お休み、ディア。良い夢を」
 「貴方も‥‥‥」


そのまま二人とも動かず、妙な沈黙の間が二人の間を通り過ぎた。


 「まだ何か?」
 「レディ。俺のエスコートは屋敷の中に入るのを見届けるまでなんだがな」
 「あら、そうでしたの?。それは気付かなくてごめんなさい。
  ‥‥では、おやすみなさい。オスカー」
 「あぁ。お休み」


 ディアは振り返って扉を音をさせないようにそっと開くと、その奥へと消えて行った。
扉がしまったのを確認すると、オスカーも自分の屋敷へと足を向けて歩き出した。
その様子を扉をそっと開けて伺っていたディアは、段々遠くなるオスカーの背中に
「ありがとう」と、小さな声で呟き、再び扉を閉めた。




■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■END




第2段です。オスディア。これは全て携帯でプチプチして出来たものです。
いや〜久し振りです。この二人の伏線にあるのは「前鋼・ライとディアとの恋。悲恋」です。
その恋の痛手が完治したようでしていないディアの気持ちと、彼女を思うオスカーの気持ち。
いや〜んん、こんなに複雑にしちゃって収集つくのかなぁ‥‥‥?。
ま、気長にお待ちください。






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